改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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28 君はお花畑を見たか

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 いきなりシルバーウルフの群れと遭遇。十頭はいるようだ。

一頭一頭の力はしれているが、群れとなったら話は違う。

イヌ科モンスターの常として、連携してじわじわとダメージを与えてくる。
少人数パーティにとって、厄介な敵だ。

「かかって、こいや~!」
 ケーンは短剣を抜いて群れに飛び込んだ。

「おい! 無茶したらあかん!」
 ユリはびっくりして叫んだ。

あれは「挑発」と呼ばれる基本的スキルだ。

防御力が弱い味方をかばうため、前衛がしばしば用いる戦術。

敏捷性や防御力が伴わなければ、きわめて危険だ。

ユリは思わず目をそむけたくなった。ケーンの動きを見たら、超ヤバいとしか思えなかった。

ところが、不思議なことにケーンは、狼の牙や爪、体当たりをぎりぎりでかわし、的確に急所を攻撃している。

防御力が低いシルバーウルフとはいえ、一撃で倒していく。

全く弱いのか強いのかわからない。

気づいたら、戦闘は終わっていた。


「情けねえ。たかがシルバーウルフ相手にこのざまか」
 ケーンは、肩で大きく息をしている。

いやいやいや、あんたCランクやろ! 
一人で十頭ものシルバーウルフ倒せる、Cランクなんて、見たことないで。

どうなっとんねん? 

だが、戦い方を見たら、まさしくCランク程度の能力だ。

あのとろいスピードで、どうやって攻撃かわしたん? 
なんぼケルベロスの短剣いうても、急所に当たらんと、一撃では死なんで。

気づかんかったけど、魔法付与したん?

「解体ぐらい手伝えよ。こいつらの毛皮、結構高いんだろ? 
なるべく傷めないよう仕留めたから」
「はい……」
 ケーンの言葉に、思わず素直な言葉を返したユリだった。


「なあ、自分。なんか秘訣あるんか? 戦闘の」
 シルバーウルフの毛皮を、剥がしながらユリが聞く。

「秘訣? キャリアだよ。
つまり、見切りだ。
能力は情けないほど落ちたけど、本能レベルでたたきこまれた技は、衰えないみたいだな」
 ケーンは、ユリがあきれるほど手際よく、狼の毛皮を剥がしていく。
お坊ちゃまのくせに、なんと器用な。

「自分、どんな修行積んだん?」

「お花畑、見たことあるか? 
身体から魂が離れかけたら、天国としか思えないほど、のどかできれいなお花畑が見える。
ああ、やっと楽になれる。
そう感じた瞬間、魂が引き戻される。
戦闘で死んで、師匠が蘇生魔法でこの世に引き戻す。
十歳ぐらいからその繰り返し。
大きな損壊がなくて、お花畑になじんじゃうまでは、大丈夫だそうだけど」
 なんやそれ? ユリはドン引き。

「あんたの師匠って誰や?」

「バイオレットとガーネットだよ」

「ああ、なるほど……」
 あの伝説の炎の戦士と氷の戦士か……。納得。 

「ユリちゃんの、マジの実力見てみたい。
今度は一人で戦え」
 はいだ毛皮をバッグに放り込みながら、ケーンがにやりと笑う。

「いや、遠慮しとく。ウチはか弱い乙女や」
 ユリの実力は、Bランクでも裾の方だ。

被召喚者の血を引く者の常として、身体能力はAランク並みだが、例のユニークスキルを除き、特別なスキルは、たった一つしか身についていなかった。

つまり「悪運」。

キマイラとの戦いで、彼女だけが生き延びられたのは、そのスキルのおかげだろう。

戦闘開始直後、味方が倒したお供モンスターの死体が直撃し、スタン状態となってしまった。

がれきが落ちてきたときも、不思議に彼女が生存できるだけの隙間ができていた。

よって彼女は「お花畑」を見たことがない。

もっとも、彼女が組んだ味方に、蘇生魔法などという超ハイレベルな魔法を使える者はいなかったし、生命の水などという、超高価な薬を持っている者もいなかった。

つまり、死んだら即お花畑の住人になるしかなかったのだ。


 二人は目的のガンバルベアを倒し、ライラックへ帰りついた。

ガンバルベア戦では苦労した。なぜなら、五メートルにも達するやつが二本足で立ったら、ケーンのジャンプ力では、急所の心臓や首に届かないからだ。

ちまちまとやつの体力を削る攻撃を選ぶしかなかった。

二人とも傷一つ残していないが、疲労困憊。

帰りも何度かモンスターに襲われたし。乏しい魔力をやりくりしたケーンは、転移魔法を使うだけの魔力が残ってなかったから、仕方なかったのだが。


「なんだか楽しかった。明日も頑張ろうぜ!」
 ケーンは疲れ切った顔をしながらも、目だけはギラギラさせていた。

「あんた、M体質か?」
 ユリはジト目でケーンを見る。

「いや、久し振りなんだよね。
戦いのスリル。
強くなりすぎて、戦ってもつまんなくなってたんだ。
バイオレットやガーネットも、相手にならなくなってたし。
俺といい勝負ができたのは父ちゃんだけだ。
父ちゃんは、趣味と、母ちゃんや他の嫁といちゃつくのが忙しくて、滅多に乗ってこなかったし」
 ユリはなるほど、と思う。

ユリの家には、なぜだか地球のゲーム機が家宝として伝わっている。ゲー×ボーイアドバンスと呼ばれるそのゲーム機には、ドラ×ンクエストⅤというソフトが入っていた。

一度コンプリートし、二周目に入るころには、それこそ無敵状態。

隠しボスを倒せるようになったら、放置していた味方キャラを成長させるぐらいしか、戦闘の楽しみはなくなった。

いわば、レベル九十九の勇者様の心境だろう。

「もう夜になってもうたな。宿、どこか空いとるかな?」
 ユリは身に付いた貧乏性から、クエストに出かける前、予約金をけちって宿を決めていなかった。予約を入れたら、部屋が確保される代償として、余分に銅貨数枚を要求されるのが普通だ。

「キキョウの家へ行こう。スペアキー、預かってる」
 ケーンはそう言って歩き始めた。さすがトリプルS。持ち家があったんや? 

ちょっと負けた感があるが、ユリはケーンの後に従った。
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