84 / 167
第84話 世界の真理
しおりを挟む
「「「「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」」」」」
アストとCランクの男……パルクがギルドに到着し、人肉大好きアイアンイーターの討伐を報告してから約二時間後、ギルドに併設されている酒場で宴会が行われた。
(……なんだか、少し前にもこんな感じで酒を作るんじゃなくて、呑む側に回ってたような)
ほんの少し前、アストは王都からなるべく近い場所に生息しているBランクモンスター……グリフォンを討伐した。
賞金を懸けられていた存在ということもあり、結果としてアストが討伐したことで宴会が行われた。
そして今回……まだアストの目標である漆黒石を樽一杯分採掘し終えてはいないものの、一旦考えることを止めて注がれるエールをどんどん呑み干していく。
「さすがバーテンダー、まだまだ余裕そうだな」
「全てのバーテンダー酒に強いわけではないと思いますけど……確かに、俺は強い方ではありますね。それより、ちゃんと呑んでますか、パルクさん」
「おぅよ。周りの奴らがどんどん注いでくれるからな……金を気にせず呑めるってのは、やっぱり良いもんだな」
「……カクテルを作って売る者がこんな事を言うのはあれかもしれませんけど、人の金で呑む酒が……一番美味いかもしれませんね」
この世界に転生する前から、何度も経験したことがある。
「はっはっは!!!! まさに、世界の真理ってやつだな」
「そうですね。ところでパルクさん、呑み友達に報告しに行かなくて良いんですか?」
「必要ねぇよ。そもそもギルドに伝えた時点で、自ずと伝わるだろ。なにより……わざわざ弟の腕の仇を討ってやったって俺から伝えるのは……ダサいだろ」
「……ロマンや漢といった部分を気にするのであれば、そうですね」
アストは、決してそのロマンや漢といった感情、考え方がダサいとは思わなかった。
「ありがとよ。まっ、そもそもな話……あいつは、誰かが倒さなきゃならなかった」
「偶々、パルクさんに勇気が溢れ出したから、と言いたいんですね」
「偶々……そうだな。と言いたいところだが、アスト……いや、店主。あんたあの店で出会いがあったからだ。だから、偶々勇気が出たって表現は違うかもな」
「……反応に困りますね」
頼んでもいないのに次々とテーブルに置かれる料理に手を付けながら、アストの表情には……苦い笑いが浮かんでいた。
「なんでだ? やっぱり、あのアイアンイーターは自分一人で倒してみたかったか?」
「そんな勇気、自分にはありませんよ。ただ、俺が背中を押してしまったと考えると……って、考えるのは駄目ですね。そう考えるのは、冒険者であるパルクさんに失礼でした」
「ふっふっふ、本当に可愛気が全くねぇぐらい優秀だな、お前は。本当に二十を越えてないのか?」
「えぇ、そうですね。まだまだ世間知らずな若造です」
冒険者は、基本的に自己責任。
パルクはアストと出会えて勇気が出た、振り絞れたことは偶然ではないと答えた。
大金を使い、使い捨てのマジックアイテムを購入し……人肉大好きアイアンイーターに挑んだ。
たとえそこで人肉大好きアイアンイーターに食い殺されても、運良く生き延びられたけど貯金がなくて宿を追い出されたとしても……そうなってもそれは全てパルクの自己責任。
何もアストが気にするところはない。
脅した訳でもなければ、茶化してその気にさせた訳でもない。
「俺はバーテンダーで、冒険者……それ以上の、何者でもない」
「そういうこった。まっ、店主は責任感が強そうだからな。色々考え込んでしまうかもしれないが、それを忘れてないなら、変に悩むことはないだろう」
「無茶言わないでくださいよ。まだまだ若造なんですから、これからまだまだ悩みまくりの人生ですよ」
「はっはっは!! 本当に悩んでる奴は、そんな事言わねぇよ」
こうしてこの日の宴会は終わり、人肉大好きアイアンイーターが討伐されたという情報は直ぐに広まり……翌日には再びコルバ鉱山に向かう冒険者たちが増えた。
「……昨日は割と勇気を出して、結果的に四人の命を助けたと思うんだけど……善行を積んだからって、そう簡単に運良くことは運ばないか」
当然、二日酔いにならず、鉱山で採掘を行っていたアストだったが……この日も鉱石を採掘出来ない訳ではないのだが、肝心の漆黒石が殆ど見つからなかった。
「もしかして、あのクソワームが食い荒らしてたのか?」
仮にそうだとして、やはり殺すサポートを行って良かったとは思うものの、だからといって全く何も解決しない。
「もうちょい掛かりそうだな~~」
樽の中を見るが……まだ半分も漆黒石が溜まっていなかった。
そして夜、夕食を食べ終えたアストは眠気が欠片もなかったため、適当な場所でミーティアを開店。
すると……数組の客が訪れ、帰った後、見覚えのある客と見覚えのない客が一緒にミーティアへ向かってきた。
「よぅ、店主。二人、いいか」
「えぇ、勿論ですよ。いらっしゃいませ」
一人はパルク。そしてもう一人は、大して特徴は聞いていなかったが、アストは直ぐに心当たりが浮かんだ。
アストとCランクの男……パルクがギルドに到着し、人肉大好きアイアンイーターの討伐を報告してから約二時間後、ギルドに併設されている酒場で宴会が行われた。
(……なんだか、少し前にもこんな感じで酒を作るんじゃなくて、呑む側に回ってたような)
ほんの少し前、アストは王都からなるべく近い場所に生息しているBランクモンスター……グリフォンを討伐した。
賞金を懸けられていた存在ということもあり、結果としてアストが討伐したことで宴会が行われた。
そして今回……まだアストの目標である漆黒石を樽一杯分採掘し終えてはいないものの、一旦考えることを止めて注がれるエールをどんどん呑み干していく。
「さすがバーテンダー、まだまだ余裕そうだな」
「全てのバーテンダー酒に強いわけではないと思いますけど……確かに、俺は強い方ではありますね。それより、ちゃんと呑んでますか、パルクさん」
「おぅよ。周りの奴らがどんどん注いでくれるからな……金を気にせず呑めるってのは、やっぱり良いもんだな」
「……カクテルを作って売る者がこんな事を言うのはあれかもしれませんけど、人の金で呑む酒が……一番美味いかもしれませんね」
この世界に転生する前から、何度も経験したことがある。
「はっはっは!!!! まさに、世界の真理ってやつだな」
「そうですね。ところでパルクさん、呑み友達に報告しに行かなくて良いんですか?」
「必要ねぇよ。そもそもギルドに伝えた時点で、自ずと伝わるだろ。なにより……わざわざ弟の腕の仇を討ってやったって俺から伝えるのは……ダサいだろ」
「……ロマンや漢といった部分を気にするのであれば、そうですね」
アストは、決してそのロマンや漢といった感情、考え方がダサいとは思わなかった。
「ありがとよ。まっ、そもそもな話……あいつは、誰かが倒さなきゃならなかった」
「偶々、パルクさんに勇気が溢れ出したから、と言いたいんですね」
「偶々……そうだな。と言いたいところだが、アスト……いや、店主。あんたあの店で出会いがあったからだ。だから、偶々勇気が出たって表現は違うかもな」
「……反応に困りますね」
頼んでもいないのに次々とテーブルに置かれる料理に手を付けながら、アストの表情には……苦い笑いが浮かんでいた。
「なんでだ? やっぱり、あのアイアンイーターは自分一人で倒してみたかったか?」
「そんな勇気、自分にはありませんよ。ただ、俺が背中を押してしまったと考えると……って、考えるのは駄目ですね。そう考えるのは、冒険者であるパルクさんに失礼でした」
「ふっふっふ、本当に可愛気が全くねぇぐらい優秀だな、お前は。本当に二十を越えてないのか?」
「えぇ、そうですね。まだまだ世間知らずな若造です」
冒険者は、基本的に自己責任。
パルクはアストと出会えて勇気が出た、振り絞れたことは偶然ではないと答えた。
大金を使い、使い捨てのマジックアイテムを購入し……人肉大好きアイアンイーターに挑んだ。
たとえそこで人肉大好きアイアンイーターに食い殺されても、運良く生き延びられたけど貯金がなくて宿を追い出されたとしても……そうなってもそれは全てパルクの自己責任。
何もアストが気にするところはない。
脅した訳でもなければ、茶化してその気にさせた訳でもない。
「俺はバーテンダーで、冒険者……それ以上の、何者でもない」
「そういうこった。まっ、店主は責任感が強そうだからな。色々考え込んでしまうかもしれないが、それを忘れてないなら、変に悩むことはないだろう」
「無茶言わないでくださいよ。まだまだ若造なんですから、これからまだまだ悩みまくりの人生ですよ」
「はっはっは!! 本当に悩んでる奴は、そんな事言わねぇよ」
こうしてこの日の宴会は終わり、人肉大好きアイアンイーターが討伐されたという情報は直ぐに広まり……翌日には再びコルバ鉱山に向かう冒険者たちが増えた。
「……昨日は割と勇気を出して、結果的に四人の命を助けたと思うんだけど……善行を積んだからって、そう簡単に運良くことは運ばないか」
当然、二日酔いにならず、鉱山で採掘を行っていたアストだったが……この日も鉱石を採掘出来ない訳ではないのだが、肝心の漆黒石が殆ど見つからなかった。
「もしかして、あのクソワームが食い荒らしてたのか?」
仮にそうだとして、やはり殺すサポートを行って良かったとは思うものの、だからといって全く何も解決しない。
「もうちょい掛かりそうだな~~」
樽の中を見るが……まだ半分も漆黒石が溜まっていなかった。
そして夜、夕食を食べ終えたアストは眠気が欠片もなかったため、適当な場所でミーティアを開店。
すると……数組の客が訪れ、帰った後、見覚えのある客と見覚えのない客が一緒にミーティアへ向かってきた。
「よぅ、店主。二人、いいか」
「えぇ、勿論ですよ。いらっしゃいませ」
一人はパルク。そしてもう一人は、大して特徴は聞いていなかったが、アストは直ぐに心当たりが浮かんだ。
280
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる