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第55話 断れない
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(さってと、そろそろどの街に行くか決めないとな~~)
先日、フランツとルンバートが偶々出会い、喧嘩別れした際の壁が消え、元の親友同士に戻った夜……途中でミーティアに吞みに来たカインたちも混ざり、バーでの呑みというより、やや宴会に近い形となった。
(やっぱり、行ったことがない街に行ってみたいが…………そうなると、どこになるだろうな)
冒険者としての生活スタイルは、旅が主なアスト。
行ったことがない街などない!!!! と断言するほど巡りに巡り回ってきたわけではないが、それでも同世代の者たちよりは圧倒的に多くの街を巡って来た。
(……久しぶりに、ダンジョンがある街にでも向かってみるか?)
過去にダンジョンという、夢と絶望が混ざり合った魔窟に冒険者として挑んだことがある。
バーテンダーが本職であるアストだが、当時……どれだけ自分がダンジョンでの探索を楽しんでいたのか、よく覚えている。
「アストさん、少しよろしいでしょうか?」
クエストボードの前で悩んでいたアストに、一人の受付嬢が声を掛けてきた。
「はい、大丈夫ですよ。何か……私に依頼でしょうか」
「詳しくは、部屋の中で」
「分かりました」
ギルドの個室に案内されたアスト。
入室後、直ぐに本題へと入る。
「アストさんに、指名依頼が届いています」
「俺に、指名依頼、ですか」
指名依頼とは、ギルドに依頼を出すのではなく、ギルドに所属している冒険者個人を指名する依頼。
(まぁ……そこまで驚かなくても良い事、か)
本人は冒険者は副業で本業はバーテンダーと語っているが、冒険者になってたった三年でCランクというのは、間違いなくスピード出世。
そんな有望株を指名して依頼を出したいという心理を理解出来なくもないアスト。
「因みにですが、これは絶対に受けてもらいます」
「ぜ、絶対ですか。あの……俺、BランクではなくCランクなのですが」
冒険者のランクは、ただ個人の強さを示すだけのものではなく、そのランクに到達すればある程度の特典というものがある。
その代わりといった形で、よっぽど理不尽な依頼でなければ、Bランク以上の冒険者は指名依頼を拒否できない。
「えぇ、勿論解っています。ですが、こちらを見て頂ければご理解出来るかと」
「? …………っ!!!!!?????」
受付嬢から手渡された書類に目を通すアスト。
手紙の内容、差出人を理解した瞬間……本気で眼玉が飛び出るかと思うほどの衝撃を受け……完全に固まってしまった。
「アストさん……アストさん!!」
「あ、はい!! す、すいません。その……あまりの衝撃に、何故という疑問で頭が埋め尽くされてしまって」
「心中、お察しいたします。正直に申し上げると……私も、あなたが普通の冒険者ではないことは解っていましたが、それでもこれは本当に予想外の出来事です」
手紙の差出人は……王族の関係者。
冒険者だけではなき、貴族であっても直接関わることが出来る者は殆どいない。
平民からすれば、まさに天上人。
(…………もしや、俺のあの時の直感が当たっていたのか)
過去に、自身の店に訪れた人物のことを思い出すも……まだ確信に至らぬため、首を横に振ってひとまず頭の中から掻き消した。
「ふぅ~~~~~、そうですね。王族……皇室からの依頼となれば、断ることは出来ないでしょう。それで、俺に依頼とは、いったいどの様な内容なのでしょうか」
「ここ最近、身分を隠して学園に通っていた王子の護衛です」
「……冒険者に護衛の依頼をするのは、全くおかしい事ではありませんが、護衛対象が王族となれば、国に仕える騎士や魔術師たちが対応すると思うのですが」
何故という理由を口にしてから、直ぐに自分へ依頼が飛んできたのか理解した。
「っ、そうですね。身分を隠してという事であれば」
「その通りです」
大勢の騎士や魔術師を派遣する訳にはいかない。
(どうしてその王族は身分を隠してるのか、なんて聞かない方が良いんだろうな。ていうか、そんな事に深く関わったりしたら、平和な生活が送れなくなってしまう)
朝から夕方にかけてはモンスターや、時には盗賊と戦う生活は本当に平和なのか? とツッコミたいところではあるが、アストにとっては権力という人によっては面倒、ゴミ、極上の蜜とも取れるものと基本的に関わらないで生きていけることは……間違いなく平和である。
「ん? つまり……送り届ける場所は王都、ということですか?」
「えぇ、勿論です」
(…………護衛中、俺は宿の中でも護衛しなきゃダメなのかな)
一定期間、拘束されることは……嫌だとは言えない。
冒険者としての仕事を行い、金を貰うのである。
嫌だとは言えないが……街に滞在している時間まで護衛しなければならないとなると、本業であるバーテンダーとしての仕事を行えない日々が続く。
「……アストさん。こちらが、護衛依頼の金額になります」
「っ!!!??? ………………守銭奴というわけではありませんけど、仕方ないと言うしかありませんね、これは」
依頼金額を見て仕方ないと口にするアストに、受付嬢は呆れた表情を見せることはなかった。
何故なら……その気持ちが心の底から理解出来るほど、提示されている報酬金額が破格だから。
そして数日後、予定通りアストは依頼人たちと合流し、目的地の王都へと旅立った。
先日、フランツとルンバートが偶々出会い、喧嘩別れした際の壁が消え、元の親友同士に戻った夜……途中でミーティアに吞みに来たカインたちも混ざり、バーでの呑みというより、やや宴会に近い形となった。
(やっぱり、行ったことがない街に行ってみたいが…………そうなると、どこになるだろうな)
冒険者としての生活スタイルは、旅が主なアスト。
行ったことがない街などない!!!! と断言するほど巡りに巡り回ってきたわけではないが、それでも同世代の者たちよりは圧倒的に多くの街を巡って来た。
(……久しぶりに、ダンジョンがある街にでも向かってみるか?)
過去にダンジョンという、夢と絶望が混ざり合った魔窟に冒険者として挑んだことがある。
バーテンダーが本職であるアストだが、当時……どれだけ自分がダンジョンでの探索を楽しんでいたのか、よく覚えている。
「アストさん、少しよろしいでしょうか?」
クエストボードの前で悩んでいたアストに、一人の受付嬢が声を掛けてきた。
「はい、大丈夫ですよ。何か……私に依頼でしょうか」
「詳しくは、部屋の中で」
「分かりました」
ギルドの個室に案内されたアスト。
入室後、直ぐに本題へと入る。
「アストさんに、指名依頼が届いています」
「俺に、指名依頼、ですか」
指名依頼とは、ギルドに依頼を出すのではなく、ギルドに所属している冒険者個人を指名する依頼。
(まぁ……そこまで驚かなくても良い事、か)
本人は冒険者は副業で本業はバーテンダーと語っているが、冒険者になってたった三年でCランクというのは、間違いなくスピード出世。
そんな有望株を指名して依頼を出したいという心理を理解出来なくもないアスト。
「因みにですが、これは絶対に受けてもらいます」
「ぜ、絶対ですか。あの……俺、BランクではなくCランクなのですが」
冒険者のランクは、ただ個人の強さを示すだけのものではなく、そのランクに到達すればある程度の特典というものがある。
その代わりといった形で、よっぽど理不尽な依頼でなければ、Bランク以上の冒険者は指名依頼を拒否できない。
「えぇ、勿論解っています。ですが、こちらを見て頂ければご理解出来るかと」
「? …………っ!!!!!?????」
受付嬢から手渡された書類に目を通すアスト。
手紙の内容、差出人を理解した瞬間……本気で眼玉が飛び出るかと思うほどの衝撃を受け……完全に固まってしまった。
「アストさん……アストさん!!」
「あ、はい!! す、すいません。その……あまりの衝撃に、何故という疑問で頭が埋め尽くされてしまって」
「心中、お察しいたします。正直に申し上げると……私も、あなたが普通の冒険者ではないことは解っていましたが、それでもこれは本当に予想外の出来事です」
手紙の差出人は……王族の関係者。
冒険者だけではなき、貴族であっても直接関わることが出来る者は殆どいない。
平民からすれば、まさに天上人。
(…………もしや、俺のあの時の直感が当たっていたのか)
過去に、自身の店に訪れた人物のことを思い出すも……まだ確信に至らぬため、首を横に振ってひとまず頭の中から掻き消した。
「ふぅ~~~~~、そうですね。王族……皇室からの依頼となれば、断ることは出来ないでしょう。それで、俺に依頼とは、いったいどの様な内容なのでしょうか」
「ここ最近、身分を隠して学園に通っていた王子の護衛です」
「……冒険者に護衛の依頼をするのは、全くおかしい事ではありませんが、護衛対象が王族となれば、国に仕える騎士や魔術師たちが対応すると思うのですが」
何故という理由を口にしてから、直ぐに自分へ依頼が飛んできたのか理解した。
「っ、そうですね。身分を隠してという事であれば」
「その通りです」
大勢の騎士や魔術師を派遣する訳にはいかない。
(どうしてその王族は身分を隠してるのか、なんて聞かない方が良いんだろうな。ていうか、そんな事に深く関わったりしたら、平和な生活が送れなくなってしまう)
朝から夕方にかけてはモンスターや、時には盗賊と戦う生活は本当に平和なのか? とツッコミたいところではあるが、アストにとっては権力という人によっては面倒、ゴミ、極上の蜜とも取れるものと基本的に関わらないで生きていけることは……間違いなく平和である。
「ん? つまり……送り届ける場所は王都、ということですか?」
「えぇ、勿論です」
(…………護衛中、俺は宿の中でも護衛しなきゃダメなのかな)
一定期間、拘束されることは……嫌だとは言えない。
冒険者としての仕事を行い、金を貰うのである。
嫌だとは言えないが……街に滞在している時間まで護衛しなければならないとなると、本業であるバーテンダーとしての仕事を行えない日々が続く。
「……アストさん。こちらが、護衛依頼の金額になります」
「っ!!!??? ………………守銭奴というわけではありませんけど、仕方ないと言うしかありませんね、これは」
依頼金額を見て仕方ないと口にするアストに、受付嬢は呆れた表情を見せることはなかった。
何故なら……その気持ちが心の底から理解出来るほど、提示されている報酬金額が破格だから。
そして数日後、予定通りアストは依頼人たちと合流し、目的地の王都へと旅立った。
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