28 / 92
二十八話 憧れが恐れ、刺激を受ける存在
しおりを挟む
ロウスに諭され、その後主であるクランドにさり気なく気を使われたことに気付き、改めて自分は焦り過ぎていたのだと実感。
(焦れば、クランド様を悲しませるかもしれない……切り替えなければ)
クランドは気にすることはないが、従者であるリーゼは主人であるクランドに気を使わせてはならない。
その気持ちが強くなり、自己管理への意欲が高まった。
「リーゼ、何か困ったことがあれば、周囲の人間に相談するんだぞ。勿論、クランド様に相談するのもありだ」
「ッ!!??」
クランドに気を使わせないように気を付けよう……そう決めてから数日後、その心を見透かす様な言葉を師から向けられた。
「クランド様だって、なんでも出来る超人じゃないんだ。お前が隠し事をしていれば、そのまま気付かない事だって十分あり得る」
「しかし、従者としては主人に気を使わせないことが重要だと思うのですが」
「普通の貴族が主人なら、その考えでも良いだろうな。だが、お前が仕える主人のことを思い出してみろ」
言われるがままに思い出し……リーゼはロウスの言葉に、深く納得した。
「隠すべき、ではないかもしれませんね」
「そうだろ。本当に自力で解決出来る内容ならともかく、少しでも無理かもしれない……そう思う問題を抱えたら、迷わず相談すべきだろう」
ロウスも何でも出来て、何でも解る超人ではない。
しかし、人生を軽々してきた年数だけならば、リーゼやクランドよりも上。
リーゼは改めて、自分はまだまだ未熟だと痛感。
年齢を考えれば当然だが、本人は少しでも前に進みたいため、諦めずにアップデートを続けていく。
そんな優秀だがまだまだ未熟なリーゼが悪戦苦闘している中、クランドの弟と妹であるアスクとアルネは、歳が近い友人たちと優雅にお茶会を楽しんでいた。
会話の中にはマウント合戦も少々あるが、それでも二人にとっては悪くない時間。
そんな会話の中で、自分たちの兄であるクランドの話が上がった。
「アスクは、クランドさんに稽古を付けてもらったりしてるのかい」
同性代の中では、トップと言える実力を持つアスク。
しかし、実際に見たことがないとはいえ、アスクの兄であるクランドもただ者ではない、度々耳にする。
「……そうだね。偶に手合わせしてもらうことはあるよ」
質問してきた令息の表情に、クランドに対する侮蔑がないことを確認し、アスクは会話を続けた。
「やはり、アスクでも苦戦するのかい?」
「苦戦? そんな訳ないだろう……まだ、一本も取れたことがないよ」
この言葉に、質問した令息だけではなく、その他の令息や令嬢たちはせき込み、中には思わず紅茶を吹き出しそうになった者もいた。
「ごほっ、ごほっ! ふぅーー、失礼した。と、ところで……その話は、本当なのかい」
「あぁ、本当だよ。そうだよね、アルネ」
「そうですね。最近は良い勝負になってきていると思いますが」
「それはクランド兄さんが、僕の本当の全力を受け止めてくれるだけの力があるからだよ」
偶にクランドに模擬戦を挑んでは、基本的に有効打を与えられずに終わっていた。
そこで、アスクは兄に、戦意や殺気全開の状態で挑んでも良いかと尋ねた。
クランドが朱色の美しい髪を持つ現役騎士、フェリスに挑んでいた時と同じ状態で挑む。
その状態で挑まなければ、本当に攻撃を掠らせることすら難しくなってくる。
この一件危険な頼みを、数秒ほど悩みはしたが、クランドは了承。
その日からアスクにとっては超本気……ほぼ殺す気で兄に挑むが、クランドはそれを嬉々として対応。
「アスク程の実力者が、本気になってようやく良い勝負、なのか」
「そうだね。クランド兄さんの実力は、ロ二アス兄さんですら恐れていたというか、良い刺激になると言ってたかな」
現ライガー家の当主であるオルガが、必ず自身を超える傑物だと豪語する令息。
歳が六つか七つほど離れている者たちにとっては、既に憧れの存在。
その憧れの存在が恐れ、刺激を受ける相手。
殆ど社交界に顔を出すことがなくなったため、子供たちの間で勝手にクランドに対する妄想が膨らんでいく。
「く、クランド様には、まだ婚約者がいらっしゃらないのよね」
令嬢たちにとって、強いというのはそれだけで魅力的な存在。
身分も伯爵家の三男ということもあり、申し分ない。
既に個人で大きな財産を所有している為、超優良物件……という考えは、一応間違ってはいない。
間違ってはいないが、クランドは他の部分も普通ではない。
「いないね。でも、あまりそういう事を望まない方が良いよ」
「それはどうしてでしょうか?」
あまり社交界に顔を出さなくなったが、気性が荒かったり傲慢で不潔、などの悪評はない。
一部の人間はクランドに難癖を付ける者もいるが、多くの者は嫉妬からくる嘘だと解っている。
「クランド兄さんの道は、騎士ではなく冒険者。ある程度安定した生活ではなく、強者との緊張感あるバトル、ワクワクが止まらない冒険を求めているんだ。これだけで、望まない方が良いという僕の言葉が解るよね」
令嬢たちは一斉に頷いた。
他にお勧めしない理由はあるが、一般的な令嬢ではクランドが嫁に欲しいと望む条件を満たす者はいなかった。
(焦れば、クランド様を悲しませるかもしれない……切り替えなければ)
クランドは気にすることはないが、従者であるリーゼは主人であるクランドに気を使わせてはならない。
その気持ちが強くなり、自己管理への意欲が高まった。
「リーゼ、何か困ったことがあれば、周囲の人間に相談するんだぞ。勿論、クランド様に相談するのもありだ」
「ッ!!??」
クランドに気を使わせないように気を付けよう……そう決めてから数日後、その心を見透かす様な言葉を師から向けられた。
「クランド様だって、なんでも出来る超人じゃないんだ。お前が隠し事をしていれば、そのまま気付かない事だって十分あり得る」
「しかし、従者としては主人に気を使わせないことが重要だと思うのですが」
「普通の貴族が主人なら、その考えでも良いだろうな。だが、お前が仕える主人のことを思い出してみろ」
言われるがままに思い出し……リーゼはロウスの言葉に、深く納得した。
「隠すべき、ではないかもしれませんね」
「そうだろ。本当に自力で解決出来る内容ならともかく、少しでも無理かもしれない……そう思う問題を抱えたら、迷わず相談すべきだろう」
ロウスも何でも出来て、何でも解る超人ではない。
しかし、人生を軽々してきた年数だけならば、リーゼやクランドよりも上。
リーゼは改めて、自分はまだまだ未熟だと痛感。
年齢を考えれば当然だが、本人は少しでも前に進みたいため、諦めずにアップデートを続けていく。
そんな優秀だがまだまだ未熟なリーゼが悪戦苦闘している中、クランドの弟と妹であるアスクとアルネは、歳が近い友人たちと優雅にお茶会を楽しんでいた。
会話の中にはマウント合戦も少々あるが、それでも二人にとっては悪くない時間。
そんな会話の中で、自分たちの兄であるクランドの話が上がった。
「アスクは、クランドさんに稽古を付けてもらったりしてるのかい」
同性代の中では、トップと言える実力を持つアスク。
しかし、実際に見たことがないとはいえ、アスクの兄であるクランドもただ者ではない、度々耳にする。
「……そうだね。偶に手合わせしてもらうことはあるよ」
質問してきた令息の表情に、クランドに対する侮蔑がないことを確認し、アスクは会話を続けた。
「やはり、アスクでも苦戦するのかい?」
「苦戦? そんな訳ないだろう……まだ、一本も取れたことがないよ」
この言葉に、質問した令息だけではなく、その他の令息や令嬢たちはせき込み、中には思わず紅茶を吹き出しそうになった者もいた。
「ごほっ、ごほっ! ふぅーー、失礼した。と、ところで……その話は、本当なのかい」
「あぁ、本当だよ。そうだよね、アルネ」
「そうですね。最近は良い勝負になってきていると思いますが」
「それはクランド兄さんが、僕の本当の全力を受け止めてくれるだけの力があるからだよ」
偶にクランドに模擬戦を挑んでは、基本的に有効打を与えられずに終わっていた。
そこで、アスクは兄に、戦意や殺気全開の状態で挑んでも良いかと尋ねた。
クランドが朱色の美しい髪を持つ現役騎士、フェリスに挑んでいた時と同じ状態で挑む。
その状態で挑まなければ、本当に攻撃を掠らせることすら難しくなってくる。
この一件危険な頼みを、数秒ほど悩みはしたが、クランドは了承。
その日からアスクにとっては超本気……ほぼ殺す気で兄に挑むが、クランドはそれを嬉々として対応。
「アスク程の実力者が、本気になってようやく良い勝負、なのか」
「そうだね。クランド兄さんの実力は、ロ二アス兄さんですら恐れていたというか、良い刺激になると言ってたかな」
現ライガー家の当主であるオルガが、必ず自身を超える傑物だと豪語する令息。
歳が六つか七つほど離れている者たちにとっては、既に憧れの存在。
その憧れの存在が恐れ、刺激を受ける相手。
殆ど社交界に顔を出すことがなくなったため、子供たちの間で勝手にクランドに対する妄想が膨らんでいく。
「く、クランド様には、まだ婚約者がいらっしゃらないのよね」
令嬢たちにとって、強いというのはそれだけで魅力的な存在。
身分も伯爵家の三男ということもあり、申し分ない。
既に個人で大きな財産を所有している為、超優良物件……という考えは、一応間違ってはいない。
間違ってはいないが、クランドは他の部分も普通ではない。
「いないね。でも、あまりそういう事を望まない方が良いよ」
「それはどうしてでしょうか?」
あまり社交界に顔を出さなくなったが、気性が荒かったり傲慢で不潔、などの悪評はない。
一部の人間はクランドに難癖を付ける者もいるが、多くの者は嫉妬からくる嘘だと解っている。
「クランド兄さんの道は、騎士ではなく冒険者。ある程度安定した生活ではなく、強者との緊張感あるバトル、ワクワクが止まらない冒険を求めているんだ。これだけで、望まない方が良いという僕の言葉が解るよね」
令嬢たちは一斉に頷いた。
他にお勧めしない理由はあるが、一般的な令嬢ではクランドが嫁に欲しいと望む条件を満たす者はいなかった。
21
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる