改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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31 三気の術

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「今日は赤の森でも行くか? 
あんたの嫁のおかげで、装備やポーション類も充実したし」
 ユリは朝食の後、そう切り出した。

こいつ、超便利な男や、と思いながら。

昨日の昼食も、保存してあったワイルドボアのバーベキュー。
ケーンが作った、醤油ベースのタレは絶品だった。


「あのさ、気の術、使える? 
闘気とか錬気とか集気」
 コーヒーを飲みながら、ケーンがそう返した。

「ああ、噂には聞いたことある。
高ランクの冒険者に、使える者もおるそうやな?」
 闘気とは文字どおり、闘う気力。いわば「火事場の馬鹿力」を、意識的に発揮する術だ。

熟練者になれば、戦闘力が数ランクアップする。

練気とは、体内に魔力をめぐらせ、防御力や物理・魔法の攻撃力をアップさせる術。

集気は独特の呼吸法により、外界の魔力を取り入れ、体力と魔力を補う術だ。

補助魔法と違い、いずれも魔力ノーコストのお得スキル。

「ずっと使う必要なかったから忘れてたけど、俺、多分使えると思う。
コツ、教えようか?」

「マジか?」
 ユリは身を乗り出す。

「マジっす。
使えるかも、としか言えないけど」

「よっし! やろう! 超お得能力やん!」
 ユリは立ち上がり、ケーンの手を取って庭に出た。

食器片付ける気もないんだ? ケーンは苦笑してユリに従った。

なんでもできちゃうキキョウに比べ、ある意味かわいげがあるかも。


「まずは闘気術。
これは一言で言えば自己暗示の術だ。
絶体絶命の状況だと自分に暗示をかける。
ただし、注意が必要なのは、下手すれば極端に委縮してしまいかねない、ということ。
だから、自分のピンチというより、大切な何か。
たとえば、恋人とか親友とか肉親とか。
そうした者を守るため、『絶対負けられない戦いがある』と、思いこむ。
すると、自然に普段の力以上の力が発揮できる。
多用したら体に負担がかかり過ぎるけど、いざという時の切り札になる」
 ケーンは腕を組んで説明した。

なんかお師匠様気分。

「あ~……。理屈はわかるで。
人間は自己防衛本能で、脳が無意識に能力を抑制しとる。
そんなこと聞いたことがある。
そやけどパスや。ウチ、『大切な何か』なんてないもん」
 ケーンは、ユリの気のない返事にカクンとくる。

「じゃあ、絶対絶命ほどの状況じゃなくて、たとえば……、ユリは男が大嫌いなんだろ? 
お前のおっぱいが大ピンチ。
そんな状況を想定してみたら?」

「乳やケツ触られるくらい、しょっちゅうあったけど。
まあ、たしかに反射で、普通以上の力、出とったかもしれん」

「さよか。案外女、不便なんやな?」
 これはいけそう。ケーンは東京人が使うような関西弁でユリに迫る。

「おい! 呪、解除しとるで! 
なんや、その不自然な関西弁。
バカにされた気分や」
 ユリはぷくっとむくれる。

 ここはおっぱい大ピンチの状況を作るのみ!
「グフフフ……。
ねえちゃん、ええ乳しとるやないか」
 ケーンは両手をわしわしさせる。

ユリは思わず両腕でおっぱいを守る。

「女のおっぱいは、男に揉まれてなんぼのもんや!」
 ケーンは両手を伸ばし、ユリに跳びかかる。

あれ? 

くるん、ドスン……。

ケーンはきれいに投げ飛ばされた。

受け身は取ったが、どうやって投げられたかわからない。

ユリは素早くケーンの左腕を両足ではさむ。ケーンの腕を胸に抱え込み、腕ひしぎ逆十字固めを決める。

「ウチがどんだけレイプされかけたもんか……。
先祖は格闘技家だったそうや。
少々ランクが上でも、捨てゴロでは人族サイズやったら勝てるで。
強い魔物はでかすぎるから、防犯にしか役だたんのが残念やけど」

「なんかなつかし~! 
バイオレットやガーネットを思い出すよ。
おしおきに何度もかけられた。
おっぱいの谷間に、腕が包まれて、あのちょめちょめもぐいぐい……。
この痛幸せ感、悪くない!」
 ユリは思わず脱力。

「あんたも結構悲惨な境遇やったんやな?」

「相当悲惨だったと思う」

 ユリはケーンの腕を解放し、彼の肩をポンポンと叩いた。

とりあえず、ユリは闘気術習得を見送ることにした。


「次、集気術、いってみよう。
初心者は魔力が濃い場所で、裸に近い状態でやるのがセオリー。
ユリが今装備してるキマイラスーツ、魔防効果が高いから、特にお勧めできない」

「ウチに裸になれ、言うん? 
ひょっとして自分、セクハラが目的やないやろな? 
それに、魔力が濃い場所、イコール魔物が活性化する場所や。
そんなとこで裸になれやなんて、自分、何考えとんねん」
 ユリはジト目でケーンを見る。

「別に他意はないんだけど、だよね……。
じゃあ却下。
練気法いってみようか? 
細かい魔力操作向上も期待できる」

「うん。なんか貞操的に安全そうや」

「まず、呼吸を整え、魔力を心臓に集中させる。
そして、心臓に命じて、バクバク魔力を体中に駆け巡らせる。
ほ~ら、俺の体、青く光り始めただろ?」

「確かに光っとる。
せやけど、心臓は不随意筋って知っとるか? 
どうやって命じるんや?」

「なんとなく?」

「ええかげんにしなさい。もうええわ」
 ユリはパチンとケーンの胸に、手の甲で突っ込みを入れた。

気の術習得は断念した。

天才が指導でも天才だとは限らないことを、ユリは実感した。
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