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第153話 良い兄貴に
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「お待たせ、カルアミルクだ」
「おう」
提供されたカルアミルクをヴァーニは豪快に……ではなく、ゆっくりと味わう様に
呑み始めた。
「ふふ」
「……なんだよ」
「いや、前とは違うなと思ってな」
アストが初めてヴァーニと出会い、その後ミーティアにヴァーニが訪れた際、彼は提供されたカクテルをまるでエールを呑むかのようにぐいっと一気に喉に通していた。
「うっせ。俺だってまぁ……あれから成長してんだよ」
「あぁ……そうだな」
アストとヴァーニの出会いは……簡単に言ってしまうと、切っ掛けはヴァーニがアストに対して行ったバカ絡み。
約二年ほど前、その頃からアストは知っている者たちからは面白い変人だと思われており、実際に戦いっぷりを観た人たちからは、冒険者一本に絞らないのは勿体ないと口にする者が多くいた。
そんなアストがラプターに訪れた際、ラプターにもアストの噂を知っている者がいた。
そして当時、ヴァーニはその時から現在も所属しているクラン、煉獄に在籍していた。
主に冒険者たちが集まって結成した冒険者ギルドの二次組織、クラン。
当時から大手ということもあり、そこに在籍している者たちは在籍しているということに誇りを感じていた。
そんな煉獄のメンバーである三十代手前のメンバーが実際にアストの戦闘光景を観る機会があり、クラン内でその光景を楽しそうに話した。
同じ年齢の者たち、ベテランたちは有望な者をスカウトするチャンスかと思い、盛り上がるも……既に在籍している若手たちからすれば、あまり面白い話ではなかった。
「なんて言うか……良い兄貴になった、ってところか」
「まぁ……あれだ。お前と別れてからそんなに時間は経ってねぇけど、偶に新人の教育を任されるようになってな」
「新人の教育、か…………その様子だと、割と上手くいってるんじゃないか?」
「ったく、なんでもお見通しかよ」
ヴァーニの表情から、多少の苦労は感じる。
ただ、それよりも楽しさの方が強いとアストは感じ取った。
「ありがたいことに、俺の事を最初から慕ってくれてる奴が多くてな」
「お前はガタイも良いし、俺と別れてから頑張ってたんだろ。そりゃあ、若い奴らも慕うようになるだろ」
「ふふ、おいおいアスト。お前、まだ二十は越えてないだろ」
「ん? あぁ……それはそうだが……まっ、気にするな」
まだ二十を越えていないアストが「若い奴ら」という言葉を使うことに対して、本来なら違和感を感じる。
しかし、アストと別れてから約二年……ヴァーニは、決して楽とは言えない冒険者生活を送っていた。
それもあってか、アストはちゃかしはしたものの、それでも言いたい事はなんとなく解った。
「……ふぅーーーー。やっぱり、お前の作ったカクテルは美味いな」
「そりゃどうも。そう言ってもらえると、バーテンダー冥利に尽きるよ」
カクテルが美味しいではなく、お前の作ったカクテルは美味しいな、と……名指しで褒められることほど、嬉しいことはない。
「ところで、なんでまたラプターに来たんだ? もしかして、うちに入るつもりになったか?」
「悪いが、そういうつもりじゃない。少し前に滞在していた街で知り合った冒険者たちに、ダンジョンの話をしたんだ。そしたら……また探索してみたいなと思い始めてな」
「ふ~~~ん……んで、その知り合った冒険者ってのは、女か?」
「そうだな。女性冒険者たちだ」
「ちぇ、やっぱりそうか」
特に隠すことなく、誤魔化すこともなく、自慢するように話す素振りがないとこがまたイラつく。
だが、それなりに冒険者としてではなく、人としても苦労を体験した今のヴァーニには……何故、アストが初めて出会った時からそういった面があったのか、今はある程度理解出来る。
「…………なぁ、あれは本当なのか」
「あれ、とはどの事だ。もう少し詳しく話してくれ」
「あれだよ。お前が、少し前に滞在してた街での話だ……本当に、一人で殺ったのか」
まだ言葉だけでは情報が少ないが、アストはヴァーニが自分に何を尋ねたいのかを察した。
「あれか。あれは、俺だけで戦った訳じゃない。共に戦った騎士たちの助けもあって、なんとか倒すことが出来たんだ」
「……それでも、止めはお前が刺したんだろ」
少し前のアストが討伐した大物といえば土竜の希少種、Aランクドラゴンのリブルアーランドドラゴン。
止めを刺すのも決して楽ではない、超強敵である。
「その止めを刺すのに、俺の行動の意図を察してくれた女性騎士が、他の騎士たちを動かしてなんとか時間を稼いでくれたんだ。何度も言うが、俺の力だけで討伐したわけではない」
「それだけでも、十分凄ぇって話だろ」
まだそこまで人生経験が長くないヴァーニだが、一介の冒険者が騎士たちに信頼されるというのがどれだけ凄い事なのかは解っていた。
「……褒めてくれるのは、嬉しいよ。ただ、その後に俺はぶっ倒れた。冒険者としては、あまり良くない行動だ」
「かもな。でも、その行動のお陰で、一緒に戦ってた騎士たちは助かったんだろ」
ヴァーニの言う通り、あそこでアストがカミカゼを使用してなければ……結果的にリブルアーランドドラゴンを討伐出来たとしても、死者が出ていた可能性が高い。
(やっぱり……こいつは違ぇな)
あの時出会った、当時はいけ好かない同世代の男は、今も見下さず驕らずに強い……そう感じたヴァーニは追加でメニューを頼みながら、アストにある事を頼んだ。
「おう」
提供されたカルアミルクをヴァーニは豪快に……ではなく、ゆっくりと味わう様に
呑み始めた。
「ふふ」
「……なんだよ」
「いや、前とは違うなと思ってな」
アストが初めてヴァーニと出会い、その後ミーティアにヴァーニが訪れた際、彼は提供されたカクテルをまるでエールを呑むかのようにぐいっと一気に喉に通していた。
「うっせ。俺だってまぁ……あれから成長してんだよ」
「あぁ……そうだな」
アストとヴァーニの出会いは……簡単に言ってしまうと、切っ掛けはヴァーニがアストに対して行ったバカ絡み。
約二年ほど前、その頃からアストは知っている者たちからは面白い変人だと思われており、実際に戦いっぷりを観た人たちからは、冒険者一本に絞らないのは勿体ないと口にする者が多くいた。
そんなアストがラプターに訪れた際、ラプターにもアストの噂を知っている者がいた。
そして当時、ヴァーニはその時から現在も所属しているクラン、煉獄に在籍していた。
主に冒険者たちが集まって結成した冒険者ギルドの二次組織、クラン。
当時から大手ということもあり、そこに在籍している者たちは在籍しているということに誇りを感じていた。
そんな煉獄のメンバーである三十代手前のメンバーが実際にアストの戦闘光景を観る機会があり、クラン内でその光景を楽しそうに話した。
同じ年齢の者たち、ベテランたちは有望な者をスカウトするチャンスかと思い、盛り上がるも……既に在籍している若手たちからすれば、あまり面白い話ではなかった。
「なんて言うか……良い兄貴になった、ってところか」
「まぁ……あれだ。お前と別れてからそんなに時間は経ってねぇけど、偶に新人の教育を任されるようになってな」
「新人の教育、か…………その様子だと、割と上手くいってるんじゃないか?」
「ったく、なんでもお見通しかよ」
ヴァーニの表情から、多少の苦労は感じる。
ただ、それよりも楽しさの方が強いとアストは感じ取った。
「ありがたいことに、俺の事を最初から慕ってくれてる奴が多くてな」
「お前はガタイも良いし、俺と別れてから頑張ってたんだろ。そりゃあ、若い奴らも慕うようになるだろ」
「ふふ、おいおいアスト。お前、まだ二十は越えてないだろ」
「ん? あぁ……それはそうだが……まっ、気にするな」
まだ二十を越えていないアストが「若い奴ら」という言葉を使うことに対して、本来なら違和感を感じる。
しかし、アストと別れてから約二年……ヴァーニは、決して楽とは言えない冒険者生活を送っていた。
それもあってか、アストはちゃかしはしたものの、それでも言いたい事はなんとなく解った。
「……ふぅーーーー。やっぱり、お前の作ったカクテルは美味いな」
「そりゃどうも。そう言ってもらえると、バーテンダー冥利に尽きるよ」
カクテルが美味しいではなく、お前の作ったカクテルは美味しいな、と……名指しで褒められることほど、嬉しいことはない。
「ところで、なんでまたラプターに来たんだ? もしかして、うちに入るつもりになったか?」
「悪いが、そういうつもりじゃない。少し前に滞在していた街で知り合った冒険者たちに、ダンジョンの話をしたんだ。そしたら……また探索してみたいなと思い始めてな」
「ふ~~~ん……んで、その知り合った冒険者ってのは、女か?」
「そうだな。女性冒険者たちだ」
「ちぇ、やっぱりそうか」
特に隠すことなく、誤魔化すこともなく、自慢するように話す素振りがないとこがまたイラつく。
だが、それなりに冒険者としてではなく、人としても苦労を体験した今のヴァーニには……何故、アストが初めて出会った時からそういった面があったのか、今はある程度理解出来る。
「…………なぁ、あれは本当なのか」
「あれ、とはどの事だ。もう少し詳しく話してくれ」
「あれだよ。お前が、少し前に滞在してた街での話だ……本当に、一人で殺ったのか」
まだ言葉だけでは情報が少ないが、アストはヴァーニが自分に何を尋ねたいのかを察した。
「あれか。あれは、俺だけで戦った訳じゃない。共に戦った騎士たちの助けもあって、なんとか倒すことが出来たんだ」
「……それでも、止めはお前が刺したんだろ」
少し前のアストが討伐した大物といえば土竜の希少種、Aランクドラゴンのリブルアーランドドラゴン。
止めを刺すのも決して楽ではない、超強敵である。
「その止めを刺すのに、俺の行動の意図を察してくれた女性騎士が、他の騎士たちを動かしてなんとか時間を稼いでくれたんだ。何度も言うが、俺の力だけで討伐したわけではない」
「それだけでも、十分凄ぇって話だろ」
まだそこまで人生経験が長くないヴァーニだが、一介の冒険者が騎士たちに信頼されるというのがどれだけ凄い事なのかは解っていた。
「……褒めてくれるのは、嬉しいよ。ただ、その後に俺はぶっ倒れた。冒険者としては、あまり良くない行動だ」
「かもな。でも、その行動のお陰で、一緒に戦ってた騎士たちは助かったんだろ」
ヴァーニの言う通り、あそこでアストがカミカゼを使用してなければ……結果的にリブルアーランドドラゴンを討伐出来たとしても、死者が出ていた可能性が高い。
(やっぱり……こいつは違ぇな)
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