執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

文字の大きさ
73 / 166

第73話 助けを、求められない

しおりを挟む
「……ん………………っ!!!!!?????」

自分が知らない場所にいる。
そう感じた少女は勢い良く飛び起きた。

「ん? 良かった良かった、起きたみたいだな」

「あ、あなた、は…………っ!! 私を助けてくれた人の、一人」

「そこら辺はちゃんと覚えてくれてる様でなによりだ。それじゃ、ちょっと待っててくれ」

少女にそう告げると、バトムスは部屋から退出。
すると直ぐに……一人の大人と共に戻ってきた。

「……本当に目が覚めたようだな」

「っ!!!」

「大丈夫だ。そのまま座っていてくれ」

「わ、分かりました」

確かに少女は目を覚ました。
だが、まだ体力が完全に戻ったとは言い難い状況だった。

「ほい、とりあえずこれでも食ってくれ」

バトムスは飲み物とお粥を用意。
どうせならガッツリ肉をと思っていたが、少女の体がやや痩せていたことを思い出し、胃がビックリしないようにとお粥を作っていた。

「い、良いん、ですか。本当に……食べても」

「君の為に造ったんだから、逆に食べてもらわないと困るって感じだ」

「…………」

少女はゆっくりとお粥を口に入れ……その美味しさに、温かさを感じて涙を零した。

(っ!!!??? よ、よっぽど腹が減ってた…………っていう訳じゃ、ないのかもな)

少女が眠っている間、バトムスは本日護衛を頼んでいた騎士……リュートとある程度どうして獣人族の……狼人族の少女があんな場所で一人で活動していたのかについて話し合っていた。

「とても、美味しかったです」

「そりゃ良かった…………それで、良かったらなんだけど、君の事を教えてもらっても良いか」

何も聞かない、という訳にはいかない。
彼女を悲しませるかもしれない、また涙を流させてしまうかもしれないが、それでも聞いておかなければならなかった。

「…………実は」

本当に死んでしまう状況で助けてもらい、傷を治してもらい、ご飯までご馳走になった。
その対価として、自分がどういった人物なのか、何故あぁいった状況になっていたのかは語らなければならないと思い……ゆっくりとではあるが、少女は自身のこれまでについて語り始めた。





「そうか……」

「…………」

全てを聞き終えたバトムスの表情に浮かんでいたのは、薄っすらとした怒りだった。

彼女の名前は、シエル。
ある村で生まれた一人の少女だった。
ここ最近まで、特に不幸に見舞われることなく、農民として平和な日々を過ごしていた。

だが、ある日……目を覚ますと、彼女の頭には獣人族の耳が、尻からは尾が生えた。

シエルの両親は人族であり、二人の両親も人族。
家系に獣人族はいない。
にもかかわらず、彼女の見た目は獣人族へと変化。

村に人族しかいなかったということもあり、彼女は村の大半からあまり快く思われなくなった。
それでも、村の外の世界に興味がある者たちにとっては、話しだけは聞いたことがある獣人が目の前にいるということもあり、彼女を避けることはなかった……が、その年……農作物が天候によって上手く実らなかった。

その年で直ぐに村が破滅する、税を収められないということはないが、それでも彼らにとっては痛手も痛手。

そうなると人間はどうするのか…………バトムスの前世ほど、生まれた国ほど基本的に誰でも情報を得られる世界ではないからこそ、全くもって理由にならない事に理由をこじつけてしまう。

村人たちは……不作になったのは、シエルという人族の姿から獣人族の姿に変化した者の呪いだと断定した。
全員がその考えに同意したわけではないが、家族を含めてシエルを庇う者は多くなかった。

まだ十になったばかりのシエルだったが、その状況を見て……ある事を悟ってしまった。
このまま自分が村に居続ければ、自分だけが白い目で見られるのではなく、自分を庇う数少ない味方……獣人の姿になっても自分を愛してくれた両親にも同じ目が向けられ、いずれ……暴力を受けるのではないかと。

そう思ったシエルは朝日が昇ると共に、誰にも気付かれないように……村を出た。

どれだけ移動すれば、どの街に着くのか解らない。
そもそも……人族から獣人族に変化した自分を受け入れてくれる人たちがいるのかなど、解らない。

シエルは移動して移動して……移動し続けた。
途中で村を見つけても、呪いだと言われ、迫害一歩手前で追い詰められた彼女は、助けを求めることが出来なかった。

その結果、途中でコボルトに追い付かれてしまいあと一歩のところまで追い詰められたところで、運良くバトムスたちが駆け付けた。

「あの、本当に、助けてくれて、ありがとうございました」

感謝の言葉を口にした……だけではない。
表情を見れば、これ以上迷惑を掛けなようにと、直ぐに出て行こうとしているのが解る。

バトムスは……そんな彼女を、放っておくことが出来なかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...