異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第91話 証明するには十分

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「それじゃあ、準備は良いかしら」

「あぁ、大丈夫だ」

互いに軽い準備運動を終え、構える。

(……信用して良さそうだな)

細剣を構えるヴァレアから殺意ではなく、純粋な戦意のみを感じ、アストは適度な緊張感を持ちながらも、少しホッとしていた。

「フっ!!!!」

初手は鋭い突き。
単純にして一番厄介な攻撃とも言える。

(予想通り、鋭いな!!)

攻撃の面積が点であり、予備動作が無いに等しい。
相手の呼吸を読み、正確に躱さなければ速攻で流れを持っていかれる。

(とはいえ、何だかんだで、負けたくはない……かな!)

冒険者の中で細剣、レイピアの類を使う者は少ない。
理由としては、単純に扱いが難しい。

大剣やロングソードの様に、刃が欠ければ最悪鈍器として扱えば良いという選択肢が取れず、扱い方を間違えれば直ぐにボキっと折れてしまう。

「っ、細剣の相手をするのに、慣れている様、ですね」

「それなりに、ですよ」

少ないと言えど、使っている冒険者は存在する。
ヴァレアの様に貴族出身でありながら冒険者として活動する者もおり、アストはこれまでそういった冒険者との交流もあって、全く慣れていない訳ではなかった。

(見て躱すことは、まだ出来るけど、中々……うん、難しいな)

元々ヴァレアが強者である事は解っていたアスト。
それを再確認し、一歩下がっていきなりバク転。

その勢いを利用して、脚から斬撃刃を放った。

「っ!!!」

苦し紛れに放った一撃ではなく、明らかに慣れた動作から放たれた一撃。

細剣で対処するという選択肢は絶対にあり得なかった。
全力で回避しながら、アストから眼を離さないようにしていたが……体勢が整う前に距離を詰められてしまう。

(勝負だな)

距離を詰める前に大きく息を吸い、無呼吸で斬撃を繰り出し続ける。

「くっ!!!!!」

細剣は攻撃を受けるのに向いておらず、受け流す技術を行うにも向いていない。
そのため、必然的に自身に迫る攻撃は全て回避しなければならない。

(それ相応の、力を持っている、のですね!!!)

距離を詰めたからといって、一手の差で攻守が逆転する可能性は十分にある。

ヴァレアもその隙を探し続けるも、悉くアストが対応し続け……攻守を逆転させない。

「っ!!!!!!」

「ふぅーーーーー、はぁ、はぁ……」

斬撃を躱すヴァレアの動きに合わせ、アストの蹴撃が叩き込まれるも、咄嗟に腕でガード。

結果として大きく飛ばされたが、まだヴァレアも戦闘続行可能。
対してアストは無呼吸による連撃が蹴撃を最後に途切れたが、それでもヴァレアとの距離が離れたことで、呼吸を整えることに成功。

当然、アストもまだまだここから戦うことは出来るが、これ以上戦う必要性を感じなかった。

「ヴァレアさん、これ以上はもういいでしょう」

「…………あなたの実力を確かめる戦いだから、と」

「そうです。勿論、ヴァレアさんが本気を出していないことは解ってます。ただ、それは俺も同じです」

「……えぇ、あなたの言う通りですね」

ヴァレアとしては、まだまだ戦い足りない。
だが、最も過ぎる正論を多くの同業者たちがいる前で言われてしまった。

加えて、アストにとって都合の良いタイミングで終わらせたと反論出来なくもないが、内容だけ見ればアストが優勢な戦況だったと言える。

(何を持ってるのか気になりますが、そこまで引き出せば、彼の言う通り確かめる為の戦いを越えてしまう……仕方ありませんね)

仮にそこまで求めるのであれば、逆にヴァレアがその戦いを受けてもらうに相応しい
何かを用意しなければなくなる。

「では、詳細が決まれば連絡をください。同じ宿で泊まってるので」

軽く一礼をし、アストは速足で訓練場から出て行った。


「………………」

アストが訓練場から出て行った後、ヴァレアはその場から動かなかった。

(……強かったわね)

多くの貴族が得意としてない細剣による攻撃に対応し慣れている。
柔軟な攻撃方法から一気に攻守を切り替え、ヴァレアが攻撃に出ようとしても、悉くそのタイミングを潰していた。

(刀で戦った場合、どうなるのかしら)

そこら辺の冒険者と比べて、ヴァレアは刀の扱いに大きな自信があった。
まだメイン武器として切り替えられてはいないが、それも時間と経験の問題。

そう思っていたが……今回刃を躱したアストには、実際にその光景を見ずとも……ある程度刀が扱える技量を感じさせられた。

(理不尽に感じなくはないけれど、ベルダーさんからの条件を私よりも達成した……その時点で、あの名刀に相応しいのは私ではなく、彼だったのかしら)

基本的に同じ条件下で戦い、明確な勝敗を付けてはいないとはいえ、互角の戦いであった事実は変わらない。

それは認めた。
雰囲気だけでは解らなかったが、稀にいる擬態する強者なのだと。

ただ……それが解ったからといって、忘れられないのが惚れるといった感情であった。
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