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22 教えて! セレナ先生
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リンの部屋に、三姉妹は集合していた。ハウスで生活している時の常として、三人はノーパンにしてノーブラ。一応ショートパンツとタンクトップは身につけている。
ジャックと父親が、なんとかしろと言うから。
「姉さん、やっぱりどこかへ行かない?
オリオール星は無理だとしても、カナリアとか?
あの輸送艇でミミに送ってもらおうよ」
マミがリンに振る。
「私たちには常識がまるでない。
皇女様が付いてるから、なんとでもなると思ってたけど」
「餞別にもらった宝石の価値さえ知らなかったのよ?
普通は聞くでしょ?
浮かれ過ぎていたと反省してる。
はっきり言って、私たちは赤ん坊と同じ」
リンの言葉に首肯しながら、エルも反省している。普通の生活に慣れるまで、エリナ様に保護してもらったら、もちろんなんの問題もなかった。
赤ん坊状態の三人が、世知辛いであろう社会に放り出されたらどうなるか、想像したくもない。
それに、赤ん坊といっても、宙賊を瞬殺できる暴力的な一騎当千赤ん坊なのだ。コダカーラの習慣に則って暮らしていたら、牢屋行きの未来が見える。
「教えてもらったらいいじゃん!」
マミが異議を唱える。
「誰に?
皇女様? 元侍女? プリンセスガード? 妾の娘?
セレナさんも、十二歳のときからずっとオリビアさんちでメイド生活。
社会をそれほど知っているとは思えない」
エルに論破されてしまい、黙り込むしかないマミだった。たしかに、ここへ来た女性はみんな、一般社会人の生活とはかけ離れた人ばかりだ。
「買い物の仕方程度は教えてもらえる。
セレナさんに弟子入りしよう?」
リンの提案に、妹二人はうなずく。セレナは世間知らずの中でも、最も世間に近い生活をしていた。
姉妹はさっそく入門しようとセレナの部屋へ。セレナは不在だったのでオリビアの部屋を訪ねた。
「突然ですが、カナリアってどんな星なんでしょう?」
リンが用件を切り出す。
「どんな星と言われても……。普通の星?」
セレナは戸惑う。セレナは他の星を訪ねたことはない。星間航行の経費は決してお安くはないのだ。よって相対評価なんてできない。
「姉さん、質問内容が漠然とし過ぎてる。たとえば、治安は?」
エルがやや具体的な方向へ。
「治安ですか……。他の星は知りませんが、いいとは言えないでしょうね。
軍や警察以外、火器の携帯は禁止されてますが、結構出回ってるようです。
ナイフの類いは、ほとんどの人が護身用に持っているのでは?」
「無法地帯! たぎる!
襲われたら当然反撃していいんだよね?」
マミが目をキラキラさせる。
セレナは苦笑した。
「相手によりますかね。貴族の一族に反撃なんかしたら、非はなくても牢屋行きです。
場合によっては首が飛びます。
ヤクザは執念深い。チンピラを痛めつけても、集団で絡んできます」
「マジで無法地帯なんだ……」
リンは愕然とする。
「買い物なんか、どうしてたんですか?」
エルが聞く。
「上流居住区の商業街は安全です。値段は高いのでしょうが、一般居住区では怖くて買い物なんてできませんでした」
「カナリアへの移住、あきらめようか?」
エルの提案に、首肯する姉妹だった。
「移住は別の星を考えるとして、通貨の価値、教えてください」
リンが聞く。
「帝国内で通貨は共通してます。
オリビア様のお母様が亡くなる前は、月百万オーラ口座に振り込まれていました。
亡くなられてからは三十万オーラ。
税は旦那様が払っていたから別として、三十万オーラあれば、贅沢しない限り二人の生活はまかなえます。
もちろん、持ち家があればの話です。
上流居住区で部屋を借りたら、三十万オーラなんて最低限だと思います」
セレナの説明に、姉妹はコクコクとうなずく。生活費は問題ないだろうが、いよいよカナリアで暮らす気は失せた。
彼女たちにとって、家はあって当たり前。借り部屋でそんなに高いなら、三人がのびのび暮らせる家を買うとなったら、とんでもない額になるだろう。
「もっと素朴な疑問なんだけど、買い物はどんな店で、どう買えばいいの?」
エルが聞く。
「ああ、買い物したことがないんですね?
スーパーはほとんどがそろって、しかも少し安いです。コンビニは数が多いけどやや高め。品質でいえば専門店。
現金払いかクレジット決済になります。
普通大金は持ち歩きません。
クレジットカードは多少会費が必要ですが、作っておけば安心です。
魔力認証で、他者は使えませんから。
レジでカードリーダーに通して、魔力感知機器で承認ボタン押せばいいだけです。
やり方は他の客を見たら、すぐわかると思います。
カードは銀行口座を作って、信販会社に申請します」
「なんか、メンドクセー」
マミのやる気スイッチは、オフになってしまった。ジャックがコダカーラから出たくないというはずだ。
「慣れたら大丈夫だと思いますけど?」
セレナは一応気休めを言った。買い物の仕方も知らない野生女子三人が、カナリアへ放り出されたら、ヤバいかもしれない。カナリアが……。
「他の星はカナリアほどひどくないと思いますよ?
カナリアは腐ってる。
お父様はそう言ってました。
私、カナリアから離れることだけは、よかったと思いました」
今まで黙っていたオリビアが口を開いた。
姉妹は胸が痛んだ。オリビアは、ほとんど家から出たことがないと聞いた。滅茶苦茶な社会事情が原因だったのだ。
ハウス電脳内でスレッドが立った。『スルガヤに報復を!』
『皆の衆、シャドー殿の送ったデータ、吟味したでござろうか?』
『見た見た。要するに貿易商とヤクザの親分兼任?』
『興味ないから知らなかったけど、カナリアってひでぇ~星だ。
辺境伯、ぶっ潰した方がいいんじゃね?』
『辺境伯を潰すのは簡単でござるが、社会を変えるのは難しいでござろう?』
『お代わりの貴族、相当以上の剛腕じゃないと、社会変革は無理だね。
スルガヤ、どうする?』
『なんか、スルガヤ、ましな方だと思えてきた。半分は堅気なんだから。
スルガヤを潰したら、余計タチの悪いやつがのさばるんじゃね?』
『俺もそう思う。
スルガヤには、嫌がらせ程度でいいんじゃね?』
『賛成でござる。軍師殿に嫌がらせプランを練ってもらう。
それでよろしいでござるかな?』
『よろしいでござ~るよ』
『賛成。軍師君、よろ!』
『了解。スルガヤ直営アヘーン畑焼き払っちゃおう作戦。どう?』
『ああ、クダル星でやってると、シャドー君のリポートにあったね?
いいんじゃね?』
『軍師殿、よろしくでござる』
『りょ!』
ちなみに、「アヘーン」とは麻薬の原料になる植物だ。もう一つ。クダル星とは、辺境カナリアの、さらに端っこにある限界惑星だ。その星の領主とスルガヤは、持ちつ持たれつの仲よしさんである。
一時間後、コダカーラ衛星ブルームーンベースから、空母一隻と二隻の駆逐艦が飛び立った。コダカーラの衛星ブルームーンは、衛星自体が魔鉱石でできている。魔力の影響で衛星自体が青く光っている。ブルームーンの命名の由来、お分かりいただけたかと思う。
ジャックと父親が、なんとかしろと言うから。
「姉さん、やっぱりどこかへ行かない?
オリオール星は無理だとしても、カナリアとか?
あの輸送艇でミミに送ってもらおうよ」
マミがリンに振る。
「私たちには常識がまるでない。
皇女様が付いてるから、なんとでもなると思ってたけど」
「餞別にもらった宝石の価値さえ知らなかったのよ?
普通は聞くでしょ?
浮かれ過ぎていたと反省してる。
はっきり言って、私たちは赤ん坊と同じ」
リンの言葉に首肯しながら、エルも反省している。普通の生活に慣れるまで、エリナ様に保護してもらったら、もちろんなんの問題もなかった。
赤ん坊状態の三人が、世知辛いであろう社会に放り出されたらどうなるか、想像したくもない。
それに、赤ん坊といっても、宙賊を瞬殺できる暴力的な一騎当千赤ん坊なのだ。コダカーラの習慣に則って暮らしていたら、牢屋行きの未来が見える。
「教えてもらったらいいじゃん!」
マミが異議を唱える。
「誰に?
皇女様? 元侍女? プリンセスガード? 妾の娘?
セレナさんも、十二歳のときからずっとオリビアさんちでメイド生活。
社会をそれほど知っているとは思えない」
エルに論破されてしまい、黙り込むしかないマミだった。たしかに、ここへ来た女性はみんな、一般社会人の生活とはかけ離れた人ばかりだ。
「買い物の仕方程度は教えてもらえる。
セレナさんに弟子入りしよう?」
リンの提案に、妹二人はうなずく。セレナは世間知らずの中でも、最も世間に近い生活をしていた。
姉妹はさっそく入門しようとセレナの部屋へ。セレナは不在だったのでオリビアの部屋を訪ねた。
「突然ですが、カナリアってどんな星なんでしょう?」
リンが用件を切り出す。
「どんな星と言われても……。普通の星?」
セレナは戸惑う。セレナは他の星を訪ねたことはない。星間航行の経費は決してお安くはないのだ。よって相対評価なんてできない。
「姉さん、質問内容が漠然とし過ぎてる。たとえば、治安は?」
エルがやや具体的な方向へ。
「治安ですか……。他の星は知りませんが、いいとは言えないでしょうね。
軍や警察以外、火器の携帯は禁止されてますが、結構出回ってるようです。
ナイフの類いは、ほとんどの人が護身用に持っているのでは?」
「無法地帯! たぎる!
襲われたら当然反撃していいんだよね?」
マミが目をキラキラさせる。
セレナは苦笑した。
「相手によりますかね。貴族の一族に反撃なんかしたら、非はなくても牢屋行きです。
場合によっては首が飛びます。
ヤクザは執念深い。チンピラを痛めつけても、集団で絡んできます」
「マジで無法地帯なんだ……」
リンは愕然とする。
「買い物なんか、どうしてたんですか?」
エルが聞く。
「上流居住区の商業街は安全です。値段は高いのでしょうが、一般居住区では怖くて買い物なんてできませんでした」
「カナリアへの移住、あきらめようか?」
エルの提案に、首肯する姉妹だった。
「移住は別の星を考えるとして、通貨の価値、教えてください」
リンが聞く。
「帝国内で通貨は共通してます。
オリビア様のお母様が亡くなる前は、月百万オーラ口座に振り込まれていました。
亡くなられてからは三十万オーラ。
税は旦那様が払っていたから別として、三十万オーラあれば、贅沢しない限り二人の生活はまかなえます。
もちろん、持ち家があればの話です。
上流居住区で部屋を借りたら、三十万オーラなんて最低限だと思います」
セレナの説明に、姉妹はコクコクとうなずく。生活費は問題ないだろうが、いよいよカナリアで暮らす気は失せた。
彼女たちにとって、家はあって当たり前。借り部屋でそんなに高いなら、三人がのびのび暮らせる家を買うとなったら、とんでもない額になるだろう。
「もっと素朴な疑問なんだけど、買い物はどんな店で、どう買えばいいの?」
エルが聞く。
「ああ、買い物したことがないんですね?
スーパーはほとんどがそろって、しかも少し安いです。コンビニは数が多いけどやや高め。品質でいえば専門店。
現金払いかクレジット決済になります。
普通大金は持ち歩きません。
クレジットカードは多少会費が必要ですが、作っておけば安心です。
魔力認証で、他者は使えませんから。
レジでカードリーダーに通して、魔力感知機器で承認ボタン押せばいいだけです。
やり方は他の客を見たら、すぐわかると思います。
カードは銀行口座を作って、信販会社に申請します」
「なんか、メンドクセー」
マミのやる気スイッチは、オフになってしまった。ジャックがコダカーラから出たくないというはずだ。
「慣れたら大丈夫だと思いますけど?」
セレナは一応気休めを言った。買い物の仕方も知らない野生女子三人が、カナリアへ放り出されたら、ヤバいかもしれない。カナリアが……。
「他の星はカナリアほどひどくないと思いますよ?
カナリアは腐ってる。
お父様はそう言ってました。
私、カナリアから離れることだけは、よかったと思いました」
今まで黙っていたオリビアが口を開いた。
姉妹は胸が痛んだ。オリビアは、ほとんど家から出たことがないと聞いた。滅茶苦茶な社会事情が原因だったのだ。
ハウス電脳内でスレッドが立った。『スルガヤに報復を!』
『皆の衆、シャドー殿の送ったデータ、吟味したでござろうか?』
『見た見た。要するに貿易商とヤクザの親分兼任?』
『興味ないから知らなかったけど、カナリアってひでぇ~星だ。
辺境伯、ぶっ潰した方がいいんじゃね?』
『辺境伯を潰すのは簡単でござるが、社会を変えるのは難しいでござろう?』
『お代わりの貴族、相当以上の剛腕じゃないと、社会変革は無理だね。
スルガヤ、どうする?』
『なんか、スルガヤ、ましな方だと思えてきた。半分は堅気なんだから。
スルガヤを潰したら、余計タチの悪いやつがのさばるんじゃね?』
『俺もそう思う。
スルガヤには、嫌がらせ程度でいいんじゃね?』
『賛成でござる。軍師殿に嫌がらせプランを練ってもらう。
それでよろしいでござるかな?』
『よろしいでござ~るよ』
『賛成。軍師君、よろ!』
『了解。スルガヤ直営アヘーン畑焼き払っちゃおう作戦。どう?』
『ああ、クダル星でやってると、シャドー君のリポートにあったね?
いいんじゃね?』
『軍師殿、よろしくでござる』
『りょ!』
ちなみに、「アヘーン」とは麻薬の原料になる植物だ。もう一つ。クダル星とは、辺境カナリアの、さらに端っこにある限界惑星だ。その星の領主とスルガヤは、持ちつ持たれつの仲よしさんである。
一時間後、コダカーラ衛星ブルームーンベースから、空母一隻と二隻の駆逐艦が飛び立った。コダカーラの衛星ブルームーンは、衛星自体が魔鉱石でできている。魔力の影響で衛星自体が青く光っている。ブルームーンの命名の由来、お分かりいただけたかと思う。
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