45 / 167
第45話 聞き覚えがある
しおりを挟む
「生まれた立場、環境が逆に、か…………こういうのを、耳が痛いって言うのか?」
「私個人の感想ですので、私の言葉が正しいとは言えませんが」
「あぁ、大丈夫だ。俺らからマスターにアドバイスを求めたんだ。あんたに対して感謝こそしても、怒ったりしないって。そんなことすれば、カインにぶった斬られるしな」
「良く解ってるじゃないか。私も、友人は斬りたくはない」
酒が入っている状態だからこそ零れた冗談……ではない事を友人たちは直ぐに察した。
そしてそういった言葉に込められた感情を察するのが上手いアストも、カインの言葉に嘘がないことを察し……どう反応して良いのか解らなくなった。
「へっへっへ。お前にも、感謝こそしても恨む筋合いはねぇって解ってる。こんな美味い酒と料理が食える店に連れてきてくれたんだからな」
「光栄でございます」
貴族であれば、高級……という言葉が付く料理を今まで何度も何度も食べてきた。
当然、それらの料理は一流のシェフが一級品の素材を使っているため、不味い訳がない。
しかし……何故か、アストが作るカクテルから、料理からはそれらの料理とは、そもそも土俵が違う美味さを感じた。
「いや、なんつ~か……マスターと話してると、溜まってた疲れが抜けるわ」
「僕も同じ感覚だね」
「私もですね。もしかしてマスターさんは、その様なスキルでも持ってるのですか?」
「いえ、そういったスキルは持っていません」
自分の店で、自分と話すことで客が疲れが癒えていくのを感じる。
それは店主であるアストにとって本当に嬉しく、最高の褒め言葉ではあるが……言葉で人を癒す様な特殊なスキルは持っていない。
「ぶっちゃけ、通えるなら毎日通いたいぜ」
「ふふ、私も同じ気持ちですよ。しかし、それは無理なんだ」
「ん? なんで無理なんだよ、カイン。そりゃ俺らだって偶に課題が出るし、マスターは冒険者として活動してるんだから、店を出さない日はあるだろうけど」
「私の説明を忘れたのか? マスターは、同業者の怒りを買わないよう、常に街から街へ移動している。この街に滞在するのも……あと数週間ほど、でしょうか」
「それぐらいは予定しております」
「……マジ、ですか」
「マジでございます」
大柄の学生だけではなく、他の二人も同じく決して小さくない衝撃を受けていた。
「う、恨みを買うって……どういうことなんですか」
「もう一度、メニュー表を見て頂けるとお解りになるかと」
言われた通り、三人はメニュー表を細かく見た。
「っ、なるほど。そういった理由でしたか」
一人の学生が直ぐにアストが街から街へ移動する期間がかなり短いのか、直ぐに解った。
「あっ」
「っ!!! …………あぁ~~~、なるほどな。俺らにとっては嬉しいけど、そうか……そうだな。同業者からすれば、恨み言の一つや二つ呟きたくもなるか」
メニュー表には直ぐ隣に値段が書かれている。
仮に商売の知識がなくとも、店で食事をしたことがある者であれば、その差に気付かない訳がない。
(よくよく見りゃあ、料理の種類も半端じゃねぇ。カクテルの種類だけでもびっくりだってのに、料理もこんだけありゃあな)
大柄な学生はあからさまに肩を落とした。
「それに、マスターは多くの街を周り、多くの客と関わりながらバーテンダーと活動する。そういった方針で活動されている」
「……………………いっそ、俺も冒険者になるか」
「「「っ!!!???」」」
男の言葉に、カインを含めた三人が驚きの表情を浮かべ……ちょっと面白い顔になっていた。
「本気で、言ってるのかい?」
「……超本気ってわけじゃねぇよ」
この男はそれなりに良い家の令息ということもあり、幼い頃から騎士になる為の訓練を何年も受けてきた。
そんな彼が……百パーセント本気ではなくとも、何割かは本音で呟いたのである。
カインたちにとって、大き過ぎる衝撃であった。
「つか、お前ら驚き過ぎだ」
「お、驚くなっていう方が無理に決まってるじゃない」
「その通りですよ。心臓が止まるかと思いました」
「私も同じだ。いきなりビックリさせないでほしい」
「そんなつもりはなかったんだけどな。つかよ、俺らの学園にだって、転職して冒険者になった人がいるだろ」
(……転職して冒険者になった?)
学生の言葉を聞き、脳裏にとある人物が頭の中に浮かぶ。
「それはそうだが……あの人は、夢を追った。素敵な事だとは思うが、本当に珍しい例だ」
「はっはっは!!! 確かにな。学園の教師っていう安定して良い金が入ってくる職を捨てて冒険者っていう夢を追ったんだからなぁ…………ちょっとバカだろとは思ったが、男としてはカッコ良さすら感じだ」
「……あの、お客様たちが話している教師から冒険者に転職した方は、もしやフランツさんという方でしょうか」
「「「「っ!!!???」」」」
今度は大柄の男子学生も含め、面白い具合に表情が崩れながら驚いた。
「私個人の感想ですので、私の言葉が正しいとは言えませんが」
「あぁ、大丈夫だ。俺らからマスターにアドバイスを求めたんだ。あんたに対して感謝こそしても、怒ったりしないって。そんなことすれば、カインにぶった斬られるしな」
「良く解ってるじゃないか。私も、友人は斬りたくはない」
酒が入っている状態だからこそ零れた冗談……ではない事を友人たちは直ぐに察した。
そしてそういった言葉に込められた感情を察するのが上手いアストも、カインの言葉に嘘がないことを察し……どう反応して良いのか解らなくなった。
「へっへっへ。お前にも、感謝こそしても恨む筋合いはねぇって解ってる。こんな美味い酒と料理が食える店に連れてきてくれたんだからな」
「光栄でございます」
貴族であれば、高級……という言葉が付く料理を今まで何度も何度も食べてきた。
当然、それらの料理は一流のシェフが一級品の素材を使っているため、不味い訳がない。
しかし……何故か、アストが作るカクテルから、料理からはそれらの料理とは、そもそも土俵が違う美味さを感じた。
「いや、なんつ~か……マスターと話してると、溜まってた疲れが抜けるわ」
「僕も同じ感覚だね」
「私もですね。もしかしてマスターさんは、その様なスキルでも持ってるのですか?」
「いえ、そういったスキルは持っていません」
自分の店で、自分と話すことで客が疲れが癒えていくのを感じる。
それは店主であるアストにとって本当に嬉しく、最高の褒め言葉ではあるが……言葉で人を癒す様な特殊なスキルは持っていない。
「ぶっちゃけ、通えるなら毎日通いたいぜ」
「ふふ、私も同じ気持ちですよ。しかし、それは無理なんだ」
「ん? なんで無理なんだよ、カイン。そりゃ俺らだって偶に課題が出るし、マスターは冒険者として活動してるんだから、店を出さない日はあるだろうけど」
「私の説明を忘れたのか? マスターは、同業者の怒りを買わないよう、常に街から街へ移動している。この街に滞在するのも……あと数週間ほど、でしょうか」
「それぐらいは予定しております」
「……マジ、ですか」
「マジでございます」
大柄の学生だけではなく、他の二人も同じく決して小さくない衝撃を受けていた。
「う、恨みを買うって……どういうことなんですか」
「もう一度、メニュー表を見て頂けるとお解りになるかと」
言われた通り、三人はメニュー表を細かく見た。
「っ、なるほど。そういった理由でしたか」
一人の学生が直ぐにアストが街から街へ移動する期間がかなり短いのか、直ぐに解った。
「あっ」
「っ!!! …………あぁ~~~、なるほどな。俺らにとっては嬉しいけど、そうか……そうだな。同業者からすれば、恨み言の一つや二つ呟きたくもなるか」
メニュー表には直ぐ隣に値段が書かれている。
仮に商売の知識がなくとも、店で食事をしたことがある者であれば、その差に気付かない訳がない。
(よくよく見りゃあ、料理の種類も半端じゃねぇ。カクテルの種類だけでもびっくりだってのに、料理もこんだけありゃあな)
大柄な学生はあからさまに肩を落とした。
「それに、マスターは多くの街を周り、多くの客と関わりながらバーテンダーと活動する。そういった方針で活動されている」
「……………………いっそ、俺も冒険者になるか」
「「「っ!!!???」」」
男の言葉に、カインを含めた三人が驚きの表情を浮かべ……ちょっと面白い顔になっていた。
「本気で、言ってるのかい?」
「……超本気ってわけじゃねぇよ」
この男はそれなりに良い家の令息ということもあり、幼い頃から騎士になる為の訓練を何年も受けてきた。
そんな彼が……百パーセント本気ではなくとも、何割かは本音で呟いたのである。
カインたちにとって、大き過ぎる衝撃であった。
「つか、お前ら驚き過ぎだ」
「お、驚くなっていう方が無理に決まってるじゃない」
「その通りですよ。心臓が止まるかと思いました」
「私も同じだ。いきなりビックリさせないでほしい」
「そんなつもりはなかったんだけどな。つかよ、俺らの学園にだって、転職して冒険者になった人がいるだろ」
(……転職して冒険者になった?)
学生の言葉を聞き、脳裏にとある人物が頭の中に浮かぶ。
「それはそうだが……あの人は、夢を追った。素敵な事だとは思うが、本当に珍しい例だ」
「はっはっは!!! 確かにな。学園の教師っていう安定して良い金が入ってくる職を捨てて冒険者っていう夢を追ったんだからなぁ…………ちょっとバカだろとは思ったが、男としてはカッコ良さすら感じだ」
「……あの、お客様たちが話している教師から冒険者に転職した方は、もしやフランツさんという方でしょうか」
「「「「っ!!!???」」」」
今度は大柄の男子学生も含め、面白い具合に表情が崩れながら驚いた。
257
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる