異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第139話 預かっている物

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「お待たせしてすいません。指名依頼の報酬金を受け取りに来ました」

「か、畏まりました! 少々お待ちください!!」

受付嬢はダッシュでアストの為に騎士団が送られてきた報酬金を取りに向かった。

「す、すいません」

「ん? ……えっと、俺に何か用かな」

声を掛けてきたのは、一人の若い女性冒険者だった。

「あの、その……もし良かったら、握手してください!!」

まさかの頼み事に、アストは目の前の女性が何を自分に伝えたのか理解するまで、数秒ほど時間が掛かった。

「…………あ、あぁ。勿論構わないよ」

慣れてはいない……決して慣れてはいないが、それでも女性に触れ慣れていないという訳ではないため、アストは目の前の女性冒険者の言う通り、握手をした。

「~~~~っ!! あ、ありがとうございました!!!」

「ど、どうも」

歳若い女性冒険者はほんの少し頬を赤くし、嬉しそうな表情を浮かべながら礼を述べ、パーティーメンバーの元へと戻っていった。

(こういうのは、俺の役割じゃないと思うんだけどな)

過去に知り合った顔も性格もイケてる知人たちを思い出していると……急に、複数の冒険者がアストの前に並び始めた。

「あの、私とも握手してください!!」

「あ、うん……勿論良いよ」

先程の女性だけ了承して、別の冒険者からの同じ要望を断るということは出来ない。

アストは自分の前に並ぶ冒険者たちと握手を交わし続けた。
その中には女性だけではなく、歳若い男性冒険者もいた。

(これも、先日土竜亜種と戦ったから、か?)

確かに、アストは土竜亜種……リブルアーランドドラゴンの討伐に貢献した。
決定打となる攻撃を与えたのもアストである。

だが、アストからすれば、その前にウェディーたちがダメージを与えてくれた蓄積があってこその結果だと思っている。

それでも、今回の戦闘でメインとなったのはカミカゼと名刀を使用し、土竜亜種を一刀両断したアスト。
そして……たった一人でAランクのオーガ、戦凶鬼を討伐した騎士団団長、アリステアの二人。

アストに関しては、他に参加していた女性騎士たちを守る為、命を賭した一撃を放ち、Aランクの土竜亜種を討伐した……といった感じで話が広まっている。

アリステアたちを敬愛する者が多い冒険者たちにとって、アストはまさに英雄と呼ぶに相応しく……同時に憧れを感じさせる人物となった。

「お、お待たせしました、アストさん」

「ありがとうございます」

袋を受け取ったアストは、比較的軽い中を確認しなかった。
報酬金の額に関しては事前にギルドから聞かされており、アストはギルドもアリステアたち騎士団も疑っていない。

「あの、アストさん。本日は何か予定があるでしょうか」

「いえ、特にありませんが」

「でしたら、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。騎士団の方々から預かっている物があります」

「預かっている物、ですか」

最後の攻撃で使用した名刀は、既に受け取っている。
戦闘中に落とした武器などはないため、何を預かっているのか全く解らなかったが、この後は特に予定がないこともあり、アストはギルドが何を預かっているのか見ることにした。

「こちらになります」

「………………なる、ほど」

ギルドの保管庫に入ると、中には大量の土竜亜種の素材が保管されていた。

脳や一部の臓器は使えなくなったが、幸いにも最後に放った斬撃で心臓は無事だったこともあり、Aランクドラゴンの心臓……所謂、ドラゴンハートと呼ばれている物も特別な保存液に浸されながら保存されていた。

「お肉に関しても劣化しない様に保存されています」

「そう、ですか……それで、これを見せてくれたという事は、アステリアさんたちはこの素材のどれかを、俺にくれると……言ってたんですね」

「はい。その通りです。加えて、心臓か魔石の片方を残してくれれば、他の素材は全て渡しても大丈夫だとも言っていました」

「…………随分と、太っ腹だな」

当然ながら、アストはそこまで受け取るつもりはなかった。

(とはいえ、何を受け取ろうか……………………一番は、身に纏っていた岩石だな)

アストが最初に選んだ素材は、普通のドラゴンにとって鱗部分である岩石。

アストは先日、名刀と高ランクの大斧を手に入れている。
武器だけの火力であれば、既に十分過ぎる火力を手に入れている。

その為、今回の様な万が一の……非常に危険な事態に備える為に、牙や爪などではなく岩石を欲した。

「身に纏っていた岩石、そして骨を少し。後、肉と…………そうだな。魔石を貰おうか」

「畏まりました」

受付嬢はギルド専属の解体師に指示を出し、岩石を運んでもらい……保存していた肉をアストの指示通りに切り分けた。

「これぐらいで良いっすか?」

「えぇ、ありがとうございます」

「英雄なのに、随分と言葉遣いが丁寧なんすね。いや、英雄だからこそ言葉遣いが丁寧なのか?」

「……その、英雄と呼ぶのは止めてもらえると助かります」

「なっはっは!! 本当に謙虚な英雄っすね」

そう言いながら解体士の男は土竜亜種の肉、骨、岩石、魔石を渡し、アストは苦笑いを浮かべながらそれらの素材を受け取るとった。

(俺は冒険者で、バーテンダー……英雄なんて、過ぎた呼び名なんだけどな)

本人は否定するも、それは無意味だった。
何故なら……自分ではない誰かが認めるからこそ、英雄となるのだから。
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