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32 俺は猫になりたい!

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 猫又ナイトは、転移魔法で俊也の実家へ飛んだ。

 さて、どうする? 言葉がわからないから、店で放置、というわけにいかないよな?

 ナイトの中の俊也が悩んでいるのは、お買い物についてだった。

それというのも、買い物の目的が下着だから。もちろん女の子用の。

俺、店内に入っていいの?

 カナか朝陽に、同行を頼もうかとも思ったが、巫女たちが十人であることは話してない。

どう考えてもぶっ殺される!
 
ナイトの中の俊也が、頭を抱えていると、エレンが転送されてきた。

「わ~お! ちっちゃい部屋!」

「ちっちゃくて悪かったな。庶民の部屋はこんなものなの。
結界から出ろ」
 猫又ナイトが苦笑して言う。エレンは物珍しそうに俊也の部屋を見ながら結界を出た。

「ルラ、次、いいぞ!」
 猫又ナイトが、魔法陣に向かって声をかける。

『了解! 三十秒後フラワーを送る』
 ルラの声が聞こえてきた。

ナイトは結界から出る。現時点で転移魔法が使えるのは、猫又ナイトとルラだけだ。


俊也的には、一挙に「お買い物」を済ませたいのだが、現在は旅の宿だ。あちらの世界の、魔法陣を守る必要がある。

二班に分けてこちらへ来ると、話はついている。

 店は変えた方がいいね……。絶対。猫又の中の俊也はかつてないほど途方に暮れていた。
 

 まるでハイソな仮装パーティーだね。俊也はまっすぐ前を向いたままそう思う。なにせお嬢様方は、ルマンダ以外全員貴族。そしてこちらの世界は真冬。

 みなさん気合入りまくりの、中世貴族令嬢ファッション。平日の昼間で人通りは少ないが、目立つこと限りなし。
 

俊也が考えた作戦は、「異国からの留学生を、案内してるんだよね!」で押し通しちゃう!
 それっきゃないでしょ?

「シュンヤ、スゴイネ。アノタテモノ、イシデデキテル? 
ツギメナイケド」
 俊也の右手をがっちり握ったフラワーが聞く。イスタルト語は、カタカナ表記する。
ちなみに、英語で表記されている言葉は、イスタルト語を訳したものだと考えていただきたい。

「テッコツヤ、テッキントイウテツデ、ホネグミシテ……」
 俊也が解説を加える。カタカナばかりになっても読みにくいので、矢継ぎ早に飛んでくるお嬢様方の質問、ならびに俊也の解説は省略。

 中世文化水準のお嬢様たちが、いきなり現代日本、しかも東京へ、放り込まれたことを想像していただきたい。

つまり、質問と説明は切りがない。


 第一陣でこちらへ跳んできたメンバーは、エレン・フラワー・ローラン・ルマンダに加え、子爵家御令嬢ブルーの五名。

ブルーの実家は、メンバーの中で爵位が一番低い。だが、武門の家柄として、剣の達人を多く輩出し、代々近衛隊の要職を務めている。

その事情は、今回あちらに残っているイザベルと共通する。イザベルの実家は、弓の名手として名をとどろかせている家柄だ。


 巫女十名の名が、すべて出そろったところで一度整理しておこう。

以前説明した通り、魔力量によって実年齢は、あまり意味を持たないので、地球的(肉体的)外見を併記しておく。

ルラ…公爵家令嬢。魔法適正はオールマイティー。どちらかといえば、攻撃魔法が得意。魔力はすでに大魔導士の域に達している。父親は宰相も務める、三大貴族の一人。地球的外見は、ハイティーン。

エレン…侯爵家令嬢。父親は経済面で実権を握る、三大貴族の一人。魔法適正はオールマイティー。とりわけ、攻撃魔法に関しては、上級魔導士レベル。地球的外見は、ハイティーン。

フラワー…侯爵家令嬢。父親はきなくさい周辺国の抑えとして、軍事・諜報面で強い力を持つ、三大貴族の一人。
魔法適正はオールマイティー。とりわけ、精神・補助魔法に関しては、上級魔導士の域にある。地球的外見は、ハイティーン。

ユーノ…伯爵家令嬢。攻撃魔法のスペシャリスト。地球的外見は、幼めのハイティーン。

ローラン…伯爵家令嬢。先祖は滅亡した東国から流れてきた。宮廷治療師の家柄。治癒魔法のスペシャリスト。地球的外見は、幼めのハイティーン。

エンラン…伯爵家令嬢。ローランの従妹。母親はローランの母の妹。治癒魔法に高い適性を持つ。地球的外見は、ぎりぎり堂々の(なんだそれ?)合法ロリ。

マサラ…伯爵家令嬢。補助魔法に高い適性を持つ。地球的外見は、ぎりぎり堂々の(やっぱりなんだそれ?)合法ロリ。

ブルー…子爵家令嬢。父親は第一近衛連隊隊長。魔法はそこそこながら、剣に高い才能を持つ。
地球的外見は、童顔ハイティーン。実年齢はルラより三歳高い。

イザベル…子爵家令嬢。父親は第二近衛連隊隊長。魔法はそこそこながら、弓に高い才能を持つ。
地球的外見は、ふけ顔のハイティーン。実年齢はブルーの一つ下。

ルマンダ…母親は有力商家出身。某貴族に囲われていた模様。そのため、平民出身としては異例の魔力を持つ。地球的外見は、脂の乗り切った「おねえさま」。



 俊也たちは電車に乗り、銀座の某有名デパートに到着。エスカレータで、女性用下着売り場へ。

俊也はここへ来るまでも、周囲の目が痛かった。女性用下着売り場となったら、痛いどころの騒ぎではない。

ここは先制攻撃あるのみ!

俊也は目を(開けながら)つぶって、レジのおねえさんに声をかけた。

「すみません! 俺、超場違いだということはわかってます。
だけど、留学生の彼女たちに、案内を頼まれているんです。
彼女たち、日本語はまるでわかりませんから! 
どうか変態と思わないでください。
……できれば」

「あ、はい! もちろん、変態なんて思わないですよ。
ごゆっくり商品を…無理でしょうね。
どうします?」

「エスカレータのそばで待ってます。
支払いは全部俺がしますから、彼女たちについてもらえますか? 
サイズのメモは、みんなに持たせています」

「承りました」
 平日の午前。幸い売り場はすいていた。店員のおねえさんは、快く引き受けてくれた。

おねえさんは内心、このお嬢さん方、何者? と思っていた。

着てる服、どう見てもクラッシックハイソ。話している言葉も、何語だかさっぱりわかんない。

ガイジンさんの接客にも、慣れているのだが……。


 は~……。俊也は大きくため息をついた。この神経を削られる試練、もう一度あるんだよね……。

俺は猫になりたい!
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