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138 勇者VSオーク

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※前話で落としている部分があったので、9時40分に加筆。
ついでに、明日は所用で投稿できません。

 ☆ ☆ ☆ 

 
 ケーンは、勇者正義の後姿を眺めながら、歩き続けた。

やっぱりどう見てもトッツアンだ。くたびれた背広に、革靴。よれよれのトレンチコートにボルサリーノキャップ。
そんな装備着せたら、超似合いそう!

おっと……。ちょうどよさげな魔力反応。数は…五体。多分オーク。その程度の魔力レベル。

「正義、魔物と遭遇する予感!
準備しておけ」
 ケーンは、前を歩く正義に注意を喚起する。

「お前、索敵スキル持ってるの?」
 正義は振り返り、ケーンを見た。

「よくわかんないけど、勘は働く方?
器用貧乏の一つだよ」
 ケーンは、背中に背負った魔法のバッグから弓を取り出す。ブラックバッグ程度の機能だ。

「得意なのは剣じゃないのか? 
それに、その弓、どこから出した?」
 ケーンは腰にミスリルソードを装備している。武器も防具も、正義の装備レベルから、少し劣るものを選んでいる。

正義の装備は、総子の初期装備と比べたら天と地。ちょっとかわいそうに思えてくる。

『だって……、正義、チートな装備はいらないって言うんだもん。
異世界転生チートものは、大嫌いなんだって。
実力が上がってきたら、なんとかする』
 天上界から見守るヒカリちゃんが言い訳。

『なるほど……。マジで融通が利かないな。
魔法のバッグだと明かすの、まずい?』

『担当の女神官には、相当いいの授けたから、そんなに驚かないと思う』
『了解。修行時代のやつ選んでよかった』
 ケーンは、魔法のバッグについて明かすことにした。こまごまとした気遣いは不要のようだ。
「これは魔法のバッグだよ。
弓術もバッグづくりも、器用貧乏の一環?」

「ずいぶん便利な器用貧乏だな」
 正義はあきれ顔で、そう吐き捨てた。

いよいよ得体のしれないやつだ。彼の少ない経験でも、魔法のバッグを持っている、Dクラス冒険者なんて、ざらにはいないことぐらいわかる。

ひょっとして、お坊ちゃま育ち?

 金がそこそこたまったら、絶対縁を切る!

正義のケーンに対する心証は、最悪だった。


「なんだかオーク臭いぞ!
正義、左の林」
 ケーンが会敵を告げる。

 正義はまだ感知できてないが、一応長剣を抜く。教会から支給された業物。たしかに頑丈でよく斬れる。

 ケーンは、正義の構えを見て思った。素人じゃん!

 地球にいたころは、警官だったと聞いたけど。そうか、あのがに股。多分柔道をやってたんだ。
 気の毒だけど、ステゴロの肉弾戦では、魔物にかなわない。

 正義の将来が思いやられるケーンだった。こちらに転生したばかりの総子が、はるかに上手だった。

 下草をかき分け走り寄る気配に、正義も気づいた。正義は林の中に走ろうとした。

「おい!
俺の武器は弓だ!
林に入るな!」
 ケーンは、びっくりして制止した。ケーンは林の中でも不自由なく、弓を扱える自信はあるが、セオリーに反する。

はっきり言えば、正義は剣技だけではなく、戦闘に関して全くの素人だ。

 さすがに正義の足は止まった。たしかに遮蔽物が多い林で、弓は不利だ。
それは素人の彼でも分かった。

 槍を構えたオークが五頭、林から飛び出してきた。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 正義をかすめるように、後方から矢が連射された。矢はすべてオークの足に命中している。

 四本の矢を一瞬で! なんという早さだ!

 正義は後ろを振り返るわけにもいかず、ただ一頭無事なオークに斬りかかった。
 ブン、ガスッ! 

 うわ~! いくら長剣といっても、完全に力任せだ。刃筋が無茶苦茶。ケーンは正義の将来が思いやられた。

「傷を負ってるオーク、とどめさせよ」
 ケーンは弓をバッグにしまい剣を抜いた。矢で足を射られたオーク四頭は、うずくまって矢を抜こうとしている。

 オークの槍をかろうじて避け、何度も斬りつけた正義は、肩で息をしている。

「おまえがとどめさせよ。
戦闘不能にしたのはお前だ」
 そう言葉を絞り出す。

「いいからやれ!」
 ケーンは厳しく命じた。ケーンにとって、オークなど経験値稼ぎにならない。
 まだ経験の浅い正義なら、結構な成長の糧となる。特に光の女神の改造が施された被召喚者は、こちらの人族の、およそ十倍で成長できるはず。

 背に腹は代えられない。正義はケーンの指示に従おうとした。

「首をはねろ!
刃筋が合ってなければ、一振りで首は落ちない」
 オークの心臓を刺そうとした、正義に言った。

「きぇ~~~!」
 正義は剣を横なぎ。
ガスッ。中ほどで止まった。

うずくまっていた二頭のオークが、槍を杖に立ち上がろうとした。

ケーンが素早く斬りかかる。

ヒュン、ヒュン。

二頭のオークの右腕が飛んで倒れた。

「腰を据えろ!
腕も伸び切ってる。
まるでドアスイングだ!」

 野球まで知ってるのかよ? こいつ、いったい何者なんだ!

 正義は大きく深呼吸し、剣を八双に構える。
腰を据え、角度をつけて斬り下す。するとあっさり首は飛んでいった。

 もう一頭。

オークの苦痛でゆがんだ顔、憎しみに満ちた目……。

 正義は、目を閉じて剣をふるった。

 ブン! ガスッ!

「オークを苦しめるつもりか?
相手が魔物でも趣味悪すぎ」
 ケーンは、そうなじって剣を納めた。

 正義が目を開けたら、剣は肩に入っていた。正義は剣を抜き、再び腰を据える。

「余計な苦しみを与えた。
すまない!」
 ヒュン! 今度は見事に首をはねた。

 正義はがくっと力が抜け、ひざまずいた。

「素振り、やってるか?
刃筋が乱れてる」
 そう言って、ケーンはオークの槍を回収し、討伐証明となる耳をナイフで切り落とした。
 槍はこの前の魔族との戦闘で拾ったのだろう。結構金になりそう。

 ちなみに、オークは食べようと思ったら、食べられなくもない。豚やイノシシより、相当硬いので、だしにしか向かないらしいけど。肉を持ち帰っても、いくらの金にもならない。

 一説によれば、ある種のスライムの、溶解液をX倍希釈して、オーク肉を一晩漬けこんだら、グルメをうならせる食材になるとか。
 ケーンは食の冒険者でないので、試したことはない。

 ケーンはオークの死体を集め、ファイアボールで燃やした。

「魔法も使えるのか……」
 正義が、ぼそっとつぶやいた。一瞬でオークは焼き尽くされた。相当な火力だ。正義も、もちろん四属性の魔法は使えるが、けん制に役立つ程度。

「器用貧乏だから」
 ケーンはそう言って、弁当をバッグから取り出した。キキョウ特製のおにぎり。たくあんと卵焼き付き!
 正義の目があるので、さすがにたこさんウインナーは省略してもらった。

ゆうべは転移した、嫁と同衾したこと、言うまでもないだろう。

「おにぎりじゃないか!」
 正義はびっくり。こちらへきて米を口にしたことはない。ちゃんと海苔で巻かれてるし……。

「やらないぞ!」
 ケーンは、背中を向けて弁当を隠す。

「お前、何者だ?」
 正義は、ケーンが不気味に見えてきた。

「器用貧乏のケーンだ。
おにぎり、うめぇ~~~!」

 やると言われても、今は食う気しないけどね……。首ちょんぱなんて初めてだ。

こいつ、きっと『器用富豪』だ。そう思いつき、正義は力なく笑った。
我ながら、ひどいギャグセンス。
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