彼女は戦いに赴き、僕はひとりゴーレムを造る

白河マナ

文字の大きさ
3 / 40
井戸の中

第2話 vs.スライム

しおりを挟む
 
 彼女は今日も決められた時間にやってきて僕にキスをする。
 今朝はその後、数秒間だけ抱きしめられた。何か嫌なことがあったらしい。彼女は僕と話すことはなくなってしまったけれど、キスの長さや深さ、温度や息づかい、唇の潤い具合でその時の感情を伝えてくれる。

「今日はいいゴーレムが作れそうな気がするよ」

 彼女は僕の言葉なんてまるで聞こえない様子で、立ち止まることなく工房から出ていってしまった。
 僕は気を取り直してゴーレムを造りはじめる。

「よいしょ、っと!」

 いつもよりやや多めの粘土をテーブルにどんっと置く。
 腰を入れて粘土を押し引き、体を大きく使ってこねる。粘土がかなり柔らかくなってきてから魔力を練り込むと、いつもよりも全体に魔力が行きわたっている気がした。

「うーっ! きっつーっ!」

 手首が痛い。腰もつらい。金属製のヘラをつかって粘土を縦に千切りにし、それらをまとめてまたひとつの塊に戻していく。ねりっねりっ。いつもよりも少し手ごたえが重い気がする。続いて僕は粘土を丁寧に人型に整えていく。

「よしっ!」

 少し短足かもしれないけれど重心が低い分バランスは取りやすいはず。昨日よりも左右の腕の太さも長さも均等になった。僕は仕上げとしてゴーレムの胸に赤く透明な術石を埋め込む。続いて僕はゴーレムに向かって呪文を唱える。すると術石が鈍い赤色の光を放ち、ゴーレムに命が吹き込まれる。この術石は彼女が作ってくれたものだ。彼女は高名な魔法士の弟子だと冒険者のカミルが教えてくれた。もしかしたら僕は凄い人の彼氏なのかもしれない。

「うん。今回は、なかなか良さそう」

 これまで造った中で一番のデキと言っていい。カッコいいとは到底言えないけれど、どっしりと地に足がついている。全身に厚みをつけた分、全長は昨日よりも少し低そうだ。
 このゴーレムならもしかしたらスライムを倒すことができるかもしれない。僕はできたばかりのゴーレムを台車に乗せて意気揚々と鑑定院に持ち込んだ。

「こんにちは、セーシャさん」

「いらっしゃい。今日もゴーレムの鑑定ですよね?」

「お願いします」

 鑑定院の受付嬢のセーシャさんは、少し青みがかった髪をかき上げ、鑑定装置の準備をはじめる。僕は台車をそばに移動してゴーレムを待機させた。

「バトルも一緒にお願いします。サイズはCです」

 セーシャさんに聞かれる前に必要な情報を伝える。

「ありがとうございます。さあどうぞ」

 笑顔のセーシャさんの目の前で、僕のゴーレムが鑑定台の上に立つ。音もなく鑑定装置から一枚の紙が出てきた。今回僕が持ち込んだゴーレムの鑑定証だ。

 名称:なし
 種別:人型
 LV:1
 魔力:G
 攻撃:E
 防御:E
 総合:F
 サイズ:C

 以上、鑑定結果である。

「やった!」

 攻撃と防御が2ランクも上がっている。レベルは相変わらず1だけれど。11回目にしてついにオールGを脱出したんだ! 帰ったら今日の製作過程の復習をしないと!

「それでは、バトル会場に転送しますね。前回と同じで相手はスライムですから、シュルトさんもご一緒に転送させて頂きます」

「はい」

 セーシャさんは僕とゴーレムを魔法で地下闘技場に転送してくれる。
 鑑定院の地下闘技場には7つバトルエリアがある。広さも大きさも様々で、僕がいつも転送されるのは最も狭い会場『ヤマト』。地下闘技場の中で一番広い『アトラス』では、過去にドラゴンと戦った冒険者がいたらしい。

 僕のゴーレムもいつかあそこで戦えるくらい、強くなれるのだろうか。


【彼女の魔法完成まであと335日】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...