雨のナイフ

Me-ya

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~エピローグ~

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「俺、思ったんだ」

その時、それまで黙っていた由貴が口を開いた。

「俺達が居る限り、きっと誰かをまた不幸にしていくって…」

由貴の独り言のような呟きに返事はない。

馨の顔には珍しく、焦りみたいなものが浮かんでいる。

車はスピードを上げて下り坂を進んでいく。

だんだんと険しくなっていく馨の顔に対して由貴の顔は静かだ。

前を向いたまま由貴は再び口を開く。

「諦めなよ」

「………え?」

「いくらブレーキを踏んでも、止まらないよ」

「おまえ…まさか…?」

必死にハンドルを握る馨を振り返り、初めて由貴はニッコリと笑った。

「このスピードじゃ飛び降りることもできないね。おまけにこの先は急カーブだ」

「お前…こんな事をして、わかっているのか…お前自身も、助からないぞ」

「助かろうなんて思ってないよ」

由貴の言葉に、馨が黙る。

「俺を馨の物にしたいんでしょ。この方法だと完璧だと思わない?」

「……………」

馨はその時、由貴の顔を見詰めた。

馨と由貴は、そこで初めて見詰め合う。

雨は激しく降り続き、急カーブが見えてきた。

「それとも、僕と一緒じゃ不満?」

それまで探るように由貴の瞳を見詰めていた馨は、ハンドルから放した手を由貴に伸ばす。

馨にキツく抱き締められた由貴はそのまま目を閉じ、馨の背中に腕を回して微笑んだ。

……………………………………………………。

…………………………。

……………。

……………。

…………………………。

……………………………………………………。

-車はスピードを落とさずガードレールを突き破ると、崖下に落ちていった-。


                    《完》
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みんなの感想(1件)

カスミ草
2024.03.27 カスミ草

まさかの切ない最後に涙が止まりませんでした🥹
馨の執着は可愛さ余って憎さ百倍の愛でしかないのに、本人は気付いてなかったのかなぁ。
せめて好きなのだと口にしていれば。

晃の死には同情も何も無かったです。
あれは自業自得だし、晃が嘘ついて由貴君を貶めようと馨に合わせたのが発端なんだし。
だけど、最後どうしたかったの?
由貴君を思って馨から逃げたままにしてあげたかったの?
だから止める為に車に飛び込んだの?
晃も自分では知らぬ間に由貴君に執着してたのかな。

三城君と由貴君には幸せになって欲しかったけど、そうならないのが物語の面白味だと思います😊
悲しいけど、切ないけど涙が溢れたけど読んで良かった🥹と思いました。
ありがとうございました😊

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