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契約
第五話
──一年前
大学進学に反対する親に黙って受けた東京の国立大学。受かると信じてアルバイトで必死に貯めたお金で、入学金と前期の授業料をどうにか納めた。
その帰り、三月にはめずらしく雪がちらついて、俺は東京で有名な動物園にふらりと入った。
絶滅危惧種の動物たちが檻の中で生かされてる。
Ωも、じきにこういう対象になる。
「お前たちは、ここに居て幸せ?」
俺の頬にぬるい涙が伝う。
Ωになんてなりたくなかった。
なんで自分だけ特異なんだ。
家族にΩはいない。
Ωなんて伝説だと思ってた。
αにだって出会ったことがない。
運命の番だなんて恋愛小説がベストセラーになってる。
フィクションだろう?
ようやくあの家から出られるのに。
種の保存なんて知るか。
絶滅する運命ならそれでいいじゃないか。
自然淘汰でいい。
これまでどれだけの動物が人間のせいで絶滅したと思ってるんだ。
これから先たった数十年で新たに百万種の動植物が絶滅するらしい。
そのひとつでいいじゃないか。
「……なんで、変わっちゃったんだよぉ……っ」
首元にあるチョーカーに触れてみる。
もう、振り回されたくない。
せっかく合格したんだ、希望は捨てない。
大学へ行くんだ。
袖で涙をグイッと拭うと俺はそれを外してゴミ箱へ捨てた。
動物園を出ると繁華街へ向かう。意を決して賑やかなクラブへ入ると、いかにも遊んでいそうな男に声を掛けられた。最初は俺の肩に手を掛けてきたくらいだったが、そのうち腰に手を回され引き寄せられる。その男の香水に胸焼けがして身体を離すと俺はトイレに向かった。
トイレで軽く顔を洗い廊下に出るとひとりの男性とすれ違った。その時、鼻から入った香りが脳を麻痺させた。身体には焼けるようなチリチリとした痛みが走る。くらりとして壁に手をつくと腰を抱かれた。さっきのナンパの男の腕とは全く違う。なんでか分からないけどそう身体が教えてる。
「大丈夫か?」
耳元で囁かれ見上げると端正な顔立ちの男が俺の顔を覗き込んだ。目と目が合った途端、吸い込まれるようにその男に唇を押し当てていた。
その後の記憶は飛び飛びにしかない。
清潔な香りのするシーツに頬を擦り付けて体が揺さぶられていたこと。俺の固くなったものをその口に含んで一滴残らず絞り取られてしまったこと。それから彼の熱い肌と舌。俺の内壁を攻め立てる熱い欲望。
そして彼が俺の中にいる時の幸福感。
目が覚めたとき、彼が隣でうつ伏せに寝ているのを見て俺はとんでもないことをしてしまったのだと気がついた。俺からキスしたし、誘った。
──怖い……!!
俺は自分の服をかき集めて、何処だかも分からない部屋を飛び出していた。始発の電車には人はまばらで、ゆっくり座席に腰を落とすと初めて使った後孔はジンジンした。
──発情?
頭にいきなり浮かんだ文字に、俺は両手で自分の体を抱きしめた。
──怖い。
もしこれが発情ならば、発情とは意識がなくなるのだろうか、あぁやって目が合った男を誘ってしまうのだろうか。
『なんてふしだらなの!!汚らわしい!!』
母親の声がしたような気がしたら足が震えて、その震えを抑えようと伸ばした手は既に震えていた。
この日から俺は抑制剤を毎日服用することを決めた。
大学進学に反対する親に黙って受けた東京の国立大学。受かると信じてアルバイトで必死に貯めたお金で、入学金と前期の授業料をどうにか納めた。
その帰り、三月にはめずらしく雪がちらついて、俺は東京で有名な動物園にふらりと入った。
絶滅危惧種の動物たちが檻の中で生かされてる。
Ωも、じきにこういう対象になる。
「お前たちは、ここに居て幸せ?」
俺の頬にぬるい涙が伝う。
Ωになんてなりたくなかった。
なんで自分だけ特異なんだ。
家族にΩはいない。
Ωなんて伝説だと思ってた。
αにだって出会ったことがない。
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フィクションだろう?
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種の保存なんて知るか。
絶滅する運命ならそれでいいじゃないか。
自然淘汰でいい。
これまでどれだけの動物が人間のせいで絶滅したと思ってるんだ。
これから先たった数十年で新たに百万種の動植物が絶滅するらしい。
そのひとつでいいじゃないか。
「……なんで、変わっちゃったんだよぉ……っ」
首元にあるチョーカーに触れてみる。
もう、振り回されたくない。
せっかく合格したんだ、希望は捨てない。
大学へ行くんだ。
袖で涙をグイッと拭うと俺はそれを外してゴミ箱へ捨てた。
動物園を出ると繁華街へ向かう。意を決して賑やかなクラブへ入ると、いかにも遊んでいそうな男に声を掛けられた。最初は俺の肩に手を掛けてきたくらいだったが、そのうち腰に手を回され引き寄せられる。その男の香水に胸焼けがして身体を離すと俺はトイレに向かった。
トイレで軽く顔を洗い廊下に出るとひとりの男性とすれ違った。その時、鼻から入った香りが脳を麻痺させた。身体には焼けるようなチリチリとした痛みが走る。くらりとして壁に手をつくと腰を抱かれた。さっきのナンパの男の腕とは全く違う。なんでか分からないけどそう身体が教えてる。
「大丈夫か?」
耳元で囁かれ見上げると端正な顔立ちの男が俺の顔を覗き込んだ。目と目が合った途端、吸い込まれるようにその男に唇を押し当てていた。
その後の記憶は飛び飛びにしかない。
清潔な香りのするシーツに頬を擦り付けて体が揺さぶられていたこと。俺の固くなったものをその口に含んで一滴残らず絞り取られてしまったこと。それから彼の熱い肌と舌。俺の内壁を攻め立てる熱い欲望。
そして彼が俺の中にいる時の幸福感。
目が覚めたとき、彼が隣でうつ伏せに寝ているのを見て俺はとんでもないことをしてしまったのだと気がついた。俺からキスしたし、誘った。
──怖い……!!
俺は自分の服をかき集めて、何処だかも分からない部屋を飛び出していた。始発の電車には人はまばらで、ゆっくり座席に腰を落とすと初めて使った後孔はジンジンした。
──発情?
頭にいきなり浮かんだ文字に、俺は両手で自分の体を抱きしめた。
──怖い。
もしこれが発情ならば、発情とは意識がなくなるのだろうか、あぁやって目が合った男を誘ってしまうのだろうか。
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この日から俺は抑制剤を毎日服用することを決めた。
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