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192 シュンヤーダ公国?

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※猫又の原稿では、最終章に突入します。時間的には五年弱経過しています。
 

 
 俊也は、ナビス平原にある「英勇の山」の頂に立つ。

彼に従うのは、出産を終えた幹部嫁三人。この山で俊也がナーム魔導師部隊をせん滅してから、五年が経過した。

ナームの内戦も、男性王族とほとんどの貴族の粛清、という形で、四年前に決着がついている。
俊也は共和制移行も考えたが、周辺国への影響もある。ミスト王とイスタルト政府幹部の意向に従った。

現在は前ナーム王の甥に当たる、フレディー・アマナフが王位を継いでいる。彼は革命軍の旗印として祭り上げられた若き王である。

俊也は同年配の彼の、特別顧問、という形でナームの国政に影で関与している。

現ナーム政権は、はっきり言ってミストとイスタルトの傀儡(かいらい)政権だ。

俊也は食料の自給が、可能になるまで仕方ないと、フレディー王に言い聞かせている。

フレディー王は、米の大量供給により、民の飢えを大いに潤したのは、俊也だと知っている。しかもほとんど自腹で。
その食料供給のおかげで、フレディーは民の熱狂的な支持を受けている。
そして、俊也と館の嫁たちの力にも、畏怖に近い敬意を持っている。

ミストとイスタルト両政府の信望が厚く、決して表には出ず、的確なアドバイスを与えてくれる。

なによりも、現状は俊也に頼るしかないのだ。なにせ俊也は、ナームの大食糧庫を握っているのだから。

つまり、ナビス平原領主、シュンヤーダ公国公主俊也に。


「すっかりロン王に、はめられちゃったね」
 ルラはナビス平原を見下ろす、俊也に体を寄せる。

整然と区画整理された平原は、牧草地、小麦・ライ麦などの穀倉畑、野菜・薬草畑、芋類の畑と分けられている。

毎年栽培する作物を変え、四年で一巡する、いわゆる四舗式農業を採用している。
畑を区切る道の両脇に植えた木々は、すべて果樹だ。
結果、大規模な計画農園にしかできない食糧生産量を誇っている。この平原を大食糧庫に変えた張本人は俊也と館の嫁。

賢明なロン王は、その功績の代償として、この平原を俊也に押し付けた。

その最大の理由は、この平原をミストとナームの緩衝地帯とすること。
ナームの有り余る労働力を使うのは、いまだに敵視される、ミスト人では不都合だ。
中立のイスタルトに属する俊也に、経営を放り投げる。
ナームとの交易も、間に俊也をいれたら円滑に進む。ナビス平原は元々ナームから分捕った土地でもある。

つまり、俊也にこの土地を与えても全然損はない。

「御領主様、この地に館を建てられますか? 
館も手狭になったことだし」
 エレンが、からかいがてら俊也にお伺いを立てる。

俊也はすでに、三男二女の父親となっている。

ブルー、イザベル、ミーナ、ミスト研修生嫁の一期生三人にも仕込み完了。

実際問題として、館の増築か、この地に新たな住居を設けるかしか、館の人口増を解消する手段はない。

「どちらにしろ、ここに館は必要ね。
御領主様が、いつまでも仮設城砦にお住まいでは対面が保てない」
 フラワーは、ルラと反対側から俊也に体を寄せる。

「よっし! でっかい館作っちゃおう。
何十人でも、子どもがのびのび育てられるような。
湖の館は別荘でいい。
そろそろおっぱいの時間だ。館へ帰ろう」
 俊也は三人の嫁を促し、湖の館へ転移した。


 館のリビングでは、五人の子がゆりかごに揺られている。
長男はルマンダの息子太郎、長女は静香の娘花、次男はエレンの息子次郎。三男はフラワーの息子三郎。
そして末っ子の次女が、ルラの娘湖(うみ)。湖は先月生まれたばかりだ。

それぞれの子の母親たちは、おっぱいをぽろんと出し、子に乳首を含ませた。

どの子ももちろん乳児だが、花以外は泣かない。空腹とかおむつの汚れ、眠い時など、念話で子守当番の嫁に意思を伝える。つまり、花以外の子守は超楽チン。
成長は魔力が一番少ない花が最も早い。よちよち歩きで、たどたどしく言葉をしゃべり始めたかわいい盛り。
イスタルト語と日本語が入り混じっている。そろそろおむつがとれ、静香は乳離れを考えている。

花は父親譲りの魔力の影響で、日本の子供よりはるかに成長は遅いが、知能は見た目年齢より相当高そうだ。
そんなある意味イレギュラーな子を、日本で育てるわけにいかない。静香はこちらの世界での永住を決めた。


「よう! オバちゃん、久し振り」
 俊也が声をかける。子守当番嫁に混じって、俊也の妹朝陽と、友達の木戸菜摘の顔が見えた。

「オバちゃんはやめてよ」
 十七歳のJKに成長した朝陽が、眉をひそめる。

「だって叔母ちゃんだもん。仕方ないでしょ?」
 菜摘は苦笑して朝陽をからかう。二人は同じ高校を選んだ。

「アニキ、全然老けないよね。お嫁さんたちもみんな。
なんかずるい」
 朝陽がクレーム。

「妹ちゃんと、セックスするわけにいかないでしょ? 
その点、私なら大丈夫なんだけど。
俊也さん、なんとかなりません?」
 菜摘は冗談交じりで言う。実は多少その気あり。超可愛い子供たちを見ていると余計に。

「なっちゃん、私を置いていかないで!」
「俊也さんとセックスしたなら、おいていくのはあなたよ。
ちなみに『おいていく』は、かけ言葉」

「もう! 二度とここへは連れてこない!」

「そんな~、私たち、友達でしょ!」

「老いていく、ね」
 皮肉で返した朝陽だった。

「ナツミモ、ヨメニナルノカ?」
 まだ片言日本語しか話せないクレオが聞く。

嫁たちの視線が集中する。俊也は目をそらす。

「大学卒業してからでも、遅くはないですよね? じっくり考えます」

「入学出来たらね」
 皮肉を重ねる朝陽だった。不動の妹の立場が悔しい! 
カナちゃんは、どう見ても二十歳前でとどまっている。琴ちゃんは、嫁でもないくせに、セックスの恩恵だけ被っている。
カナちゃんの「ついで」感は否めないけど。服飾専門学校を卒業した二人は、現在プロのデザイナーの下で、お針子の修行を積んでいる。
ゆくゆくは自分たちの店を出す計画だとか。「湖の館」ブランドで。

健康食品で、館ブランドは市民権を得ている。特に精力剤入りドリンクは、プレミアものの価値があり、予約希望者に対し生産が追いつかないほど。

二本しっぽの黒猫マーク。日本語で「湖の館」のロゴを入れた、こちら産の小物類や民芸品も、根強い人気を得ている。
ルマンダが時々発表する絵画は、小品でも五千万の価値がついている。その超有名画家がデザインした服を扱えば、黙っていても売れるだろう。

朝陽は、超有名になってしまった兄に、視線を向ける。こちらの世界でも、一国の王や首脳と友達づきあいしている、独立国の御領主様だとか。

目をほそめて、嫁たちの授乳を見守る兄が、なんだか遠く感じられる朝陽だった。
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