異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
75 / 167

第75話 最後まで冷静に?

しおりを挟む
「あの人、割と良い人だったのかな?」

冒険者ギルドを出て、目的の場所へ向かう中、アストは自分に声を掛けてきた同業者のことを考えていた。

(俺がグリフォンを倒すつもりだって口にしたら、他の人たちみたいに爆笑するもんだと思ってたけど……まっ、人は見かけによらないのは今更か)

見た目通りのチンピラもいれば、人情深い兄貴肌の者もいる。

やはり多くの人と関わるのは面白いと思いながら、グリフォンの巣へと続く道を……今日も今日とて走って走る。

「ッ! ギギャ!!」

「「「ギャギャギャっ!!」」

道中でアストの姿を発見し、襲い掛かろうとするモンスターが当然いるが、今回は無視。

脂の乗った美味そうな腹をしているオークがいても無視。
イノシシ系、や熊系のモンスターが襲い掛かってこようとしても、走って振り切る。

「キシャァアアアアアアッ!!!!」

「っと、お前は討伐しておこうか」

「シャアっ!!??」

急降下しながら攻撃してきた鳥系モンスターの攻撃を開始、再び上空に戻ろうとしたところを、木を駆けて追跡し、ロングソードで一閃。

グリフォンが従えている可能性が高い鳥系モンスターのみ、襲撃を受ければ討伐。
そんなやり取りを繰り返し続け……日が暮れる前に、グリフォンの巣と思わしき場所に到着。

「ん? なんだよ……グリフォンのやつ、いないじゃないか……仕方ない。待つしかないか」

グリフォンにはドラゴンと同じく物を集める習性があり、巣にはこれまで襲撃してきた冒険者や商人から奪って来たであろう物を全回収。

戻ってくるまでの間に、アストと同じ冒険者を襲撃しているかもしれない。
だが、それはアストにとって関係無いことであった。

冒険者とは基本的に自己責任であり、巣と思わしき場所でアストがグリフォンの帰還を待っていたからといって、同業者が死んだ責任がアストにあるとは言えない。

「っ、この感じは……ようやく帰還か」

アストがグリフォンの巣で待っていた間、普段はしない気配を感じたグリフォンの配下が襲撃に来たが、全て返り討ちに合い……現在、巣一帯は血の匂いにまみれていた。

「勇ましき雄牛よ、吼えろ」

アストは……本業はバーテンダーであり、冒険者は副業。

「たとえその身が傷付こうとも、猛れ」

そう、騎士ではなく冒険者。
わざわざ真正面から、正々堂々と戦う必要は、欠片もない。

「猛れ、猛れ、猛れ暴牛よ。荒野を突き進み、その背で示せ」

命を懸けた野性での死合いであれば……尚更である。

「ブレイブブル」

「ッ!!!! キィィィィイイエアアアアアアアっ!!!!!!!」

「オオオオオァァアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!!!!」

巣に戻る途中で、自身の巣に誰かがいること察知していたグリフォン。
ここで躊躇なく風のブレスや、風魔法を発動していれば……また戦況は変っていたかもしれない。

しかし、自身が溜め込んでいるお宝(自称)を破壊してしまうことを恐れ、アストの
準備を許してしまった。

「ゥォオオラッ!!!!!!!」

グリフォンの威嚇をものともせず、相殺。
不味いと思った瞬間には、宙に跳んで接近。

ブレスで迎撃しようと口を開くも、旋風の刺突が先に放たれた。

「っ!!!!???? ………………」

並みの斬撃では斬れず、温い打撃では逆に弾き返されてしまう肉を持っているグリフォンだが……残念ながら、口の中までは頑丈ではない。

ブレスを放とうとしていたこともあり、喉に集まっていた魔力も暴発し、そのまま頭部は爆散。

「っと……勿体ないことをしたな。けど、こいつの脳や眼球が目的じゃないんだ。別に良いか」

アストはその場でグリフォンの死体を解体しようとはせず、アイテムバッグに丸々収納。

日が暮れるて街に入れなくなる、という心配もあるが、アストとグリフォンの雄叫び、加えてグリフォンの頭部が爆散した音などによって、まだ巣に訪れていない配下がいるかもしれない。

これ以上戦うつもりがないアストは再び全力疾走。
走って走って襲撃してくるモンスターを全力で振り切り、無事門が締まる前に街へ
戻ることが出来た。

「はぁ、はぁ……ちょっと、最近走り過ぎかもな」

人族の中でもスタミナがある方ではあるものの、街に到着するころには息切れ状態。

速攻でベッドにダイブしてしまいたい気分ではあるが、その前に冒険者ギルドへと向かった。

中に入ると、併設されている酒場では既に仕事を終え、呑んで食って騒いでいる冒険者が多数。

「倉庫を使いたい」

そんな中、直ぐにベッドにダイブしてしまいたい気分ではあるものの、頭が回らないほど疲弊はしておらず、アストは「グリフォンを討伐した」と、うっかり漏らすことなく騒ぎを回避。

受付嬢はほんの少し疑問を持つも、ギルドカードにはしっかりとCランクという記載がされているため、ギルドが持っている倉庫へと案内。

すると数分後……倉庫に防音機能が無ければ、受付嬢が恥も外聞も無意識に捨てた叫び声が間違いなくロビーや酒場まで届いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

処理中です...