異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第162話 若気の至り

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「アスト……この、キスミークイックを貰えるかしら」

「かしこまりました」

既にアストが店を開いてから数時間が経過。

客はミーティアとリーチェ以外も訪れ、アストはカクテル作りに料理と奔走していた。
中には、目麗しい受付嬢たちの中でも人気のあるリーチェがいることに驚き、少しでも彼女の気を引こうとカクテルや料理をご馳走する者もいた。

その誘いにリーチェも、ついでにマルティーも断らなかった。
何故なら……二人ともかなりの蟒蛇だから。

結果、少しでも気を引き、あわよくばと考えていた男性冒険者たちのは全員ノックアウト。
驕りと言っておきながら、酔いが回って支払いを忘れそうになるが、そこはアストが声を掛ける……よりも先にリーチェとマルティーの二人の腕を掴まれ、しっかりと払うように告げられる。

(一応男としては、可哀想に思えなくもないな)

ミーティアにあるメニューは、カクテルだけではなく料理も安い。
ただ……使われる素材によっては、他の店で出されたらと考えれば安いものの、それでも決して財布にそこまで優しくない値段のメニューもある。

あわよくばと考えていた男たちはそれを二人にご馳走。

二人は有難くそれを貰いながら、言葉巧みに声を掛けて来た男たちにも酒を呑ませ……結果、先に野郎たちの方が良い潰れてしまった。

「お待たせしました、キスミークイックです」

シェーカーにペルノを六十、ホワイトキュラソーとアンゴスチュラビターを三滴、そして氷を入れてシェーク。

出来上がったものをグラスに入れ、泡立たないようにゆっくりと炭酸を入れてステアすれば完成。

「……透明。でも、だからこそ複数の泡が……どこか幻想的に見えるわね」

(カンパリオレンジ、ジンライム……それにキスミークイック、か……他のカクテルも呑んでたけど、もしかしなくても……意味を知ってたりしない、よな?)

カンパリオレンジのカクテル言葉は初恋。
そして、ジンライムは色褪せぬ恋。
キスミークイックは……幻の恋。

カクテル言葉というものを知っているからこそ、アストは変に勘繰ってしまう。

「…………ふふ、良い味ね。これだけ美味しいカクテルや料理を作れて、冒険者としても強いとなれば……あなたを独占したい人もたくさんいるでしょう」

「皆さん、理解のある方々ばかりですので、今のところその心配はないかと」

独占したい人たち……自身をスカウトしたい人たちがいることに関しては否定しなかった。

それは決して自慢ではなく、リーチェたちになら色々とバレているだろうから、隠すだけ無駄だという諦めだった。

「ふ~~~ん、そうなのね……」

「ていうか、アスト君なら普通に本気で好きになっちゃう子がいるでしょ」

「…………好意を寄せていただける機会はありました。ただ、どれも若気の至りというものです」

「「…………」」

若気の至り。
リーチェとマルティーも、まだ若い。
しかし、その二人よりもアストは若い。

そんなアストが若気の至りという言葉を使うのは、面白くないジョークとしか思えない。

「アスト、あなたに好意を寄せた子たちの中には、本気であなたの事を想っていた子もいたはずですよ」

「……かもしれませんね。ですが……だからこそ、若気の至りかと」

「もう少し解る様に説明して貰ってもいいかしら」

「…………私は、旅のバーテンダーであり、旅の冒険者です。街から街へ……いずれは国から国へと旅を続けます。まだ二十も越えていない方々に、それでも付いて行くという覚悟が、本当にあるかと思いますか」

「覚悟、ね………………なるほど。それはまた、難しい問題ですね」

本人が語った通り、アストは街から街へ、そしていずれは国から国へ旅をする者。

冒険者の中には、拠点を持たない冒険者たちもいるが、それでもいずれは何処かに腰を下ろす。
しかし……アストは今のところ、それをいつにしようかという考えすらない。

(アストは、お人好しなところもありますからね)

あくまで冒険者は副業で、本業はバーテンダーだと語るアスト。
リーチェはその言葉が嘘だとは思っていない。
ただ、結果としてアストは困っている者を見捨てられないところがあり、結果として冒険者として大きな戦場に足を踏み入れる。

(な~~るほどね~~~。確かに、アスト君は割とBランクモンスターと戦ったり、この前なんてAランクモンスターとも戦ってたんだもんねぇ……っていうのを考えると、好み云々の前に、冒険者として超強くなかったら隣に立てないってことね~~)

本気で想いを寄せる女性に対し、若気の至りで済ませるのはいかがなものかと……小さな怒りを感じた二人だったが、アストのこれからも進み続ける人生を考えると、彼がその言葉を使う意味が解らなくもなかった。
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