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「死なないで!お願い!私の事好きだって言ってくれたじゃない!! 死なせない……絶対に死なせないんだから!!」
至近距離から聞こえるのは何度も夢の中で聞いた美しい声音。
そして、胸の辺りをじんわり包み込むような心地よい暖かみを感じつつ、ヴィルドレットは瞼をゆっくり開ける。
仰向けの体制で後頭部を支えるのは『終焉の魔女』の太腿。
黒装束越しではあるが彼女の身体に触れている事に胸が高鳴る。そして何よりヴィルドレットの関心を惹きつけたのは――
ヴィルドレットの視線上、見上げる先にあったのはこちらを見つめる『終焉の魔女』の泣き顔。
これまで彼女の顔をひた隠しにしてきたつば広帽子も膝枕の体制からではその効果も無効化。
思った通り――いや、想像を遥かに超える美しい容貌がそこにあった。
無造作と言うべきか、少しだけウェーブ掛かった銀髪は顎の位置辺りまでのショートヘアー。
整った顔立ちは所謂、美人と言うよりかは見る者に癒しを与えるような幼さを残した美しさ。
そして、最も特徴的なのはその左右異なる瞳色。右は淡い桃色で、左は空よりも淡く美しい水色。
『終焉の魔女』はまさに文字通り、見た事の無い程の美貌の持ち主だった。
『終焉の魔女』は、気が付いたヴィルドレットへ呼び掛けるように叫ぶ。
「頑張って!!今、治癒魔法かけてるから! 大丈夫!絶対に死なせないから!」
己の命を繋ぎ止めようと必死の彼女を見上げるヴィルドレットはふと、周りの景色が変わっている事に気付く。
家の中……その景色は朧げに知っているような気がした。
視線を彼女から一旦外し、頭を右横に向けて見る。そこにあったのは遥か昔――生まれる前から知っていたかのような見覚えある暖炉があり、更にその他にも見覚えのある家具とその配置……
ヴィルドレットは再び『終焉の魔女』の顔へ視線を戻し――
『シャルナ』。
ふと、ヴィルドレットの頭に浮かんだ名前。そして、それは目の前の彼女名前だった事を同時に思い出す。
ヴィルドレットは全てを思い出した。
夢で声を聞くのみで顔も知らない実在しないとさえ思っていた彼女に、何故あれほどまで恋焦がれていたのか……その謎がようやく解かれた。
――前世の頃から愛していたのだ。
ヴィルドレットは己が猫として生きていた事を思い出す。名前は『クロ』。
クロは知っていた。
彼女にとって己が唯一の拠り所で特別な存在とされていた事。愛されたいた事。でも……それはあくまで『猫』として愛されていた事。
そんな彼女は『人』との繋がりを欲していた事。『人』と言葉を交わしたかった事。『人』と支え合って生たいと願っていた事。『人』から愛して欲しかった事。
――『人』と結婚したかった事。
だからクロは『猫』として生まれた事を呪い、彼女の悲しみを含んだ笑顔を変えてやれない事を悔み、『人』を羨んだ。
だから心底願ったのだ。
――ニンゲンになりたいと。そして、彼女を――シャルナを幸せにしたいと。
「き、き、君はの名は……シャ……ルナ?」
「喋らないで!! って……え……?なんで、私の名前を……」
ヴィルドレットは『終焉の魔女』――シャルナの治癒魔法のおかげもあり、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「……俺だよ……クロ……だよ」
「……え?」
さっきまでの必死の形相とは打って変わり、シャルナは呆気にとられた顔でヴィルドレットを見つめる。
「き、君の……旦那さん……なる為……に、人間に……」
「そ、そんな……あなた、クロなの?」
「――――」
シャルナの問いに頷くヴィルドレット。
「――まさか……私の……私の為に人間に生まれ変わってくれたの?」
再び頷くヴィルドレット。
「君の……事を……愛し、てる……ずっと、前……から」
シャルナの目から大粒の涙がボロボロと溢れ出し、それは次々にヴィルドレットの頬に落ちいく。
「だ、だから……俺は人間に……」
シャルナは崩れ落ちるようにヴィルドレットの額に己の額を当てて、声を上げて泣いた。
「……そっか……そうだったんだ……ごめんね……私、クロの気持ち知らなかったよ……辛かったよね……ありがとう……クロ……」
世界中から疎まれる中、唯一自分の事を愛し、そんな自分の為に人間として生まれてきてくれた事に感謝の意を込めてシャルナは、ヴィルドレットにキスをした。
その感謝の心は重ねられた唇を通してヴィルドレットに届き、ヴィルドレットもまた涙する。
己が猫だった時のシャルナへ対する切ない恋心が報われた気がした。
――もう……充分。 ごめんな……シャルナ……俺、君とキス出来て、それだけで満足してしまったよ。本当に勝手ながら君を幸せにする使命は果たせそうに無さそうだ。 大丈夫。これからもずっと君の事を好きでい続けるから……だから、その使命は次に持ち越しって事でいいかい?
ヴィルドレットはシャルナとのキスを交わしたまま、ゆっくり目を閉じて、逝った。
至近距離から聞こえるのは何度も夢の中で聞いた美しい声音。
そして、胸の辺りをじんわり包み込むような心地よい暖かみを感じつつ、ヴィルドレットは瞼をゆっくり開ける。
仰向けの体制で後頭部を支えるのは『終焉の魔女』の太腿。
黒装束越しではあるが彼女の身体に触れている事に胸が高鳴る。そして何よりヴィルドレットの関心を惹きつけたのは――
ヴィルドレットの視線上、見上げる先にあったのはこちらを見つめる『終焉の魔女』の泣き顔。
これまで彼女の顔をひた隠しにしてきたつば広帽子も膝枕の体制からではその効果も無効化。
思った通り――いや、想像を遥かに超える美しい容貌がそこにあった。
無造作と言うべきか、少しだけウェーブ掛かった銀髪は顎の位置辺りまでのショートヘアー。
整った顔立ちは所謂、美人と言うよりかは見る者に癒しを与えるような幼さを残した美しさ。
そして、最も特徴的なのはその左右異なる瞳色。右は淡い桃色で、左は空よりも淡く美しい水色。
『終焉の魔女』はまさに文字通り、見た事の無い程の美貌の持ち主だった。
『終焉の魔女』は、気が付いたヴィルドレットへ呼び掛けるように叫ぶ。
「頑張って!!今、治癒魔法かけてるから! 大丈夫!絶対に死なせないから!」
己の命を繋ぎ止めようと必死の彼女を見上げるヴィルドレットはふと、周りの景色が変わっている事に気付く。
家の中……その景色は朧げに知っているような気がした。
視線を彼女から一旦外し、頭を右横に向けて見る。そこにあったのは遥か昔――生まれる前から知っていたかのような見覚えある暖炉があり、更にその他にも見覚えのある家具とその配置……
ヴィルドレットは再び『終焉の魔女』の顔へ視線を戻し――
『シャルナ』。
ふと、ヴィルドレットの頭に浮かんだ名前。そして、それは目の前の彼女名前だった事を同時に思い出す。
ヴィルドレットは全てを思い出した。
夢で声を聞くのみで顔も知らない実在しないとさえ思っていた彼女に、何故あれほどまで恋焦がれていたのか……その謎がようやく解かれた。
――前世の頃から愛していたのだ。
ヴィルドレットは己が猫として生きていた事を思い出す。名前は『クロ』。
クロは知っていた。
彼女にとって己が唯一の拠り所で特別な存在とされていた事。愛されたいた事。でも……それはあくまで『猫』として愛されていた事。
そんな彼女は『人』との繋がりを欲していた事。『人』と言葉を交わしたかった事。『人』と支え合って生たいと願っていた事。『人』から愛して欲しかった事。
――『人』と結婚したかった事。
だからクロは『猫』として生まれた事を呪い、彼女の悲しみを含んだ笑顔を変えてやれない事を悔み、『人』を羨んだ。
だから心底願ったのだ。
――ニンゲンになりたいと。そして、彼女を――シャルナを幸せにしたいと。
「き、き、君はの名は……シャ……ルナ?」
「喋らないで!! って……え……?なんで、私の名前を……」
ヴィルドレットは『終焉の魔女』――シャルナの治癒魔法のおかげもあり、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「……俺だよ……クロ……だよ」
「……え?」
さっきまでの必死の形相とは打って変わり、シャルナは呆気にとられた顔でヴィルドレットを見つめる。
「き、君の……旦那さん……なる為……に、人間に……」
「そ、そんな……あなた、クロなの?」
「――――」
シャルナの問いに頷くヴィルドレット。
「――まさか……私の……私の為に人間に生まれ変わってくれたの?」
再び頷くヴィルドレット。
「君の……事を……愛し、てる……ずっと、前……から」
シャルナの目から大粒の涙がボロボロと溢れ出し、それは次々にヴィルドレットの頬に落ちいく。
「だ、だから……俺は人間に……」
シャルナは崩れ落ちるようにヴィルドレットの額に己の額を当てて、声を上げて泣いた。
「……そっか……そうだったんだ……ごめんね……私、クロの気持ち知らなかったよ……辛かったよね……ありがとう……クロ……」
世界中から疎まれる中、唯一自分の事を愛し、そんな自分の為に人間として生まれてきてくれた事に感謝の意を込めてシャルナは、ヴィルドレットにキスをした。
その感謝の心は重ねられた唇を通してヴィルドレットに届き、ヴィルドレットもまた涙する。
己が猫だった時のシャルナへ対する切ない恋心が報われた気がした。
――もう……充分。 ごめんな……シャルナ……俺、君とキス出来て、それだけで満足してしまったよ。本当に勝手ながら君を幸せにする使命は果たせそうに無さそうだ。 大丈夫。これからもずっと君の事を好きでい続けるから……だから、その使命は次に持ち越しって事でいいかい?
ヴィルドレットはシャルナとのキスを交わしたまま、ゆっくり目を閉じて、逝った。
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