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21 マウントがとれちゃった

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 ケーンたちは、隠し部屋で一休み。隠し部屋の利点は、中のモンスターさえ倒したら、完璧にセーフティハウスになることだ。
 他の魔物は入ってこられない。

「ケーン様、『ニンジャ走り』どんなふうに思いつかれたのですかか?」
 キキョウは、さきほど聞けなかったことを聞く。余裕で進んできたが、ダンジョン内だ。無駄話は憚られた。あんな不合理を試そうとする意図がわからない。

「ん? まあ、気にしないで。
詳しく説明したら、結構難しい問題が発生する。
あれ、本当は『ナ〇ト走り』というんだ」

「難しい問題?」

「著作権といってね。
作者や出版社の権利を守るための決まりだよ」
「権利?」
「いや、その説明も難しいかな。
もう許して。
単なるジョークの一環だから」

「そうなんですか……。ふ~ん」
 さすがのキキョウも、少しばかりカチンときた。魔物の数も少なかった。苦戦する魔物もいなかった。
それでもここはS級ダンジョン。ジョークをかますのは、冒険者としてどうかと思う。

「マジでごめんなさい!」
 土下座して謝るケーンだった。

「まあいいです。今後気をつけてください」
 ケーンの正体を知って以来、ずっと圧倒されるばかりだった。なんとなくマウントがとれて、少しばかりいい気分になれたキキョウだった。



 ケーンたちはドロップを回収し、通路にもどった。

前に進むが、相変わらず魔物が少ない。

「引き返す? これじゃ張り合いないよね?」
 ケーンが提案する。

「そうですね。ん? 
先の方が騒がしいですね? 
様子見てきましょうか?」
 キキョウの感知スキルは超優れている。

だが、ケーンのスキルは、さらに優れていた。

「どこかのパーティが大ピンチみたいだ。俺が行ってみる」
 ケーンが、オリハルコンの剣をすらりと抜いて、走り始めた。

キキョウとブラックは、慌ててケーンの後を追う。

天使の羽ブーツを装備したキキョウでも、全然付いていけなかった。

やっぱりケーン様は本物だ。キキョウはうっとりと目をハートマークに。ケーンの後姿はみるみる遠ざかった。

少しは魔物もいたようだ。ブラックは、ケーンが倒した魔物のドロップを、せっせと回収していた。

彼が慌てたのは、ドロップを横取りされないか心配だったからだ。

ケーン様は、金貨もアイテムドロップも、全然無関心なんだもん! 

ブラックの貧乏性は、筋金入りだった。
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