彼女は戦いに赴き、僕はひとりゴーレムを造る

白河マナ

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井戸の中

第8話 四人の守護者

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「ここにいたのか! シュルト!」

「あれ、カミル」

 冒険者カミル=フェンネル。女性剣士だ。
 長い髪を後ろで結び、美男子と間違えられるほど凛々しい顔つき。話し方も男っぽい。鎧の隙間から日焼けした肌と引き締まった筋肉が見え、その姿からは力強さよりも鋭敏さを感じる。
 僕は地下闘技場で何度かカミルの戦いを見たことがあるけれど、凄まじい速さの剣戟で、あっという間に相手を追い詰め、喉元に片手剣の切っ先を突きつけていた。

 カミルはモンスター捕獲のプロフェッショナル。モンスターの討伐をすることもあるけれど、普段は3人の仲間と一緒に捕獲したモンスターを鑑定院に売って生計を立てている。持ち込まれたモンスターの多くは闘技場のバトルに出場することになる。
 僕とカミルは鑑定院や闘技場で何度も顔を合わせているうちに仲良くなり、カミルはスライムに負け続けていた僕のことをずっと応援してくれた。頼れる姉的な存在として会うたびにモンスターの情報や冒険の話をしてくれる。

「闘技場のレオが探してたぞ。お前、何やったんだ?」

「え、僕は……」

 ゴーレムでスノーウルフを倒しただけだ。あんなバトルをしたのが、何か大きな問題になっているのだろうか。

「アタシも一緒に行こうか?」

「ううん。大丈夫だよカミル。ありがとう」

「そういうところが子どもっぽくないんだよなぁ、シュルトは。もっと大人に甘えることを覚えろ」

 そう言われ、力強く抱きしめられる。
 僕はカミルに弟のように可愛がられている。リリアナ、ジークハルト、奥さんのルーシー、そしてカミル、僕の周りは良い人ばかりだ。

「カミルには一杯お世話になってるよ。そういえば、しばらく見かけなかったけど、どこか遠くに行ってたの?」

「ああ。サンブルク軍が編成した守護者討伐隊のバックアップとして王都のギルドに駆り出されてたんだ。いやあ、まったく酷い仕事だった」

「え? 『ネジマキ』は、山の向こうのハイレシア王国にいるんだよね」

「『ネジマキ』は大陸全体の問題だからな。ハイレシアが滅べば、次はこちらか南のトリアーナ王国か。ハイレシアの国力が低下する前に、協力し合って『ネジマキ』と守護者を叩こうというのが3国間の総意だ。それでまずは守護者から、ということで討伐隊に協力してきたんだ」

「守護者は倒せたの?」

「いや、そこそこ追い込んだらしいが他の守護者の邪魔が入って逃げられたらしい。アタシは前線にはいなかったから細かいことはわからないけど、3個中隊のうち2つの隊が全滅して、もうひとつの隊も半壊だよ」

 以前カミルから聞いたことがある。
 僕のいるサンブルク王国の軍隊の最小単位は分隊といって8人で構成されている。それを3個あつめて小隊、小隊を3個あつめて中隊、中隊を……といったように構成されているらしい。
 2個中隊が全滅、1個中隊が半壊ということは、180人は死者が出ている計算になる。

「そ、そんなに強いんですか?」

「バケモノだよ。これじゃ『ネジマキ』になんて到底たどり着けないね」

「……そうですか」

「シュルトも名前くらい知っておいた方がいい。第1のカーナ、第2のアンテノーラ、第3のトロメーア、第4のジュデッカ――これが4人の守護者の名前だ。どいつも魔法とは違った能力を持っているらしい」

「今回戦ったのはどの守護者なの?」

「ジュデッカとカーナだ。どちらも見た目はアタシたちと同じ人間らしいよ」

『ネジマキ』を守る4人の守護者。
『ネジマキ』を倒すには、先に4人をどうにかする必要がある。200人を超える軍隊でも歯が立たないのなら、いまの僕のゴーレムでは何の役にも立たない。

 それとも僕のゴーレムやリリアナの大魔法が完成する前に、軍隊や冒険者によって『ネジマキ』や守護者は討伐されてしまうのだろうか。英雄クラスの冒険者――この世界に数組しかいないと言われるS冠エスクラウンの称号を持つ彼らなら、『ネジマキ』を倒すこともできるのではないか。


【彼女の魔法完成まであと332日】
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