カバディ男の異世界転生。狩られたい奴はかかってこい!!

Gai

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二十八話 憧れが恐れ、刺激を受ける存在

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ロウスに諭され、その後主であるクランドにさり気なく気を使われたことに気付き、改めて自分は焦り過ぎていたのだと実感。

(焦れば、クランド様を悲しませるかもしれない……切り替えなければ)

クランドは気にすることはないが、従者であるリーゼは主人であるクランドに気を使わせてはならない。
その気持ちが強くなり、自己管理への意欲が高まった。

「リーゼ、何か困ったことがあれば、周囲の人間に相談するんだぞ。勿論、クランド様に相談するのもありだ」

「ッ!!??」

クランドに気を使わせないように気を付けよう……そう決めてから数日後、その心を見透かす様な言葉を師から向けられた。

「クランド様だって、なんでも出来る超人じゃないんだ。お前が隠し事をしていれば、そのまま気付かない事だって十分あり得る」

「しかし、従者としては主人に気を使わせないことが重要だと思うのですが」

「普通の貴族が主人なら、その考えでも良いだろうな。だが、お前が仕える主人のことを思い出してみろ」

言われるがままに思い出し……リーゼはロウスの言葉に、深く納得した。

「隠すべき、ではないかもしれませんね」

「そうだろ。本当に自力で解決出来る内容ならともかく、少しでも無理かもしれない……そう思う問題を抱えたら、迷わず相談すべきだろう」

ロウスも何でも出来て、何でも解る超人ではない。

しかし、人生を軽々してきた年数だけならば、リーゼやクランドよりも上。
リーゼは改めて、自分はまだまだ未熟だと痛感。

年齢を考えれば当然だが、本人は少しでも前に進みたいため、諦めずにアップデートを続けていく。

そんな優秀だがまだまだ未熟なリーゼが悪戦苦闘している中、クランドの弟と妹であるアスクとアルネは、歳が近い友人たちと優雅にお茶会を楽しんでいた。

会話の中にはマウント合戦も少々あるが、それでも二人にとっては悪くない時間。
そんな会話の中で、自分たちの兄であるクランドの話が上がった。

「アスクは、クランドさんに稽古を付けてもらったりしてるのかい」

同性代の中では、トップと言える実力を持つアスク。
しかし、実際に見たことがないとはいえ、アスクの兄であるクランドもただ者ではない、度々耳にする。

「……そうだね。偶に手合わせしてもらうことはあるよ」

質問してきた令息の表情に、クランドに対する侮蔑がないことを確認し、アスクは会話を続けた。

「やはり、アスクでも苦戦するのかい?」

「苦戦? そんな訳ないだろう……まだ、一本も取れたことがないよ」

この言葉に、質問した令息だけではなく、その他の令息や令嬢たちはせき込み、中には思わず紅茶を吹き出しそうになった者もいた。

「ごほっ、ごほっ! ふぅーー、失礼した。と、ところで……その話は、本当なのかい」

「あぁ、本当だよ。そうだよね、アルネ」

「そうですね。最近は良い勝負になってきていると思いますが」

「それはクランド兄さんが、僕の本当の全力を受け止めてくれるだけの力があるからだよ」

偶にクランドに模擬戦を挑んでは、基本的に有効打を与えられずに終わっていた。

そこで、アスクは兄に、戦意や殺気全開の状態で挑んでも良いかと尋ねた。
クランドが朱色の美しい髪を持つ現役騎士、フェリスに挑んでいた時と同じ状態で挑む。

その状態で挑まなければ、本当に攻撃を掠らせることすら難しくなってくる。
この一件危険な頼みを、数秒ほど悩みはしたが、クランドは了承。

その日からアスクにとっては超本気……ほぼ殺す気で兄に挑むが、クランドはそれを嬉々として対応。

「アスク程の実力者が、本気になってようやく良い勝負、なのか」

「そうだね。クランド兄さんの実力は、ロ二アス兄さんですら恐れていたというか、良い刺激になると言ってたかな」

現ライガー家の当主であるオルガが、必ず自身を超える傑物だと豪語する令息。

歳が六つか七つほど離れている者たちにとっては、既に憧れの存在。
その憧れの存在が恐れ、刺激を受ける相手。

殆ど社交界に顔を出すことがなくなったため、子供たちの間で勝手にクランドに対する妄想が膨らんでいく。

「く、クランド様には、まだ婚約者がいらっしゃらないのよね」

令嬢たちにとって、強いというのはそれだけで魅力的な存在。
身分も伯爵家の三男ということもあり、申し分ない。

既に個人で大きな財産を所有している為、超優良物件……という考えは、一応間違ってはいない。

間違ってはいないが、クランドは他の部分も普通ではない。

「いないね。でも、あまりそういう事を望まない方が良いよ」

「それはどうしてでしょうか?」

あまり社交界に顔を出さなくなったが、気性が荒かったり傲慢で不潔、などの悪評はない。
一部の人間はクランドに難癖を付ける者もいるが、多くの者は嫉妬からくる嘘だと解っている。

「クランド兄さんの道は、騎士ではなく冒険者。ある程度安定した生活ではなく、強者との緊張感あるバトル、ワクワクが止まらない冒険を求めているんだ。これだけで、望まない方が良いという僕の言葉が解るよね」

令嬢たちは一斉に頷いた。

他にお勧めしない理由はあるが、一般的な令嬢ではクランドが嫁に欲しいと望む条件を満たす者はいなかった。
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