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223 もってけ泥棒王!
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イスタルト王は、アルス王宮に到着。アルス王と主だった貴族は、慇懃(いんぎん)に王を迎える。
イスタルト王は、俊也とユーノ、エリーナを伴っていた。
「まずは紹介しましょう。
我が娘ルラの婿、俊也青形。
ミスト王よりナビスを譲られ、アオガタ公国の領主を務めております」
「俊也青形です。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」
イスタリア王に紹介され、俊也は堂々とあいさつする。
「噂は聞いているかもしれませんが、俊也や彼の妻は、相当以上のつわもの。
詳しくは申せませんが、ミスト王がなぜナビスを譲ったか。
それで推察してください。
ときに、アルス王、ご息女のエリーナ殿、今回の働き、どうかおほめ下さい」
イスタリア王の言葉に、アルス側はきょとんとする。
「ほほ~、ご存じではなかったのですか?
アルスを落とす寸前で、カムハンのヤン・ハン将軍が、なぜ兵を退いたのか」
イスタリア王は、あきれたような目で、アルス側を見渡す。
「いや、不思議に思っていたのですが」
老アルス王は、咎める目で貴族たちを見る。
貴族たちは、思わず目をそらす。カムハンに備え、国内の軍備を整えはしていたが、密偵を放つなど、誰も積極的な諜報活動は、行っていなかった。
隣国の王に、怠慢ぶりを暗に指摘され、うかつとそしられても反論できない。
「いや、それなら結構。
ただ、エリーナ殿の祖国を思う気持ちが、我が娘婿を動かした。
そして、もう一つ付け加えておきましょう。
カムハンの皇帝は、おそらく一年以内に、退位することになるでしょう。
娘婿がそのお膳立てを整えた。
もちろん、妻エリーナ殿のために。
これも詳しいことは申せません。
ここだけの話にとどめておいてください。
よろしいですかな?」
イスタルト王は、鋭い目でアルス側を見渡す。
アルス王をはじめ、貴族たちは思わず背筋を伸ばした。
よくわかんないけど、なんかおっかね~……。
イスタルト王も、その娘婿殿も。
「外にもよく目を、配っておくことですな。カムハンが、南サミアの次に狙っていたのは貴国です。
何はともあれ、貴国がご無事であったのはめでたきこと。
話は変わりますが、私は商いを始めるつもりです。
イスタルト国内では、王の立場として、小商いをするのもはばかられる。
好都合なことに、ミケア侯爵殿が、孫のエリーナ殿に、パガダの一部を譲られました。
もちろん、祖国の危機を事前に阻止した、功績に報いるためです。
私はその地で、ささやかな店を構えます。
まあ、娘婿殿と共同経営という形で、老後の小遣いを稼ぐ心づもり。
どうかごひいきに」
イスタルト王は、全然笑ってない目で微笑んだ。
つまり、文句があるなら言ってみろ、ということ。
貴族たちは、イスタルト王が自国内で「小商い」をすることの意味に、まだ気づかなかった。
俊也は思う。
このありさまなら、ヤン・ハン将軍に攻められたらイチコロだ。
思う存分二大豪商とやらを、食いつぶしてやる。愛しのエリーナのために。
エリーナ、マイラブ、そ~~~スイーツ、なんちゃって。
「イスタルト王と私が、経営する商いについてご説明いたします。
よろしくご便宜のほどを。
ユーノ」
俊也はユーノを促す。
「御説明いたします……」
ユーノは差し障りのない範囲で、計画の詳細を語った。
貴族たちは思う。
それって「小商い」?
俺たちのスポンサー、やばくない?
この世界では、類を見ないその計画を聞かされ、貴族たちは、ようやく危機感を抱き始めた。
イスタルト王と、俊也たちは迎賓館に案内された。
「我が王。私たちはこれで失礼します」
俊也が唐突に切り出した。
「なん、だと? 余に馬車で帰れと言うのか!」
イスタルト王は、国境を越える手前で、転移魔法により使節団と合流した。帰りも同様、転移魔法をあてにしていたのだ。
アルス領内で転移するのは具合が悪いが、イスタルトに入ったら、ひとっとびで、楽ちん。
「当地で三日滞在なさる予定でございましょう?
私はなかなか忙しい身ですから。
特に我が王の暖かいご配慮のおかげで、五人も……」
「わかった、わかった。
待ち合わせは、行きと同じところでよいのだな?」
俊也の皮肉を、王の鉄面皮で流す。
「はい。三日後の午後三時。お待ちしております」
「婿殿、正確な時間が知りたい、なんてね……。
嫁の皆に与えておるであろう?
と・け・い!」
「さようでございました! 今持ち合わせがございませんので……」
俊也は腕に付けた時計を外し、王にささげた。
王は嬉々として受け取る。
「ん……、なんか安っぽくはないか?
ルラ達がつけている時計と、全然感じが違う。あれは宝石が散りばめられていた。これはよくわからない記号が……、もしかして数字か?
俊也が常用していた時計は、由緒正しきDIY店で購入した逸品。
「時計なぞ、時間がわかればよいのです。
それに、色々な機能が付いております。
たとえば、ストップウオッチ機能!
失礼ですが、一度お返しください」
俊也は時計を受け取り、ストップウオッチ機能を実践。
「おう!
これは便利だ!
ルラ達の時計は見栄えだけか!
針でなんとなく時間がわかるだけだし。
さぞ高かったであろう?」
「値段は聞かぬが花でございましょう。
午後三時は、15:00と表示されます」
俊也は常にポケットに入れている折込チラシの裏に、ボールペンで15:00、と記入し時計と共に献上。
「他の記号は?」
「ご自分で解析なさってください。十種類しかありませんから、よき暇つぶしになるでしょう」
「よかろう。時に婿殿。
この記号を書いた道具だが……」
もってけ泥棒王! 俊也はボールペンも献上品に加えた。
「すまぬの~!」
「いえ……」
どうせ1980円の時計と保険会社の粗品だから。俊也は心の中だけで言葉をつないだ。
イスタルト王は、俊也とユーノ、エリーナを伴っていた。
「まずは紹介しましょう。
我が娘ルラの婿、俊也青形。
ミスト王よりナビスを譲られ、アオガタ公国の領主を務めております」
「俊也青形です。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」
イスタリア王に紹介され、俊也は堂々とあいさつする。
「噂は聞いているかもしれませんが、俊也や彼の妻は、相当以上のつわもの。
詳しくは申せませんが、ミスト王がなぜナビスを譲ったか。
それで推察してください。
ときに、アルス王、ご息女のエリーナ殿、今回の働き、どうかおほめ下さい」
イスタリア王の言葉に、アルス側はきょとんとする。
「ほほ~、ご存じではなかったのですか?
アルスを落とす寸前で、カムハンのヤン・ハン将軍が、なぜ兵を退いたのか」
イスタリア王は、あきれたような目で、アルス側を見渡す。
「いや、不思議に思っていたのですが」
老アルス王は、咎める目で貴族たちを見る。
貴族たちは、思わず目をそらす。カムハンに備え、国内の軍備を整えはしていたが、密偵を放つなど、誰も積極的な諜報活動は、行っていなかった。
隣国の王に、怠慢ぶりを暗に指摘され、うかつとそしられても反論できない。
「いや、それなら結構。
ただ、エリーナ殿の祖国を思う気持ちが、我が娘婿を動かした。
そして、もう一つ付け加えておきましょう。
カムハンの皇帝は、おそらく一年以内に、退位することになるでしょう。
娘婿がそのお膳立てを整えた。
もちろん、妻エリーナ殿のために。
これも詳しいことは申せません。
ここだけの話にとどめておいてください。
よろしいですかな?」
イスタルト王は、鋭い目でアルス側を見渡す。
アルス王をはじめ、貴族たちは思わず背筋を伸ばした。
よくわかんないけど、なんかおっかね~……。
イスタルト王も、その娘婿殿も。
「外にもよく目を、配っておくことですな。カムハンが、南サミアの次に狙っていたのは貴国です。
何はともあれ、貴国がご無事であったのはめでたきこと。
話は変わりますが、私は商いを始めるつもりです。
イスタルト国内では、王の立場として、小商いをするのもはばかられる。
好都合なことに、ミケア侯爵殿が、孫のエリーナ殿に、パガダの一部を譲られました。
もちろん、祖国の危機を事前に阻止した、功績に報いるためです。
私はその地で、ささやかな店を構えます。
まあ、娘婿殿と共同経営という形で、老後の小遣いを稼ぐ心づもり。
どうかごひいきに」
イスタルト王は、全然笑ってない目で微笑んだ。
つまり、文句があるなら言ってみろ、ということ。
貴族たちは、イスタルト王が自国内で「小商い」をすることの意味に、まだ気づかなかった。
俊也は思う。
このありさまなら、ヤン・ハン将軍に攻められたらイチコロだ。
思う存分二大豪商とやらを、食いつぶしてやる。愛しのエリーナのために。
エリーナ、マイラブ、そ~~~スイーツ、なんちゃって。
「イスタルト王と私が、経営する商いについてご説明いたします。
よろしくご便宜のほどを。
ユーノ」
俊也はユーノを促す。
「御説明いたします……」
ユーノは差し障りのない範囲で、計画の詳細を語った。
貴族たちは思う。
それって「小商い」?
俺たちのスポンサー、やばくない?
この世界では、類を見ないその計画を聞かされ、貴族たちは、ようやく危機感を抱き始めた。
イスタルト王と、俊也たちは迎賓館に案内された。
「我が王。私たちはこれで失礼します」
俊也が唐突に切り出した。
「なん、だと? 余に馬車で帰れと言うのか!」
イスタルト王は、国境を越える手前で、転移魔法により使節団と合流した。帰りも同様、転移魔法をあてにしていたのだ。
アルス領内で転移するのは具合が悪いが、イスタルトに入ったら、ひとっとびで、楽ちん。
「当地で三日滞在なさる予定でございましょう?
私はなかなか忙しい身ですから。
特に我が王の暖かいご配慮のおかげで、五人も……」
「わかった、わかった。
待ち合わせは、行きと同じところでよいのだな?」
俊也の皮肉を、王の鉄面皮で流す。
「はい。三日後の午後三時。お待ちしております」
「婿殿、正確な時間が知りたい、なんてね……。
嫁の皆に与えておるであろう?
と・け・い!」
「さようでございました! 今持ち合わせがございませんので……」
俊也は腕に付けた時計を外し、王にささげた。
王は嬉々として受け取る。
「ん……、なんか安っぽくはないか?
ルラ達がつけている時計と、全然感じが違う。あれは宝石が散りばめられていた。これはよくわからない記号が……、もしかして数字か?
俊也が常用していた時計は、由緒正しきDIY店で購入した逸品。
「時計なぞ、時間がわかればよいのです。
それに、色々な機能が付いております。
たとえば、ストップウオッチ機能!
失礼ですが、一度お返しください」
俊也は時計を受け取り、ストップウオッチ機能を実践。
「おう!
これは便利だ!
ルラ達の時計は見栄えだけか!
針でなんとなく時間がわかるだけだし。
さぞ高かったであろう?」
「値段は聞かぬが花でございましょう。
午後三時は、15:00と表示されます」
俊也は常にポケットに入れている折込チラシの裏に、ボールペンで15:00、と記入し時計と共に献上。
「他の記号は?」
「ご自分で解析なさってください。十種類しかありませんから、よき暇つぶしになるでしょう」
「よかろう。時に婿殿。
この記号を書いた道具だが……」
もってけ泥棒王! 俊也はボールペンも献上品に加えた。
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