異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
67 / 167

第67話 無条件で惹かれるもの

しおりを挟む
「流石王都、だな……」

国王であるラムスと、一応護衛であった近衛騎士が客として訪れた翌日、アストは朝食を食べ終えた後……じっくりと王都を観光していた。

朝食を食べ終えた後にもかかわらず、屋台でイノシシ系モンスターの串焼きを購入し、食べながらきょろきょろと周囲を見渡しながら景色を楽しんでいた。

前世を日本という場所で過ごしたアストにとって、多数の人々が行きかい、賑やかな光景というのは、決して珍しくはない。
ただ、そんな過去の記憶も少々薄れており、加えて前世と比べて建物の外装や人種などに大きな差があるため、眺めていて飽きることがなかった。

(そういえば、また結構貯まって来たよな…………何か、買おうかな)

アストが買おうか否か迷っている物は……副業の冒険者らしく、得物であった。
自身が帯剣している得物に飽きたのか? そういうわけではない。

武器の手入れは怠っておらず、まだまだ現役として十分使える。
これから他の武器をメイン武器として扱う、などとも考えていない。

ただ……アストは身体能力的な意味で、自分にはもうあまり伸びしろはないと感じていた。

(マジックアイテム、か武器か…………やっぱり、俺が足りないところと言えば、パワーか?)

誰かに言われたわけではない。
神からの啓示もない。
ただ、なんとなくそうだろうと感じ取っていた。

正直なところ、不満はない。
世間一般的に見ればアストは平均より上であり、戦闘者として十分成功している、色んな意味で安定した力を手に入れられていた。

加えて、カクテルというスキルは……デメリットがないことはないが、それでも強力なバフ効果を得られる事が出来る。
様々な状況に対応出来る特別なスキル。

それらを踏まえて、アストはやはり自分は恵まれていると断言出来る。

しかし……それはそれ、これはこれ。
この世界では、命は安く、呆気なく失われてしまう。
アスト(錬)の前世でも、そういった国はあっただろうが、そういう事情がない国で育ったアスト(錬)にとっては……大きな衝撃の一つだった。

そもそも、基本的に平和な国であるアスト(錬)自身も、事故で命を落としてしまった。

(大斧系……いや、長槍系もあり、か?)

イレギュラー、予想外という言葉は人の事情などを全く考えない。
だからこそイレギュラーであり、予想外なのであるが……この世界に来てから、何度その状況に暴言を吐いたか解らない。

故に、アストはその他人の事情を全く考えない現象に、出来る限り準備しておきたかった。

師であった人物がただ戦闘面の指導を行う以外の事を教えることに関しても優秀だったため、アストはロングソードだけに拘ることなく鍛錬を積んでいた。
なのでいきなり長槍や大斧を持っても、ある程度は使用出来る。

「……俺に見合ってなくても、ちょっと奮発して購入しようかな」

王都の周辺にはあまりモンスターがいないものの、国の中心地。
多くの人と物が行きかう場所であるため、名工と呼ばれる人物も当然いる。

「さてさて、頑張って探そうか」

年齢は十八。
精神年齢は基本的に前世の頃から変わっていない。

中二病という病には侵されていなかったが、それでも武器という物には……無条件で惹かれる心は持っていた。

普段以上に笑みを浮かべながらふらふらと店から店へ移動。

大通りから、裏通りの店までふらふらふらふらと歩き続け……気付けば、既に日が暮れていた。
普段なら夕食を食べる店を探していてもおかしくない。

だが……歩き回り続けても全く疲れていないアストは、腹からの信号などフルシカト。

「ここに入ってみるか」

店の外装だけで、中に置かれている武器の品質等まで完全に把握することなど、出来るわけがない。
それでも村を出て、都会に揉まれて三年弱。
雰囲気だけでもある程度察せるようになってきていた。

(……それなりの品質がある物は、全てショーケースに入ってる。外装や内装は少しあれだけど、しっかりと儲けがある店ってところかな?)

店で知り合った冒険者などに聞けば、どの店がお勧めなど教えてくれるが、アストは勢いに任せてじっくりゆっくりふらふらと王都にある店を歩き回っていた。

(種類に拘りはない。でも、だからといって品質が低いわけではない……偶々入っただけだけど、この店の店主……工房主の人は結構高名な人なのかもな)

良い武器を見るのは楽しい。
従業員からすれば、武器を見るだけの者などただの冷やかし野郎は、さっさと帰って欲しい。

その心は解らなくもないが、客であるアストにとっては知ったことではない。
そこら辺を気にしていれば、訪れた店で毎回何かしら購入しなければならず……いくら懐に余裕があるアストでも、あっという間に素寒貧になってしまう。

「いらっしゃい。兄ちゃんは……冒険者かい?」

武器を眺めていたアストに、鍛冶師兼従業員の男性が声を掛けてきた。

「はい、そうです。普段使ってるこいつはまだ現役なんですけど、いざという時に切り札として使える物はないかと探していて」

「ほ~~~ん」

男は三十手前であり、まだベテランとは言えないが、それでも鍛冶師として……売り手として必要な感覚や嗅覚はそれなりに育っており、こいつは逃してはいけない客だと判断し、ギラリと眼を輝かせた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

処理中です...