異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第38話 組めない理由

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「三十五歳のルーキー、ですか……私の知る限り、人族がその年齢から冒険者としてスタートしたのはフランツさんが初めてかと」

「あっはっは!! やっぱりかい? なんかさ、ギルドの方はいきなりDランクスタートしても良いですよって言ってくれたんだけどよ、さすがにそれは他のルーキーたちに悪いと思って、ちゃんと一番下から始めたんだよ」

(そ、それはまたなんとも…………いや、それはそれで良い事、か。けど戸惑いはあるだろうな)

アストから視て、フランツは十分に強い。
身体能力や技術力だけではなく、長年騎士として戦い続けてきた歴戦の勘とも言える強さを身に付けている。

冒険者ギルドとしては何故今更冒険者に? という戸惑いこそあるものの、対モンスター戦……対盗賊戦においても即戦力となる。

そういった事情もあり、できればDランクからスタートしてほしかった。
しかし冒険者に対して憧れに近い感情を持っていたフランツは、既に三十を越えた大の大人ということもあり、下の者たちの気持ちを考えることが出来た。

既におっさんとはいえ、冒険者になったばかりでいきなりDランクからスタートというのは、やはり快く思わない者が多い。

「モンスターを倒したりとかは仕事上、何度も経験してきてたからあれだけど、採集とかは初めてでさ。それに解体!! 一応それなりに経験がある方だとは思ってたんだけど、やっぱり売り物になるレベルで綺麗に解体するってなると、かなり難しいね!!!」

「冒険者は強いだけではやっていけない。それを証明する仕事でもありますからね」

「いやぁ~~、本当に店主の言う通りだよ。まぁ、なんやかんやあって、今はEランクまで上がれたんだよ」

(……話を聞く限り、冒険者として活動を始めてから、多分半年も経ってない。その部分だけを切り取れば、スピード出世なのは間違いないな)

冒険者登録をする前から、本当の意味でモンスターや人との戦いを知っている者は多くない。

だからこそ、ゆっくり時間を掛けて学んでいき、徐々に徐々にランクを上げていくものだが……フランツは既にそれらを学び終えている。

実際のところ、冒険者ギルドは特例でもっとフランツは早く上に上げようと考えていたが、フランツ自身がそれを拒否し、他の者たちと同じ条件を達成しながらランクを上げていた。

「それでさ、店主。店主はソロで活動してるけど、臨時でパーティーを組むことも多いんだろ」

「そうですね。やはり背中を預けられる仲間がいてこそ、大きな力を発揮出来ますので」

「だよな~~。俺も騎士時代に何度もそういう経験をしてきた。んで、俺としては臨時じゃなくて、がっつりパーティーを組みたいと思ってるんだけど、どうすれば良い。話を聞いただけなんだけど、店主は何度も本格的にパーティーを組まないかって誘われたことがあるんだろ」

疎まれることも多いが、それでも転生者としてアドバンテージを殺さず活かし続け……アストだけの、唯一無二のスキルもあり、これまで幾度もの勧誘を受けてきたが、その全てを断っている。

「光栄な事に、何度も声を掛けて頂いてます」

「その秘訣ってのは、何かあるのかい。良かったら教えてくれないか」

「…………」

アストはざっとフランツの経歴、強さ、容姿を頭の中に思い浮かべ、考える。

(強いだけでやってけないが、それでも強さがあれば勝算は集まる。利益は減るが、それでも食っていける。普通に考えれば欲しくないパーティーはいないと思うが……)

自分にこういったアドバイスを求めるという事は、少なくともそこで躓いているからなのは解る。

(…………………………大体、こんなところか)

考えが纏まったアストは真剣な表情で口を開く。

「まず、中々固定のパーティーを組めない要因をお伝えします」

「おぅ!!!」

「ベテラン組たちにって、確かにフランツさんが直ぐに頼れる存在になるでしょう。ただ……心に滾る熱量に差があるかと」

三十五歳と言えば、肉体的に引退を考え始める時期。
例外も存在するにはするが、そういった例外たちはよほどの理由がない限り、新たにパーティーメンバーを追加しようとはしない。

「そして二十代から三十手前の冒険者からすれば……そのパーティーのリーダーが一番警戒するかもしれません。もしかしたら、フランツさんにリーダーの座を奪われてしまうかもしれないと」

「そ、そうなのか? 俺はそういったつもりはないんだが」

「噂や評価と同じです。自分にそのつもりはなくても、どう思われるかは周りの考え次第。今日初めてフランツさんと会いましたが、非常にしっかりしていらっしゃるという印象があります」

ただ明るいだけではなく、明るく良く周りが見えている。
アストはフランツからそういった印象を受けた。

(おそらく、騎士時代は隊長として部下を纏めて行動していたこともあっただろうな)

推察通り、フランツは騎士時代は部下を纏める立場にまで上り詰め、その経験は未来の騎士を育成する学園でも見事発揮されていた。

「そして……」

一端褒めはしたものの、もう一つ違う世代の冒険者たちとパーティーを組めない要員を伝えなければならないことに、心苦しさを感じるアスト。

しかし、アドバイスを求められたのであれば、濁さず自身の考えを伝えなければならなかった。
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