この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ

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番外編

番外編 続・王都デート(要りません!!)

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 因みにだが、先程買ったドレスの内2点は私の好みを反映させて貰った。
 黒を基調としたシックで大人な雰囲気を与えるものと、大人な雰囲気を持ちつつも可愛いらしさも同時に兼ね備えたまさに『大人可愛い』を実現させたようなパープル色のもの。
 そのどちらも私の年齢に見合ったようなデザイン性を選んだつもりだった。
 でも、いざ試着してみて鏡に映った3パターンの自分のドレス姿を見た時に感じた事。
 それは、意外と最初に旦那様から薦められた白と水色のドレス姿が一番良く映ってしまった事。

 アレを着た自分に自画自賛って、もしかして私ってかなりのイタイおばさん?

 そんな、ちょっぴり悲観的な事を考えていると、
 
「よし、じゃあ次は宝石だな」
 
「ほ、宝石!?」

 またしても平民の私には無縁だと思っていた代物が旦那様の口から飛び出し、私は驚きの表情で振り向いた。

「そうだ。宝石だ。ん?なんだ、嫌か?」

 宝石なんてただ高価なだけで、何の役にもたたない『ただ綺麗な石』という認識の貧乏育ちの私はその価値が理解できていない。

「因みに宝石って幾らくらいするものなのですか?」

「うーん。俺も宝石を買った経験は無いからな。ただ、安い買い物では無いのは確かだな。ドレスとは比にならぬ程に」

 ひぇー、恐ろしい。

「それって貴族になる為に絶対に必要な物なんですか?」

 旦那様は不思議そうな顔を顰め、私の問い掛けに答えた。

「いや。そういうわけじゃないが、女は光り物、つまりは宝石が好きだというのが世の常だろう?だから愛するエミリアへ、俺との結婚を決意してくれた事への感謝の意を込めて宝石を贈りたいと考えたのだが……」

「いえ、私は宝石など要りません! 私の為にそんな莫大なお金を使うくらいなら、そのお金はギルバード領の貧困層へ配る『生活援助金』の増額に充てて下さい!」

 私の訴えに旦那様はふっと笑みを浮かべ、「そういう事か」と呟いた後、更に続けた。

「さすが、俺が惚れた女だな。つくづく君のような女性と結婚出来る事を幸せに思う」

 旦那様の顔には『惚れ直した!』と言わんばかりの笑みが浮かんでおり、それを見て私も嬉しい気持ちになる。

「旦那様のそのお気持ち、私も嬉しいです。 私は旦那様の、領民の事を何よりも大切に一番に考えるそのお心遣いに惹かれました。私の事を愛してくださる事は嬉しい限りではありますが、私の為にそんな莫大な私財を尽くす事は理解できません。私の為に使うそのようなお金があるのならば、そのお金は是非、領民の為に使って頂きたい。私は旦那様の側に居られるだけで幸せなのです。どうか、私にとって一番大好きな旦那様であり続けて下さい。領民の幸せの為に奮闘する旦那様の、そのかっこいいお姿を私にもっと見せて下さい」

 そう言って微笑む私に旦那様も同じような表情を見せる。

「そうだな。君の言う通りだ。俺はエミリアの事をみくびっていたようだ。君の気を引きたい、その思いから知らず、俺はエミリアの理想から離れようとしていたようだ。それに、そもそも贅沢品で気が引けるほど安い女では無かったな。エミリアは」

「そうですね。宝石くらいじゃ私は釣れませんよ? 私の気を引きたいならばギルバード領から『貧困層』という言葉を無くして下さい。そして全領民が幸せに暮らせるようにして下さい」

「まったく、金の掛かる女だ。しかし、君の理想の男であり続ける為に……いや、何より領民達の為に、これからも俺は全力で働く。それに、エミリアのその願いは俺の悲願でもあるからな。ただ、その道のりは遠く険しい。もしも、俺が挫けそうになった時、その時には俺の支えになって欲しい。頼めるか?」

「はい!もちろんです!むしろ、その為の私です!」

「ふっ、頼もしいな。では、日も暮れてきた事だし、そろそろ帰るか」

 ふと周囲に意識を飛ばすと、いつの間にか王都の街並みは夕焼け色に染まり、街の喧騒も落ち着いたものへ移行しようとしてた。

「そうですね。帰りましょう!」

 帰りの馬車の中、外の景色を眺める旦那様のその横顔を見つめ、私は何とも言い難い幸福感に包まれるのだった。
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