雨のナイフ

Me-ya

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-そんなある日、彼が部屋に来た。

最初、部屋のドアが開く音がした時、俺は当然、速水が入ってきたと思った。

だが、振り向いたら見慣れた速水の精悍な顔じゃなく、綺麗な晃の顔があって驚いた。

「なんだ。元気そうじゃん」

「………晃」

どうして晃がここに…?

「馨に聞いたんだ。ここに居るって」

晃は、まるで俺の心を読んだみたいなタイミングでそう言った。

「………馨って……どうして、晃が速水のことを…」

「だって僕、馨と付き合っているからね」

淡い薄茶の髪をかきあげながら、なんでもないことのように晃が言う。

「付き合っているって…じゃ、脅されているって言っていたのは…嘘?」

「当然でしょ…由貴が僕と一緒に居たところを馨が見たらしくて、会わせろって言うからさ…仕方なくね。全く、由貴のどこをそんなに気に入ったんだか…いつもの気紛れで、すぐ飽きると思っていたのに…」

晃は今まで見たことがないようなキツい瞳で俺を睨み付けた。

「泥棒猫!!」

そう言うなり、晃は右手で俺の左頬を張り倒した。

「………あ…っ」

いきなりのことに呆然としていた俺は左頬を叩かれ、勢い余って無様に全裸のままベッドから床に転がり落ちる。

「どうやって、馨を誑かしたのさ!?」

「…して…してない…そんな…誑かすなんて…」

床に全裸で座り込んだまま、俺は叩かれた頬を押さえて晃を見上げる。

「どうして僕じゃなく、由貴なんだ!!」

今度は、右頬を叩かれた。

「由貴のどこがいいんだ!!」

次は左頬を叩かれた。

「どうして!!」

次は右頬を…。

俺は抵抗することも忘れて、晃の顔を見上げるばかり。

「どうして…!!」

晃が泣いている。

俺を叩きながら、泣いている。

「…何だよ、その目は?」

泣いて、怒っていても晃は綺麗だった。

「僕に同情しているわけ?由貴に同情なんか…!!」

晃が手を振り上げた。

叩かれる!!
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