放置された公爵令嬢が幸せになるまで

アイネス・カンラダは放置されている

　私、アイネス・カンラダは公爵令嬢らしい。

　らしい、というのは私自体自覚が全く無いのだ。

　というのも物心ついた頃から私は両親の顔を見た事が無い。

　親だと思っていた人が乳母で両親から『私が大きくなるまで育ててほしい』と頼まれたらしい。

　私が現在住んでいるのは敷地内の片隅にある木造の小屋で屋敷には一度も踏み入れた事は無い。

　どうも兄や妹もいるみたいだけど顔も名前も知らない。

　私が状況を理解できる様になってからは乳母も出ていき一人で暮らしている。

　当然ながら食事とかも一人でやらなきゃいけない訳で小屋の近くに畑を作り野菜を育てている。

　お肉はたまに屋敷から支給されるけどそれも不定期でいつになるかはわからない。

　掃除洗濯家事は乳母から教えてもらいある程度の事は出来る。

　本当に公爵令嬢だったらメイドとか執事とかがついている筈なんだけどなぁ……。

　でも追い出される事もなくこうして暮らしている、という事は多分私はこの家の関係者なんだろうなぁ、と思う。

　そんな日々を過ごしていたある日、屋敷の方が騒がしかった。

　窓から覗いてみると荷物とかを運び出している。

　もしかして引っ越すかな、と思って見ていると中から多分兄と妹らしき人物を見た。

　綺麗に着飾っていて美男美女というのはこういう事を言うんだなぁ、と思う。

　それ以来、屋敷から人の気配が無くなった。

　あ、私置いてけぼりにされた、と気づくにはそんなに時間がかからなかった。

　後で領民に聞いたら兄が王都にある騎士学院に入学する為に王都のタウンハウスに向かった、との事。

　いや、それは良いけどメイドや執事も連れて行くのはどうなの？

　本当に私の事なんてどうでも良いんだなぁ、と改めて思った。

　まぁ私も好きな様に過ごさせてもらうよ。