159 / 167
第160話 肉体言語で
しおりを挟む
「お通しでございます」
既に用意を終えていた野菜スープを提供。
二人は一切躊躇することなく、ゆっくりと飲んでいき、体を温める。
「……相変わらず、この一杯だけでも、あたなの料理の腕の高さが解りますね」
「そう言ってもらえると幸いです」
(ん~~~~~、やっぱりこう……普段と違ってギャップがあるわよね~~~)
マルティーは温かい野菜スープを堪能しながらも、バーテンダーとしてのアストの雰囲気にギャップを感じていた。
普段、冒険者として活動しているアストは気の良い兄ちゃん……人によっては、飄々としながらもしっかり者という二面性を感じる者もいる。
だが、現在二人の前にいるアストは……礼儀正しく、言葉遣いも非常に丁寧なバーテンダーのアスト。
ヴァーニはそれがバーテンダーとして活動するアストだと解っているが、それでもむず痒さを感じるから普段通りにしてくれと頼んだが……二人は礼儀正しく丁寧なアストも気に入っているため、特に普段通りに接してくれとは頼まなかった。
「先に料理を……レイジブルのローストビーフとアヒージョを一つ。マルティーはどうする?」
「私はベーコンピザを頼もうかな。リーチェも食べるでしょ」
「えぇ。それじゃあ、お願いね」
「かしこまりました」
「それと、私はカンパリオレンジを一杯お願いするわ」
「あっ、私はカルアミルクで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
アストは二人からの注文をインプットし、まずは料理の下準備を開始。
それらを素早く済ませた後、まずはカルアミルクから造り、マルティーに提供。
(カンパリオレンジ、か……ある意味、リーチェに似てるかもしれないな)
ビター系のリキュールの代表ともいえるカンパリを使う事で、甘さが控えめの大人の味がするカクテル。
アストはまずゴブレットというワイングラスよりも容量が大きいグラスを取り出す。
そして幾つかのカットした氷を入れ、カンパリを注ぐ。
次に冷やしたオレンジジュースで満たし、ステアを行う。
最後にスライスオレンジを添え……カンパリオレンジの出来上がり。
「………ふふ、良いわね。確かにオレンジの味はするのに、それでも不思議と甘過ぎない……なのに、美味しい」
「ま……カルアミルクも最高だよ、アスト君!」
「そう言ってもらえると、嬉しい限りです」
まるでリーチェみたいね、と言おうとしたマルティーだが、吞み始めてから速攻で言う冗談ではないなと思い、なんとか踏みとどまった。
「煉獄からの指名依頼を受けて……どうでしたか」
「どうと、言われましても」
「内容は、ヴァーニさんの後輩たちの指導でしょう」
(……これは、もうバレてると思っても良いのか?)
煉獄からギルドを通してアストに指名した依頼は、あくまで指導依頼。
煉獄に所属している誰を指導してほしいという内容は一切書かれていなかった。
だが、リーチェはさも知ってて当然という雰囲気で答えた。
「……昔のヴァーニさんたちを思い出したと言いましょうか」
「ぶっ!!」
幸いなことに、カルアミルクを含んではいなかったため、カウンターを汚すことはなかったマルティー。
申し訳ないとは思いつつも、過去にアストたちとヴァーニたちが衝突した件を知っている身としては、アストがさん付けでヴァーニを呼ぶ光景が、あまりも面白過ぎた。
「やはりそうでしたか」
「ですが、一人だけ変わった人物がいました」
「変わった、ですか…………エイモンさんの事ですね。確かに、彼は変っているところがあるかもしれませんね。しかし、他の面々が跳ねっ返りでは、やはり格の差を見せつけたのですか?」
「そんな大層なことはしていませんよ。ただ、やはり言葉だけで大切な事を伝えることは出来ず……元々ヴァーニから頼まれていた内容もあって、肉体言語で語り合うことになりました」
控えめに答えるも、リーチェとマルティーはここ最近のアストの活躍を知っているため、「相変わらず謙虚だな~」としか思わなかった。
「そうでしたか。それで、上手くいきましたか?」
「ひとまず、本能的に一応自分たちより強い存在だとは認識していただけたかと」
「本能はってとこが、まだまだ青いって感じね~~」
「……彼等にとって、所属しているクランの先輩であるヴァーニたちが頼れる存在。だからこそ、よそ者に頼りたくないという気持ちもあるのでしょう」
「ひゅ~~~~、大人な意見ね。でも、やっぱりよそ者でも先輩として思うところはあるでしょ」
アストはレイジブルのローストビーフを盛りつけながら、改めて本日のあれこれを振り返る。
「…………親元を離れ、一人で……もしくは同じ立場の者たちと生活するようになったからといって、いきなり大人になれる訳ではありません。なので、彼らの怒りを受け止めるのも先輩としての役目かと」
なるほどなるほどと感心しながらも、出来上がったばかりのローストビーフを食べながら……二人は「それだとヴァーニたちの立場がないのでは?」と思うも、とりあえずそれを口には出さなかった。
既に用意を終えていた野菜スープを提供。
二人は一切躊躇することなく、ゆっくりと飲んでいき、体を温める。
「……相変わらず、この一杯だけでも、あたなの料理の腕の高さが解りますね」
「そう言ってもらえると幸いです」
(ん~~~~~、やっぱりこう……普段と違ってギャップがあるわよね~~~)
マルティーは温かい野菜スープを堪能しながらも、バーテンダーとしてのアストの雰囲気にギャップを感じていた。
普段、冒険者として活動しているアストは気の良い兄ちゃん……人によっては、飄々としながらもしっかり者という二面性を感じる者もいる。
だが、現在二人の前にいるアストは……礼儀正しく、言葉遣いも非常に丁寧なバーテンダーのアスト。
ヴァーニはそれがバーテンダーとして活動するアストだと解っているが、それでもむず痒さを感じるから普段通りにしてくれと頼んだが……二人は礼儀正しく丁寧なアストも気に入っているため、特に普段通りに接してくれとは頼まなかった。
「先に料理を……レイジブルのローストビーフとアヒージョを一つ。マルティーはどうする?」
「私はベーコンピザを頼もうかな。リーチェも食べるでしょ」
「えぇ。それじゃあ、お願いね」
「かしこまりました」
「それと、私はカンパリオレンジを一杯お願いするわ」
「あっ、私はカルアミルクで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
アストは二人からの注文をインプットし、まずは料理の下準備を開始。
それらを素早く済ませた後、まずはカルアミルクから造り、マルティーに提供。
(カンパリオレンジ、か……ある意味、リーチェに似てるかもしれないな)
ビター系のリキュールの代表ともいえるカンパリを使う事で、甘さが控えめの大人の味がするカクテル。
アストはまずゴブレットというワイングラスよりも容量が大きいグラスを取り出す。
そして幾つかのカットした氷を入れ、カンパリを注ぐ。
次に冷やしたオレンジジュースで満たし、ステアを行う。
最後にスライスオレンジを添え……カンパリオレンジの出来上がり。
「………ふふ、良いわね。確かにオレンジの味はするのに、それでも不思議と甘過ぎない……なのに、美味しい」
「ま……カルアミルクも最高だよ、アスト君!」
「そう言ってもらえると、嬉しい限りです」
まるでリーチェみたいね、と言おうとしたマルティーだが、吞み始めてから速攻で言う冗談ではないなと思い、なんとか踏みとどまった。
「煉獄からの指名依頼を受けて……どうでしたか」
「どうと、言われましても」
「内容は、ヴァーニさんの後輩たちの指導でしょう」
(……これは、もうバレてると思っても良いのか?)
煉獄からギルドを通してアストに指名した依頼は、あくまで指導依頼。
煉獄に所属している誰を指導してほしいという内容は一切書かれていなかった。
だが、リーチェはさも知ってて当然という雰囲気で答えた。
「……昔のヴァーニさんたちを思い出したと言いましょうか」
「ぶっ!!」
幸いなことに、カルアミルクを含んではいなかったため、カウンターを汚すことはなかったマルティー。
申し訳ないとは思いつつも、過去にアストたちとヴァーニたちが衝突した件を知っている身としては、アストがさん付けでヴァーニを呼ぶ光景が、あまりも面白過ぎた。
「やはりそうでしたか」
「ですが、一人だけ変わった人物がいました」
「変わった、ですか…………エイモンさんの事ですね。確かに、彼は変っているところがあるかもしれませんね。しかし、他の面々が跳ねっ返りでは、やはり格の差を見せつけたのですか?」
「そんな大層なことはしていませんよ。ただ、やはり言葉だけで大切な事を伝えることは出来ず……元々ヴァーニから頼まれていた内容もあって、肉体言語で語り合うことになりました」
控えめに答えるも、リーチェとマルティーはここ最近のアストの活躍を知っているため、「相変わらず謙虚だな~」としか思わなかった。
「そうでしたか。それで、上手くいきましたか?」
「ひとまず、本能的に一応自分たちより強い存在だとは認識していただけたかと」
「本能はってとこが、まだまだ青いって感じね~~」
「……彼等にとって、所属しているクランの先輩であるヴァーニたちが頼れる存在。だからこそ、よそ者に頼りたくないという気持ちもあるのでしょう」
「ひゅ~~~~、大人な意見ね。でも、やっぱりよそ者でも先輩として思うところはあるでしょ」
アストはレイジブルのローストビーフを盛りつけながら、改めて本日のあれこれを振り返る。
「…………親元を離れ、一人で……もしくは同じ立場の者たちと生活するようになったからといって、いきなり大人になれる訳ではありません。なので、彼らの怒りを受け止めるのも先輩としての役目かと」
なるほどなるほどと感心しながらも、出来上がったばかりのローストビーフを食べながら……二人は「それだとヴァーニたちの立場がないのでは?」と思うも、とりあえずそれを口には出さなかった。
169
あなたにおすすめの小説
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる