異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第69話 金は、どちらもある

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「すいません、紹介して頂いた戦斧と刀、両方購入させてもらっても良いですか」

「へっへっへ、勿論だよ兄ちゃん」

どちらも購入。
従業員である男からすれば、願ってもない展開である。

しかし、アストが戦斧と刀。二つとも購入すると決めたと同時に……店の扉が勢い良く開かれた。

「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、はぁ、間に合い、ましたね」

勢い良く扉を開いて店の中に入ってきたのは、一人の女性。

容姿だけであれば貴族の令嬢と判断するほどの美しさを有しているが、恰好からして冒険者であることが窺える。

「はぁ、はぁ、あなた!!! この刀、購入させていただくわ!!!!」

「え、えぇ……」

女性冒険者は、先程男がアストに勧めていた刀を購入すると宣言した。

「い、いやぁ、あのですね……その、その刀はこちらの男性が購入すると」

「なんですって!!!!!?????」

美女が一切抑えることなく、怒りを撒き散らす。

(ん~~~…………美女って、やっぱりズルい存在だよな~~~~)

それはそれで綺麗、面白いといった感想が浮かび上がる能天気なアスト。

「こちらの刀は、私が予約してましたのよ!!!!!!!」

「??????」

予約していたと、確かに女性冒険者は口にした。

鍛冶師兼従業員の男は、それは不味い!!! と思って記憶を遡る。
男は目の前の女性が、貴族の令嬢でありながら冒険者として活動している変わり者だと瞬時に見抜き、面倒事に発展しないようにと必死で過去の記憶を思い返す。

万が一、本当に予約していれば、購入を決断してくれたアストに、地面に頭を付けてでも謝罪する所存。

なのだが……十秒、三十秒、一分……どれだけ記憶を掘り起こしても、ダンジョン産の刀を予約していたという話は思い出せない。

「なんだぁ、うるせぇな」

男が購入の予約という大事な件を思い出せずにいると、鍛冶場に繋がる場所から一人のドワーフが現れた。

「あっ、親方!!!!!」

「おぅ、ジース。いったいなん騒ぎだ」

「実はですね」

何があったのか、事の顛末を親方に伝えると……ドワーフの鍛冶師は何かを思い出し、口を開いた。

「……そういえば、お前にそれを伝えてなかったな」

「えっ!!!!!!!!!!」

鍛冶師兼従業員の男、もといジースはここが自分の岐路だという思いで必死に記憶を掘り返していたのに……原因となったのは、親方の伝え忘れだと知り……思いっきり両肩を落とす。

「はっはっは!!!!! すまんすまん、俺のミスだったわ!!!」

「そ、そうです、か……いや、はい。それならそれでまぁ……うん、大丈夫と言いますか」

親方が理不尽に自分のミスを擦り付けるのではなく、それは自分のミスだと認めてくれたため、ジースとしてはほっと一安心ではあった。

だが、それはそれとしてアストに対して申し訳ない気持ちは残り続けていた。
戦斧の方があるから、それはそれで良いじゃないか、とは思えない。

「んで、そっちの小僧がお前が勧めた冒険者か…………」

ドワーフの親方、ベルダーはじろじろとアストを見て……ニヤッと笑った。

「ほ~~~ぅ。どこのどいつかは知らねぇが、面白い小僧がいたもんだ」

「ッ!!!」

この店の店主でもあるベルダーが、アストを認めた。
その事に、このままでは不味いと思い、反応する女性冒険者。

「待ちなさい!!! この刀は、私が予約してた筈よ!!!!!」

そう言いながら、女性はこれまで受けてきた依頼で手に入れた金、モンスターの素材を売却して手に入れた金が入った袋をテーブルの上に置いた。

「…………はっはっは!!!! なるほど、確かに良く集めたもんだ」

刀の額は、ベテランの冒険者が買おうと思っても容易に買える額ではない。
女性が、どれだけ必死に集めたのかよく解る。

そして、購入出来る金があるか否か、それは非常に重要な問題。

「そっちの小僧は、こいつを買えるだけの金は持ってるのか?」

購入出来る金を持っていなければ、そもそも論外。

「一応、お金は持ってます。確認してください」

そう言うと、アストは亜空間の中から幾つかの袋を取り出した。

「ほぅほぅ……ふむ…………はっはっは!!!!!!」

複数の袋に入った金額を見て、ベルダーはまた爆笑。
袋に入っている金額であれば、ジースがアストに勧めた戦斧と刀、両方を購入出来る。

「なっ!!!???」

その金額をチラ見した女性は、驚愕のあまり袋の中の硬貨の数とアストを何度も交互に見比べた。

「なんか普通じゃねぇってのは解ったが、小僧……随分と金持ちじゃねぇか」

「自分、ここ最近王都に来ましたが、それまで基本的にソロで行動してましたので」

「そいつは随分と珍しいっつーか、度胸があるな。もしかして死にたがりか?」

「いえいえ、なんと言いますか……色々事情があって」

何の事情なのか……ドワーフであるベルダーはなんとかく察し、ニヤッと笑みを零す。
それがまた女性の不安を煽ることになるが、ベルダーも女性冒険者の頑張りを無視するつもりはなかった。
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