29 / 167
第29話 もっと貪欲に
しおりを挟む
「そして、これは考えに関するアドバイスではなく、冒険者としての個人的なアドバイスです」
カイン・ルナリアスは強い。
現時点で、得物のぶつかり合いとなると、技術力では負けるという確信に近い感覚があった。
それでも……一つだけで、アストに出来るアドバイスがあった。
「もっと、戦闘に関して貪欲に学べば、こえから先救える命が多くなるかもしれません」
「貪欲に学ぶ、ですか」
「はい。戦いというのは、敵を倒すだけでは完結はしません。後ろに守るべき存在などがいる場合は特に」
「守りながら勝つ方法が必要になる、という訳ですね」
理解が早くて助かると思いながら、助言を続ける。
「その通りです。どう守るか……そういった物事に目を向けると、貴族の令息であるカイン様であれば色々と頭に考えが浮かばれるでしょう。勝つことも、守ることも単純ではない…………既にご理解しているかもしれませんが、大事な事かと思い、伝えさせていただきました」
「……店主よ、そんな事はありません。先程とあなたが教えて頂いた通り、他人に伝えられなければ、そういった知っていた筈の知識、常識を思い出せません。あなたのお陰で……心が晴れました」
「そう言って頂けると、幸いです」
カインはまだ残っていたラムコークを飲み干し……広がる甘い後味がもう一度アストからのアドバイスを反芻させる。
(私は……今よりも更に強くなる。そして広く、深く知識を得る。今学べる物を全て学ぼう!!!! 貪欲に、強くなろう)
黒く大きなモヤモヤを晴らしてくれて店主、アストの為にともう数種類、料理かカクテルを頼もうと思ったが、一旦懐中時計を確認したカインの顔が……少し面白いほど青くなった。
「っ!!!! す、済まない店主。本当はもう少しあなたのカクテルを呑みたかったのだが」
「門限ですね。お強いとはいえ、それなりに吞まれてますので、走るのでなく早歩きで戻られた方がよろしいかと」
「そうさせてもらう! では、また呑ませてもらいます!!!」
慌てて代金を支払い、アストに言われた通り早歩きで退店したカイン。
その後、彼はややフラフラしながらも、誰かに衝突することなく無事門限に間に合った。
ただ…………トイレに入った瞬間、盛大に吐いてしまった。
「……ちょっと遠いんだよな~~」
カイン・ルナリアスという学生の客が訪れてから数日後、アストは冒険者ギルドのクエストボード前で悩んでいた。
街から少し離れた場所にもモンスターはちらほらいる。
しかし、少し遠出した方が金になるモンスターが生息している。
だが……夜はバーテンダーとして働きたい、本業であるバーテンダーとしての活動が重要であるアストとしては、街から街への移動以外で野営をしたくない。
(金にはまだ全然余裕あるけど……ん~~~~~~)
ネットスーパーのお陰で、アストは調味料系のこの世界では価値が高い物を販売し、一時大金を稼いでいた。
しかし、その当初から関係を続けているのは一つのかなり力を持っている商会のみ。
諸々の利益を考えた場合、安易に他の商会に調味料を買い取ってもらおうとはしない。
(それに、金になるモンスターがそれなりにいる場所まで行くと、Bランクとか面倒なモンスターに遭遇する可能性あるよな……)
モンスターの死体を丸ごと持って帰ってこれるアストにとって、Bランクモンスターの方が当然金になるが、Cランクのモンスターだけでも十分金になる。
名誉よりも当然、自身の命の方が大切なアスト。
「よぅ、バーテンダー。何悩んでるんだ」
いきなり声を掛けてきた男は、アストがこの街に来てから客であり、同業者。
「ちょっと遠出しようか悩んでるんですよ」
「あぁ~~~、なるほどな。確かに近場だと、あんまり金になる依頼はねぇもんな」
「そうなんですよ」
無理して強いモンスターと戦う必要はないと考えているアストだが、それなりに強い者との経験自体は必要であり、多少の刺激は求めていた。
「んじゃ、俺らと一緒に討伐依頼でも受けるか?」
「……何日ぐらいの予定になりますか」
「早くて三日。長くて四日じゃねぇか?」
「…………分かりました。よろしくお願いします」
「おっ、マジかよ!! んじゃ、ちょっと待てよ」
アストに声を掛けた男の名はロルバ。
歳はアストより少し上。ランクはCと、アストと同じ。
年齢を考えれば、まだまだ上に上がれる可能性を秘めた有望株。
そんなロルバは以前、アストが一人で数体のDランクモンスターと戦う姿を見ていた。
その戦いではシェイクやストレート、アルケミストなどのカクテル技は一切使用していない。
ただ、特別な技を使わずに得意な得物であるロングソードを使用しながら討伐した。
強く、動ける人物だと判断するには、十分な戦闘光景だった。
(どうせなら、金になる依頼……加えて、依頼達成にそんな時間が掛からない依頼……は、さすがにねぇか)
自分の考えに矛盾が生じてると思い、ロルバは依頼達成にそこまで日数が掛からず、それなりに稼げる依頼書を手に取った
カイン・ルナリアスは強い。
現時点で、得物のぶつかり合いとなると、技術力では負けるという確信に近い感覚があった。
それでも……一つだけで、アストに出来るアドバイスがあった。
「もっと、戦闘に関して貪欲に学べば、こえから先救える命が多くなるかもしれません」
「貪欲に学ぶ、ですか」
「はい。戦いというのは、敵を倒すだけでは完結はしません。後ろに守るべき存在などがいる場合は特に」
「守りながら勝つ方法が必要になる、という訳ですね」
理解が早くて助かると思いながら、助言を続ける。
「その通りです。どう守るか……そういった物事に目を向けると、貴族の令息であるカイン様であれば色々と頭に考えが浮かばれるでしょう。勝つことも、守ることも単純ではない…………既にご理解しているかもしれませんが、大事な事かと思い、伝えさせていただきました」
「……店主よ、そんな事はありません。先程とあなたが教えて頂いた通り、他人に伝えられなければ、そういった知っていた筈の知識、常識を思い出せません。あなたのお陰で……心が晴れました」
「そう言って頂けると、幸いです」
カインはまだ残っていたラムコークを飲み干し……広がる甘い後味がもう一度アストからのアドバイスを反芻させる。
(私は……今よりも更に強くなる。そして広く、深く知識を得る。今学べる物を全て学ぼう!!!! 貪欲に、強くなろう)
黒く大きなモヤモヤを晴らしてくれて店主、アストの為にともう数種類、料理かカクテルを頼もうと思ったが、一旦懐中時計を確認したカインの顔が……少し面白いほど青くなった。
「っ!!!! す、済まない店主。本当はもう少しあなたのカクテルを呑みたかったのだが」
「門限ですね。お強いとはいえ、それなりに吞まれてますので、走るのでなく早歩きで戻られた方がよろしいかと」
「そうさせてもらう! では、また呑ませてもらいます!!!」
慌てて代金を支払い、アストに言われた通り早歩きで退店したカイン。
その後、彼はややフラフラしながらも、誰かに衝突することなく無事門限に間に合った。
ただ…………トイレに入った瞬間、盛大に吐いてしまった。
「……ちょっと遠いんだよな~~」
カイン・ルナリアスという学生の客が訪れてから数日後、アストは冒険者ギルドのクエストボード前で悩んでいた。
街から少し離れた場所にもモンスターはちらほらいる。
しかし、少し遠出した方が金になるモンスターが生息している。
だが……夜はバーテンダーとして働きたい、本業であるバーテンダーとしての活動が重要であるアストとしては、街から街への移動以外で野営をしたくない。
(金にはまだ全然余裕あるけど……ん~~~~~~)
ネットスーパーのお陰で、アストは調味料系のこの世界では価値が高い物を販売し、一時大金を稼いでいた。
しかし、その当初から関係を続けているのは一つのかなり力を持っている商会のみ。
諸々の利益を考えた場合、安易に他の商会に調味料を買い取ってもらおうとはしない。
(それに、金になるモンスターがそれなりにいる場所まで行くと、Bランクとか面倒なモンスターに遭遇する可能性あるよな……)
モンスターの死体を丸ごと持って帰ってこれるアストにとって、Bランクモンスターの方が当然金になるが、Cランクのモンスターだけでも十分金になる。
名誉よりも当然、自身の命の方が大切なアスト。
「よぅ、バーテンダー。何悩んでるんだ」
いきなり声を掛けてきた男は、アストがこの街に来てから客であり、同業者。
「ちょっと遠出しようか悩んでるんですよ」
「あぁ~~~、なるほどな。確かに近場だと、あんまり金になる依頼はねぇもんな」
「そうなんですよ」
無理して強いモンスターと戦う必要はないと考えているアストだが、それなりに強い者との経験自体は必要であり、多少の刺激は求めていた。
「んじゃ、俺らと一緒に討伐依頼でも受けるか?」
「……何日ぐらいの予定になりますか」
「早くて三日。長くて四日じゃねぇか?」
「…………分かりました。よろしくお願いします」
「おっ、マジかよ!! んじゃ、ちょっと待てよ」
アストに声を掛けた男の名はロルバ。
歳はアストより少し上。ランクはCと、アストと同じ。
年齢を考えれば、まだまだ上に上がれる可能性を秘めた有望株。
そんなロルバは以前、アストが一人で数体のDランクモンスターと戦う姿を見ていた。
その戦いではシェイクやストレート、アルケミストなどのカクテル技は一切使用していない。
ただ、特別な技を使わずに得意な得物であるロングソードを使用しながら討伐した。
強く、動ける人物だと判断するには、十分な戦闘光景だった。
(どうせなら、金になる依頼……加えて、依頼達成にそんな時間が掛からない依頼……は、さすがにねぇか)
自分の考えに矛盾が生じてると思い、ロルバは依頼達成にそこまで日数が掛からず、それなりに稼げる依頼書を手に取った
278
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる