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2 団長の悪行バレちゃいました
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百年の歳月は流れた。
オリーオール・アルギア帝国皇帝は、頭を抱えていた。一つには帝国領内星系の資源が、いよいよ乏しくなったこと。
ダンジョンで産出する魔石や魔鉱石類が利用できたら、問題はかなり解消する。ダンジョンはいくら資源を採集しても、しばらくしたら再生する。
ところが、帝国内の人類全体は弱くなった。もちろん、帝国の科学技術文明は発展し、物理的な戦力は、他の星系国家の追随を許さない。
ところが、無尽蔵ともいえるダンジョンに挑める人材が、極端に減少しているのだ。あの精鋭といえるコダカーラ開拓団の損失は大きすぎた。高い魔力を持った人材が、ほとんど根こそぎに近いほど失われた。
それは冒険者の資質を持った人材資源の枯渇に直結した。魔力量は大きく遺伝に依存するから。
とりわけ、抜群の戦績を残した五百人は最精鋭だった。先々代の皇帝は、高ランクの冒険者を傭兵として強引に招集し、開拓の中心戦力とした。
時の皇帝や政権中枢の判断は、間違っていたと言い切れない。コダカーラの資源は、それほど魅力的だったのだ。
領内のダンジョンは限られている。ところが、コダカーラは星自体がダンジョンなのだ。少し探索すれば、ダンジョン深部から採れるようなお宝素材がざっくざく。
多大な損失を代償として、狩猟に成功した魔物の素材も、科学技術では再現不可能な特殊素材となった。
現代でも、その貴重な資源を利用した武具は、帝室や高位貴族の家宝として守られている。対人戦はもとより、ダンジョンの魔物に抜群の威力を発揮するのだ。分析不可能な魔力を宿しているから。
そのダンジョンモンスターに超有効な武具が、利用されることはほとんどない。帝室や高位貴族が、危険なダンジョンアタックに挑むわけないから。
少なくとも、家宝を身につけられるような存在は、家宝を守ることしか考えていない。いわゆる、宝の持ち腐れ、宝物庫の肥やし。
コダカーラ産の武器や防具は、宝物庫の中で泣いていた。
皇帝のもう一つの悩み。それは国民の生殖能力と意欲が、著しく衰えていることだった。人口は減少する一方。人々が生活に便利な都市型惑星に集中し、限界惑星がシャレにならないほど増えている。
新世代は人工授精が一般化し、旧来の家族形態は壊滅的な状況である。帝室や貴族、高所得者は一族の権益を守るため、子孫繁栄に躍起となっているが、一般庶民は子孫を「意欲的」に残すことなど、その多くが考えていない。
今が満たされてたらいいじゃない。刹那的な快楽主義が幅を利かせている。
「陛下、大変なものを見つけました」
皇帝の娘、エリナが深刻な表情で告げた。
「大変なもの?」
執務室で書類と格闘していた皇帝は、視線をエリナに向けた。
「わたくしの侍女、ルカはセンキュー伯爵のひ孫にあたります。
先日里帰りした時、このような日記を偶然見つけてしまったのです」
エリナは古びた日記帳を皇帝に示した。
「珍しいな。紙の日記帳とは。
センキュー伯爵? どこかで聞いたような……」
「百年前に処刑されたコダカーラ開拓団、団長でございます。
無謀な遠征作戦命令で、帝国の貴重な人材を見捨てた。いえ、見殺しにした」
「見殺しにした?」
「ルカや彼女の家族に罰を下さないこと、お約束いただけますか?」
「百年前のことなどすでに時効だ。
約束する。
何があったのだ?」
「しおりに挟んだページ、お読みくださいませ。
見殺しとわたくしが申し上げるゆえん、お分かりいただけると思います」
エリナは日記帳を皇帝に手渡した。
皇帝はしおりを挟んだページを読む。
「センキューの野郎、ブチ殺す!」
皇帝の日記を持つ手は、怒りのため震えた。
『気に食わないから、あいつら全員置いていっちゃう?
そうだ、そうしよう‼』
ふざけるな!
「すでに処刑済みです。その日記、ただちに焼却するのがよろしいかと。
帝国貴族の汚辱です」
エリナは冷静に告げた。その日記は、腐敗した貴族階級の恥部そのものだ。
ちなみに、どうして百年もの間、伯爵の日記が発見されなかったのか、という疑問があるだろう。
伯爵は「大事な宝箱」の中に、その日記を隠していた。
開拓団は、十年程度コダカーラにとどまる予定だった。
妻や側室を、その危険な任務に同行させるわけにいかない。団員の欲求解消のため、連れて行った女奴隷をつまみ食いするのも、対面上憚られる。
というわけで、それ専的な便利グッズを持って行った。もちろん、公になったら超ハズいので、簡易魔力認証でロックされた「大事な宝箱」に入れて。
伯爵が母星に帰還したら、即軍事法廷に出廷を求められた。なんと、彼が信頼していた副官に、「遠征作戦」をチクられたのだ。なぜその作戦を実践したか、その動機まで副官は知らなかったが。
副官はある程度良識をわきまえていた。それに、任務を失敗した責任者である伯爵に従ってもうまみはない。『伯爵の愚行を止めようとしたのですが、力足りず、くっ……』てな感じで。
裁判にまぎれ、伯爵は「大事な宝箱」の中身を処分すること、忘れていた。思い出したのは死刑判決が下され、拘留された後。家族に処分を頼むわけにいかず、「羞恥の遺産」を残したまま、刑は執行された。
読者の皆様も気をつけましょうね! いつ何があるかわかりませんよ?
伯爵はもちろん爵位を剥奪された。零落した遺族は「宝箱」の中身が気になりながら、魔力認証の適合者はいない。
いつしか「宝箱」のことは忘れられていた。
ルカが休暇で里帰りした時、その「宝箱」を見つけた。何の気なしに宝箱に触れたら、ロックが解除された。ルカは伯爵の魔力波動にきわめて近かったのだ。
変なグッズの利用法はわからなかったが、日記帳は読めた。タブーとなっていた先祖の秘密を覗いてみたい。その好奇心に負けて、あっと驚く秘密を知ってしまった。
ルカはその日記帳を処分しようと思ったが、彼女の正義感はそれを許さなかった。思いあぐねた彼女は、仕える皇女に日記を渡した。子孫として、せめてもの罪滅ぼしのつもりで。
オリーオール・アルギア帝国皇帝は、頭を抱えていた。一つには帝国領内星系の資源が、いよいよ乏しくなったこと。
ダンジョンで産出する魔石や魔鉱石類が利用できたら、問題はかなり解消する。ダンジョンはいくら資源を採集しても、しばらくしたら再生する。
ところが、帝国内の人類全体は弱くなった。もちろん、帝国の科学技術文明は発展し、物理的な戦力は、他の星系国家の追随を許さない。
ところが、無尽蔵ともいえるダンジョンに挑める人材が、極端に減少しているのだ。あの精鋭といえるコダカーラ開拓団の損失は大きすぎた。高い魔力を持った人材が、ほとんど根こそぎに近いほど失われた。
それは冒険者の資質を持った人材資源の枯渇に直結した。魔力量は大きく遺伝に依存するから。
とりわけ、抜群の戦績を残した五百人は最精鋭だった。先々代の皇帝は、高ランクの冒険者を傭兵として強引に招集し、開拓の中心戦力とした。
時の皇帝や政権中枢の判断は、間違っていたと言い切れない。コダカーラの資源は、それほど魅力的だったのだ。
領内のダンジョンは限られている。ところが、コダカーラは星自体がダンジョンなのだ。少し探索すれば、ダンジョン深部から採れるようなお宝素材がざっくざく。
多大な損失を代償として、狩猟に成功した魔物の素材も、科学技術では再現不可能な特殊素材となった。
現代でも、その貴重な資源を利用した武具は、帝室や高位貴族の家宝として守られている。対人戦はもとより、ダンジョンの魔物に抜群の威力を発揮するのだ。分析不可能な魔力を宿しているから。
そのダンジョンモンスターに超有効な武具が、利用されることはほとんどない。帝室や高位貴族が、危険なダンジョンアタックに挑むわけないから。
少なくとも、家宝を身につけられるような存在は、家宝を守ることしか考えていない。いわゆる、宝の持ち腐れ、宝物庫の肥やし。
コダカーラ産の武器や防具は、宝物庫の中で泣いていた。
皇帝のもう一つの悩み。それは国民の生殖能力と意欲が、著しく衰えていることだった。人口は減少する一方。人々が生活に便利な都市型惑星に集中し、限界惑星がシャレにならないほど増えている。
新世代は人工授精が一般化し、旧来の家族形態は壊滅的な状況である。帝室や貴族、高所得者は一族の権益を守るため、子孫繁栄に躍起となっているが、一般庶民は子孫を「意欲的」に残すことなど、その多くが考えていない。
今が満たされてたらいいじゃない。刹那的な快楽主義が幅を利かせている。
「陛下、大変なものを見つけました」
皇帝の娘、エリナが深刻な表情で告げた。
「大変なもの?」
執務室で書類と格闘していた皇帝は、視線をエリナに向けた。
「わたくしの侍女、ルカはセンキュー伯爵のひ孫にあたります。
先日里帰りした時、このような日記を偶然見つけてしまったのです」
エリナは古びた日記帳を皇帝に示した。
「珍しいな。紙の日記帳とは。
センキュー伯爵? どこかで聞いたような……」
「百年前に処刑されたコダカーラ開拓団、団長でございます。
無謀な遠征作戦命令で、帝国の貴重な人材を見捨てた。いえ、見殺しにした」
「見殺しにした?」
「ルカや彼女の家族に罰を下さないこと、お約束いただけますか?」
「百年前のことなどすでに時効だ。
約束する。
何があったのだ?」
「しおりに挟んだページ、お読みくださいませ。
見殺しとわたくしが申し上げるゆえん、お分かりいただけると思います」
エリナは日記帳を皇帝に手渡した。
皇帝はしおりを挟んだページを読む。
「センキューの野郎、ブチ殺す!」
皇帝の日記を持つ手は、怒りのため震えた。
『気に食わないから、あいつら全員置いていっちゃう?
そうだ、そうしよう‼』
ふざけるな!
「すでに処刑済みです。その日記、ただちに焼却するのがよろしいかと。
帝国貴族の汚辱です」
エリナは冷静に告げた。その日記は、腐敗した貴族階級の恥部そのものだ。
ちなみに、どうして百年もの間、伯爵の日記が発見されなかったのか、という疑問があるだろう。
伯爵は「大事な宝箱」の中に、その日記を隠していた。
開拓団は、十年程度コダカーラにとどまる予定だった。
妻や側室を、その危険な任務に同行させるわけにいかない。団員の欲求解消のため、連れて行った女奴隷をつまみ食いするのも、対面上憚られる。
というわけで、それ専的な便利グッズを持って行った。もちろん、公になったら超ハズいので、簡易魔力認証でロックされた「大事な宝箱」に入れて。
伯爵が母星に帰還したら、即軍事法廷に出廷を求められた。なんと、彼が信頼していた副官に、「遠征作戦」をチクられたのだ。なぜその作戦を実践したか、その動機まで副官は知らなかったが。
副官はある程度良識をわきまえていた。それに、任務を失敗した責任者である伯爵に従ってもうまみはない。『伯爵の愚行を止めようとしたのですが、力足りず、くっ……』てな感じで。
裁判にまぎれ、伯爵は「大事な宝箱」の中身を処分すること、忘れていた。思い出したのは死刑判決が下され、拘留された後。家族に処分を頼むわけにいかず、「羞恥の遺産」を残したまま、刑は執行された。
読者の皆様も気をつけましょうね! いつ何があるかわかりませんよ?
伯爵はもちろん爵位を剥奪された。零落した遺族は「宝箱」の中身が気になりながら、魔力認証の適合者はいない。
いつしか「宝箱」のことは忘れられていた。
ルカが休暇で里帰りした時、その「宝箱」を見つけた。何の気なしに宝箱に触れたら、ロックが解除された。ルカは伯爵の魔力波動にきわめて近かったのだ。
変なグッズの利用法はわからなかったが、日記帳は読めた。タブーとなっていた先祖の秘密を覗いてみたい。その好奇心に負けて、あっと驚く秘密を知ってしまった。
ルカはその日記帳を処分しようと思ったが、彼女の正義感はそれを許さなかった。思いあぐねた彼女は、仕える皇女に日記を渡した。子孫として、せめてもの罪滅ぼしのつもりで。
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