改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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88 紆余曲折恋を求めて

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 ケーンはユリの気配を感じ、慌てて体で机を覆った。

「マンガやな? 
マンガやったら許可したる。
ちょっと見せてみ」
 ケーンは、おずおずと書きためた原稿を渡す。

ユリは黙って原稿に目を通す。

「どう?」
 ケーンは、ドキドキしながら感想を聞く。まともに見てもらうのは初めてだから。

「正直に言うたる。
画力A。ストーリ、論外。
一応ファンタジー系ラブコメのつもりやろ? 
原作、誰かに頼まな、話にならん」

「担当さん、どこが悪いのでしょう?」

「誰が担当やねん。
自分が嫁をあっさりゲットしてきた、いきさつは全部知っとるよ。
せやけど、読者から言わせたら、ありえん、の一言や。
ヒロインのクノイチリンドウ、当然キキョウがモデルやな? 
ギルドでリンドウが、弱そうな主人公クーンに一目ぼれ? 
必然性が全然あらへん。
一回狩猟デートしただけで、
『俺の嫁になる?』
『はい』
現実がそうやったからというて、あっさりすぎるハッピーエンド、読者、納得すると思うか?」

 辛辣なユリの批評に、ケーンは黙り込んだ。

たしかに……。

「ラブコメの王道は、恋の成り行きに、読者をハラハラやきもきさせることにある。
恋のライバルさえおらんし、読者は展開に関心の持ちようがないで」

「ユリの言う通りだ! 
俺、ハラハラやきもきの恋をする!」
 ケーンは決然として立ちあがった。

「いや、そんなこと全然言うてへんで。
ウチが悪かった! 
ケーンの邪道ラブコメ、サイコーや! 
紆余曲折が全然ないこと、いっそすがすがしいまでに潔い」
 ユリは慌てた。これ以上嫁が増えても具合が悪い。

「そういえば忘れてた!
紆余曲折には、デレ抜きツンツンのエルフ。次の目標決めた」
 一度思い立ったケーンは、聞く耳持たない。いそいそと旅の支度をするケーンだった。


 その夜の嫁会議。議題は誰がケーンのお供をするか。

ケーンの説得は、すでにみんなあきらめている。

「まず正妻のキキョウさん、意見聞かせてもらおうか?」
 進行役のユリが振る。

「私は無理だと思う。
強すぎるから。
ケーン様がちょっとでも危なそうな時、つい手を出しちゃうし。
ケーン様に、ブレーキをかけられるユリちゃんは、絶対はずせないとして、総子ちゃんとジャンヌちゃんでどう? 
総子ちゃんは、まだこの世界に慣れてないし、ジャンヌちゃんも見聞を広げられると思うの。
レベル的にもちょうどいいと思う」

「さすが正妻。昭和初期的耐える女の鑑や。
エッチはテントに転移したら全然問題ない。
キキョウさんの意見に異議がある人?」
 ユリがメンバーに振る。「賛成」と、全員答える。

「お供のメーンバーは、総子ちゃんとジャンヌちゃん、そして不肖ながら、わたくしめヨシモト・ユリと決定。
ついで嫁の総意として、方針決めておこか? 
ウチはなるべくその方針に従って、ケーンを操縦する」

「ユリちゃんはどう思う?」
 正妻キキョウが聞く。

「エルフは難物やで。
他の種族に心開かん。
ハーフエルフ、滅多に見んのがその証拠や。
ケーンに初めての失恋を経験させる。
それでどないや?」

『ケーンが落としちゃったら?』
 テレサの中のヒカリちゃんが言う。

「そんときは受け入れる。それがケーンの嫁の宿命や」
 ユリの意見に首肯する嫁一同だった。

『ところで、どうしてエルフなの? 
エルフには、私の信者がほとんどいないから、あんまり歓迎できない』
 ヒカリちゃんが聞く。

エルフは精霊信仰という、独自の宗教形態を持っている。精霊は神組織と独立した存在であり、ひどく気まぐれであるのが特徴だ。

お気に入りのエルフ族には、たいていの場合恩恵をもたらすが、その他の種族には限りなく冷たい。
少しでも機嫌を損ねたら、天変地異をもたらす。

神々はその影響を最小限に抑えることに、かなり苦労をしている。
エルフ族が閉鎖的であるのはそのためだ。

「あ~、それな。
ウチが悪かったんや。
ケーンのマンガには、恋の紆余曲折がない。
そんな感じのこと言うてもうた」
 ユリが申し訳なさそうな顔で言う。

「私、この世界へ来てから思うんですけど。
婚姻に紆余曲折が必要なんでしょうか? 
ほら、こっちの世界って、ほとんど年長者の意思で婚姻が決められてますよね? 
最初はひどく打算的な結びつきだと思ってましたが、むしろ地球より円満な夫婦が多い気がします。
物語は別として、恋愛に変な夢を持ってない。
それが大きな理由だと分析してます」
 総子は、ある意味打算から、ケーンの嫁になる決意をした。

もちろん、ケーンなら大丈夫だという直感もあったが、ケーンを拒んだ場合「予想される結果」に後押しされた。

つまり、夜の女王やケーンの庇護を拒んだら、光の女神の不興が恐ろしい。

早い話、女神に何をされるかわかんない、ということだ。

彼女は光の女神の力を、誰よりも知っていた。何の不安もなく修行に打ち込める今だから言える。

あのときの決断は大正解だった。考えてみたら、キキョウさん以外の嫁もそうだ。

多かれ少なかれ、打算が後押ししてケーンの嫁となり、幸福を得ている。

要するに、紆余曲折を避け、最も安全と思われる道を選んだ。

「たしかに、茨の道の恋には夢があるけど、現実的には傷ついて痛いことがほとんどや。
あの天真爛漫お坊ちゃま、ちょっとは痛い思いさせるんもアリやと思うけど?」
 ユリの言葉に、嫁たちは苦笑してうなずいた。
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