交響曲;ヴィルゲーテ

瀬那ルキ

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序章

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 「急いでっ、みんな!」
 扉を勢いよく開け放って、私ことアイシュ・クラウスフィオは声を張り上げる。
 今までに私があげたことの無い大声に、みんなは慌てたように玄関に集う。
 私はみんなの目の前で、布で隠されていた少年の顔を晒して続けた。
 「樹海もりに男の子が捨てられていたの」
 と。
 様々な反応を見せるみんなを制し、人だかりをかき分けるようにして、低身長の集落のおさが、私が抱える少年を覗き込む。
 「この人間ヒューマン、妙じゃな」
 幼い声を怪訝の色に染めて、長はこめかみを抑える。幻痛を感じたように深い溜息をつきながら。
 「生まれてすぐの子供に刻むはずの刻印がない」
 人間は決まりとして、出産後体のどこかに刻印を刻む。
 それは人間である証で、生きて良いという生存認証でもある。
 「みな家に帰れ。これはわしがどうにかしよう」
 私は少年を長に手渡し、命令に従う。


 みなが家もしくは持ち場に戻ったことを確認し、長ーージル・アルハイデンは深いため息を吐く。
 「数年に1度と聞いたが、わしの代で来るとはな」
 くぅくぅと寝息をたてる少年の額を撫で、ジル改めエルフの里の長はこれからの事を危惧して憂いに顔を染める。
 「迷い子……神が捨てたとされるヒューマンの、か………」

 

 

 
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