改訂　勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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97　娘をいただきます

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　魔王城、魔王の私室。魔王の膝の上で、娘はすこぶるご機嫌だった。

「どうしたの？　なんだか浮かれているみたいだけど」
　魔王はいつになくはしゃぐ娘に、不審をいだいた。

「へへへ……。ないしょです」
　幼い娘は母親を振り返り、あどけない笑顔を向ける。

「なにがないしょなの？　教えて」

　突然夜の女王とケンイチの妻三人、そして、黒いローブをまとった、十名の護衛眷族が転移してきた。

「私が答えてあげましょう。
そなたの娘は、魅了魔法で勇者パーティを操りました。
しかも、人族の領地で」
　夜の女王の言葉に、魔王は蒼白になった。

「本当なの！」
　母親の剣幕に、娘は涙目でうなずいた。

「恐ろしい力を持った娘を、産んだものですね。
状態異常耐性を持った勇者たちを、たやすく操ってしまった。
しかも、異性の心まで。
それが何を意味するか、わかっていますね？」

「原初契約違反……」
　魔王は苦悶の表情で答えた。

「原初契約」とは、皇帝や王と正式に呼ばれる者が、この世界の創造神と契約することを意味する。

自らの「真名」にかけて。

それは契約を破った場合、生殺与奪の権を、この世界の守人たる、夜の女王に委ねることも意味する。

その契約の内容は単純だ。この世界が崩壊しかねない力を放棄すること。

あるいは、自然界の秩序を大きく乱さないこと。

「あなたがケンイチに魅了魔法を使ったのは、自己防衛という意味で許容範囲です。
たいそう不快でしたが。
ケンイチは自分をなくしてしまったことを恐れ、私のスカートの中に隠れてしまいました。
今でもケンイチのその恐怖心は、私のスカートの中で隠れています。
まあ、それはいいでしょう。
あなたの娘は、おそらく思い通りの範囲で、思うがまま人の心を操れるのでしょう。
状態異常耐性を無視して。
それは明らかに契約違反の力です。
知らなかったとはいえ、その力をふるってしまった」

「うっせ～、ババア！　
裸になって自分を刺しちまえ！」
　娘は女王に魅了魔法を放った。

あれ？　効かない……。

そんな……。

娘を制止する余裕もなかった魔王は、絶望に沈んだ。

サーシャ、夜の女王と彼女の眷族には、どんな攻撃も効かないの。
彼女たちの体内時間は、止まっているのだから。

つまり、時間の流れという、本来不可逆で膨大なエネルギーを無視できる。

強力な刃も「過去」に身をかわし、「現在」に帰ってすぐさま反撃できる。
「過去」に届く刃なんてあるわけない。

もっとも、姿は消えてないから、あなたの精神攻撃を無効にできるみたいだけど。

「己の力に酔いしれた愚かな娘サーシャよ。
我が息子の性奴隷となるがよい」
　夜の女王は、底冷えのする声でそう言った。

「生かしてくれるのですね？　
性奴隷、ですか……。
こんな娘ですが、できるだけ優しく扱ってください」
　魔王の目に、幾分光がかえった。

「あなたの娘は、私に攻撃を加えようとしました。
一時間以内に、魔王城から退避することですね。
ではサーシャをいただきます」
　夜の女王は、呆然とする魔王の娘サーシャをかき抱き、眷族と共に転移した。

　残された魔王は、弱々しく立ち上がった。そして魔法の呼び鈴を振る。

「魔王城から今すぐ全員退避しなさい。
一時間後、この城は崩壊します」
　魔王は警護の兵士にそう告げた。

「急ぎなさい！　
全員今すぐ退避です。
魔王城の崩壊は絶対防げません！」
　魔王は魔王の威厳を取り戻し、そう命じた。

警護の兵は、慌ててその命令に従った。

魔王はふと気づいた。手紙が残されている。

『絶好のチャンスだけど、光の女神は魔王領侵攻を絶対許可しないよ。
あの子、息子の嫁になっちゃった。
私の息子はとびっきりのフェミニストなの。
間違っても乱暴なエッチはしないから。
かわいい孫を期待して。
人族への牽制は、ほどほどな感じで、このまま続けていいよ。
っていうか、そうしてもらわなきゃ困っちゃう。
人族のたがも相当弛んでるみたい。
じゃね～！』
　魔王は手紙を読み、母親の笑顔になった。『性奴隷』はサーシャへのブラフだったのか。

サーシャ、あなたにとって、逆によかったのかもしれないね。

幸せになりなさい。

魔王は手紙を懐にしまった。

さて、何を持ち出そうかな？　

宝物庫と武器庫は絶対だね。

後は……、まあいいか。

魔王はミレーユのアイテムボックスより、幾分劣る宝物庫と武器庫を両手に持ち、自らの別荘へ移動した。「劣る」というのは、外部のアイテムボックスと、互換性を有さないという点だけ。

彼女は息子たちに宝剣を授け、王位継承候補者と錯覚させている。

真実は、この二つのアイテムボックスを引き継ぐ者が、真の後継者だ。

　現在魔王が、アイテムボックスの継承者に指名しているのは娘のサーシャ。

あの子、夜の女王に拉致られたから。指名しなおすかどうか、ゆっくり考えよう。

魔王の命令で、魔王城は混乱を極めていた。

空っぽとなった魔王城を、魔王と彼女の部下が見守る。

魔王城に影が差した。

あれが宙船か……。魔王と部下は、魔王城上空に浮かぶ宙船を見上げた。

宙船から、黒い光線が五条斉射された。

一瞬で魔王城は崩れ落ち、廃墟となった。

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