ハウス  転生チートヲタの遺産  

nekomata-nyan

文字の大きさ
2 / 24

2 団長の悪行バレちゃいました

しおりを挟む
 百年の歳月は流れた。

オリーオール・アルギア帝国皇帝は、頭を抱えていた。一つには帝国領内星系の資源が、いよいよ乏しくなったこと。

 ダンジョンで産出する魔石や魔鉱石類が利用できたら、問題はかなり解消する。ダンジョンはいくら資源を採集しても、しばらくしたら再生する。
ところが、帝国内の人類全体は弱くなった。もちろん、帝国の科学技術文明は発展し、物理的な戦力は、他の星系国家の追随を許さない。

 ところが、無尽蔵ともいえるダンジョンに挑める人材が、極端に減少しているのだ。あの精鋭といえるコダカーラ開拓団の損失は大きすぎた。高い魔力を持った人材が、ほとんど根こそぎに近いほど失われた。

それは冒険者の資質を持った人材資源の枯渇に直結した。魔力量は大きく遺伝に依存するから。

とりわけ、抜群の戦績を残した五百人は最精鋭だった。先々代の皇帝は、高ランクの冒険者を傭兵として強引に招集し、開拓の中心戦力とした。

 時の皇帝や政権中枢の判断は、間違っていたと言い切れない。コダカーラの資源は、それほど魅力的だったのだ。
 領内のダンジョンは限られている。ところが、コダカーラは星自体がダンジョンなのだ。少し探索すれば、ダンジョン深部から採れるようなお宝素材がざっくざく。

 多大な損失を代償として、狩猟に成功した魔物の素材も、科学技術では再現不可能な特殊素材となった。
 現代でも、その貴重な資源を利用した武具は、帝室や高位貴族の家宝として守られている。対人戦はもとより、ダンジョンの魔物に抜群の威力を発揮するのだ。分析不可能な魔力を宿しているから。

 そのダンジョンモンスターに超有効な武具が、利用されることはほとんどない。帝室や高位貴族が、危険なダンジョンアタックに挑むわけないから。
少なくとも、家宝を身につけられるような存在は、家宝を守ることしか考えていない。いわゆる、宝の持ち腐れ、宝物庫の肥やし。

コダカーラ産の武器や防具は、宝物庫の中で泣いていた。


皇帝のもう一つの悩み。それは国民の生殖能力と意欲が、著しく衰えていることだった。人口は減少する一方。人々が生活に便利な都市型惑星に集中し、限界惑星がシャレにならないほど増えている。

新世代は人工授精が一般化し、旧来の家族形態は壊滅的な状況である。帝室や貴族、高所得者は一族の権益を守るため、子孫繁栄に躍起となっているが、一般庶民は子孫を「意欲的」に残すことなど、その多くが考えていない。
今が満たされてたらいいじゃない。刹那的な快楽主義が幅を利かせている。



「陛下、大変なものを見つけました」
 皇帝の娘、エリナが深刻な表情で告げた。

「大変なもの?」
 執務室で書類と格闘していた皇帝は、視線をエリナに向けた。

「わたくしの侍女、ルカはセンキュー伯爵のひ孫にあたります。
先日里帰りした時、このような日記を偶然見つけてしまったのです」
 エリナは古びた日記帳を皇帝に示した。

「珍しいな。紙の日記帳とは。
センキュー伯爵? どこかで聞いたような……」

「百年前に処刑されたコダカーラ開拓団、団長でございます。
無謀な遠征作戦命令で、帝国の貴重な人材を見捨てた。いえ、見殺しにした」

「見殺しにした?」

「ルカや彼女の家族に罰を下さないこと、お約束いただけますか?」

「百年前のことなどすでに時効だ。
約束する。
何があったのだ?」

「しおりに挟んだページ、お読みくださいませ。
見殺しとわたくしが申し上げるゆえん、お分かりいただけると思います」

 エリナは日記帳を皇帝に手渡した。

 皇帝はしおりを挟んだページを読む。

「センキューの野郎、ブチ殺す!」
 皇帝の日記を持つ手は、怒りのため震えた。

『気に食わないから、あいつら全員置いていっちゃう?
そうだ、そうしよう‼』

 ふざけるな!

「すでに処刑済みです。その日記、ただちに焼却するのがよろしいかと。
帝国貴族の汚辱です」
 エリナは冷静に告げた。その日記は、腐敗した貴族階級の恥部そのものだ。

 ちなみに、どうして百年もの間、伯爵の日記が発見されなかったのか、という疑問があるだろう。
 伯爵は「大事な宝箱」の中に、その日記を隠していた。

開拓団は、十年程度コダカーラにとどまる予定だった。
 妻や側室を、その危険な任務に同行させるわけにいかない。団員の欲求解消のため、連れて行った女奴隷をつまみ食いするのも、対面上憚られる。

 というわけで、それ専的な便利グッズを持って行った。もちろん、公になったら超ハズいので、簡易魔力認証でロックされた「大事な宝箱」に入れて。


 伯爵が母星に帰還したら、即軍事法廷に出廷を求められた。なんと、彼が信頼していた副官に、「遠征作戦」をチクられたのだ。なぜその作戦を実践したか、その動機まで副官は知らなかったが。

副官はある程度良識をわきまえていた。それに、任務を失敗した責任者である伯爵に従ってもうまみはない。『伯爵の愚行を止めようとしたのですが、力足りず、くっ……』てな感じで。

 裁判にまぎれ、伯爵は「大事な宝箱」の中身を処分すること、忘れていた。思い出したのは死刑判決が下され、拘留された後。家族に処分を頼むわけにいかず、「羞恥の遺産」を残したまま、刑は執行された。

 読者の皆様も気をつけましょうね! いつ何があるかわかりませんよ?


 伯爵はもちろん爵位を剥奪された。零落した遺族は「宝箱」の中身が気になりながら、魔力認証の適合者はいない。
 いつしか「宝箱」のことは忘れられていた。

ルカが休暇で里帰りした時、その「宝箱」を見つけた。何の気なしに宝箱に触れたら、ロックが解除された。ルカは伯爵の魔力波動にきわめて近かったのだ。

 変なグッズの利用法はわからなかったが、日記帳は読めた。タブーとなっていた先祖の秘密を覗いてみたい。その好奇心に負けて、あっと驚く秘密を知ってしまった。

 ルカはその日記帳を処分しようと思ったが、彼女の正義感はそれを許さなかった。思いあぐねた彼女は、仕える皇女に日記を渡した。子孫として、せめてもの罪滅ぼしのつもりで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...