執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

文字の大きさ
33 / 166

第33話 職人にはならない

しおりを挟む
「ふぅ~~~~、作った作った。んじゃ、俺たちもゆっくり食べましょ、クローゼルさん」

大量のふんわりパンケーキを焼いて焼いて焼きまくったバトムス。
パーズの分を焼き終わった後にも、まだいくつかのパンケーキを焼いていた。

「良いのか?」

「勿論ですよ。なんだかんだで結構手伝ってもらっちゃいましたし」

「…………そうか、ではお言葉に甘えようか」

正直なところ、クローゼルも甘い食べ物は嫌いではないため、有難かった。

「どうぞ。皆さんの分はこれだけなので、分けて食べてくださいね」

「「「「「ッ!!!!」」」」」

パーズの元まで向かうと、数人ほど入れ替わりでパーズをもふもふしに来ていたメイドたちにバトムスはいくつかのパンケーキを渡した。

それを見て、メイドたちは目をキラキラと輝かせた。
何故なら……自分たちの分にも、しっかり蜂系モンスターの蜜が掛かっていたからである。

その場に椅子などはなく、地面に座って食べるという非常に行儀が悪い……食べ方になることはなく、土魔法を使えるメイドが即席でテーブルとイスを用意した。

「はぁ~~~~~、幸せ~~~~~~」

「本当ね~~~。にしても、本当に私たちまで貰って良かったの、バトムス」

メイドたちに関しては、特にパンケーキの調理を手伝った訳ではない。
ただパーズの傍にいて、もふもふしていただけである。

「大量のパンケーキを食べ続けるパーズを見るだけっていうのは、地獄だったでしょう。後、多分本来は俺が執事見習いとしてやらなければならないであろう仕事を、皆さんがやってくれてると思うんで」

確かに、その通りかもしれない。

しかし、甘い物好きであるメイドは、パンケーキにかけられる蜂蜜がEランクやDランクではなく……Cランクの蜂系モンスターの蜜が使われている事を見抜いていた。

(普通に店で食べようとすれば、絶対に銀貨数枚は弾け飛ぶ。それをタダで……はぁ~~~、本当に幸せだわ)

銀貨数枚……平民であっても、絶対に支払えない金額ではない。

アブルシオ辺境伯家で働いているメイドたちも、支払うことはそこまで難しくない。
だが、女性はその他の部分にもお金がかかってしまい、甘味にお金を使ってしまうと……他の事にお金が回らなくなってしまう。

その為、今日の様にお金を払わず、他のメイドたちと分けてとはいえ、ふわふわのパンケーキに上等な蜂蜜が掛かったデザートを食べられたのは、天からの恵みであった。

「……バトムス。あちらから、お嬢様が見ているが」

「ん? あぁ~~~……みたいっすね」

パーズが大量のパンケーキを食べているという話は、割と直ぐに広まっていた。
当然、そうなるとルチアの耳にも入ってしまう。

現在、ルチアは少し離れた物陰から羨ましそうな表情でバトムスたちが蜂蜜たっぷりのパンケーキを食べる様子を見ていた。

「まっ、別に大丈夫じゃないっすか? だって、どれだけ甘い食べ物が好きでも、辺境伯家の権力を利用して使用人たちから甘味を奪おうだなんて、そんな器の小さい真似をすることはないでしょう」

「っ!!!!!!」

普段よりも大きな声で、どう考えても離れた場所にいるルチアの耳に入る声量で、そんな事はしないだろうと……バトムスはニヤニヤとした表情で口にした。

その時、ルチアの中で、器の大きさなんてクソ喰らえだ!!!!!! という思いが爆発しかけた。
もう、遠目からでも甘くて美味いというのが解る。

ただ………………権力を使って使用人たちが食べている物を奪おうとするのは、まだ七歳のルチアでも……ダサい、よろしくないと解っていた。

「…………………………っ!!!!!!!」

約二十秒ほど歯ぎしりをしながら悩んだ末、ルチアはその場から速足で立ち去って行った。

「ふぅ~~~~~……良かったと、言って良いのでしょうか」

「言って良いんじゃないっすか」

「……それにしても、相変わらずバトムスはルチア様に厳しいですね」

「そうっすか? 別に俺は当たり前の事を口にしただけですよ」

権力を立てに、立場の弱い者の食べ物を奪おうとする。
確かに、それは器が小さい者の行動。

しかし、ルチアはまだ七歳の子供であり、多少の我儘を口にするのは致し方ない
部分とも言える。

「………………」

クローゼルは、そこに関して何も言わなかった。

何故なら……今回パンケーキに使用した蜂蜜に関しては、バトムスが自分のお金で購入した物だからである。

パンケーキを作る為に使用した物の一部、バトムスが自ら購入……お金を出している。
それもあって、クローゼルは「少しぐらい分けてあげても良かったのではないか」とは言えなかった。

「それにしても……バトムスは将来、菓子職人にでもなるの?」

メイドは毎回バトムスが厨房からパーズにパンケーキを持ってくる様子から、中でバトムスが実際にパンケーキを作っているのだと思っていた。

「? なりませんよ。こうやってパーズのご褒美のために作ったり、なんとなく気分で作るのは良いですけど、どっかの店に働いたりとか、そういうのは俺には無理ですよ」

「そう……なら仕方ないわね」

メイドとしても、こうして偶に食べられる機会を失いたくないため、バトムスが菓子職人として働きにいかないのは、それはそれで良い事だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...