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αの世界
第二十一話
「会長、私は運命を見つけました」
「この場に及んで今度はそのような戯言を申すか」
その昔の総理大臣のような髭を蓄え、役員室の会長席に座るのは私の祖父だ。
「私はあなたの言いなりにはなりません。あなたにはもう先はない、じきに私がここの頂点に立つ人間です。私の好きなようにします」
「……生意気をっ!」
私は今年で三十一歳になる。
この年までαが独身であることはなく殆どは配偶者を通じて嫡男を得ている。祖父はこの十年社交界でこの話題に触れられることに憤りを感じていた。私の結婚相手である家からもずっとプレッシャーを与えられているに違いない。怒りを顕に握っていた杖を振り上げた。
なにより私を支配できないことに苛立っているんだ。私は怯むことなく祖父を凝視した。
床に叩きつけられた杖は私の足元に虚しく転がる。
「ならば、私がここを去るのみ、如何しますか?」
「く……っ」
代々優秀なαを生み続ける財閥。
運命の番など迷信であり、Ωはαを惑わすだけだと教えられてきた。Ωのフェロモンにあてられラット状態になるαほどみっともなく、哀れなものはないと。
私もかつてはそう考えていたはずだ。人間には理性がある。動物とは違ってフェロモンに屈さない理性が与えられているんだ。
しかし私の中のαが、自分の理性ではどうにもならないような抗えない強い愛を渇望していた。
両親もα同士見合いでαの私を生んだが実態はやはり仮面夫婦であった。さらに母親のほうが父より上位αだと知ると祖父は切り捨てるように離婚させ母親を排除した。
出ていった母親は私を産んだばかりだったと乳母から聞いている。
αは出来て当然。
しかしこの家では祖父に従って当然。
私は幼い頃からストレスを抱えるようになる。中学生の頃には父の無能ぶりに気づいてしまったからだ。
αの中でも貫に出ている上位αと成長していく私を、祖父は恐れ私をコントロールしようとした。しかし私が高校生ともなるとそれは完全に逆転して不可能になっていく。
αとして能力が上回る相手をコントロールなど出来はしないのだ。
祖父は私の威圧に苦痛に顔を歪めながらも声を絞り出した。
「……絶対に、認めん……っ! 半導体のことも……お上の都合もなしに……勝手にことを進めおってからに……っ」
「もう、会長や父に任せては日本が潰されますからね」
「なんだと?!」
「そろそろ世代交代ですよ、会長」
祖父もかつては優秀なαだっただろう。
父が無能だったことは祖父の自尊心を満たした。自分の中のαを誇示し続けいつまでも息子を支配できた。
それがこの血族の終わりを意味することも分かっていながら祖父はそれを止められなかった。いつまでも自身が天下で居たかったのだろう。
それ故、私を祖父は愛することができない。
α同士牽制しあい、どちらかの喉を掻っ切るまで続けるしかない。
「この場に及んで今度はそのような戯言を申すか」
その昔の総理大臣のような髭を蓄え、役員室の会長席に座るのは私の祖父だ。
「私はあなたの言いなりにはなりません。あなたにはもう先はない、じきに私がここの頂点に立つ人間です。私の好きなようにします」
「……生意気をっ!」
私は今年で三十一歳になる。
この年までαが独身であることはなく殆どは配偶者を通じて嫡男を得ている。祖父はこの十年社交界でこの話題に触れられることに憤りを感じていた。私の結婚相手である家からもずっとプレッシャーを与えられているに違いない。怒りを顕に握っていた杖を振り上げた。
なにより私を支配できないことに苛立っているんだ。私は怯むことなく祖父を凝視した。
床に叩きつけられた杖は私の足元に虚しく転がる。
「ならば、私がここを去るのみ、如何しますか?」
「く……っ」
代々優秀なαを生み続ける財閥。
運命の番など迷信であり、Ωはαを惑わすだけだと教えられてきた。Ωのフェロモンにあてられラット状態になるαほどみっともなく、哀れなものはないと。
私もかつてはそう考えていたはずだ。人間には理性がある。動物とは違ってフェロモンに屈さない理性が与えられているんだ。
しかし私の中のαが、自分の理性ではどうにもならないような抗えない強い愛を渇望していた。
両親もα同士見合いでαの私を生んだが実態はやはり仮面夫婦であった。さらに母親のほうが父より上位αだと知ると祖父は切り捨てるように離婚させ母親を排除した。
出ていった母親は私を産んだばかりだったと乳母から聞いている。
αは出来て当然。
しかしこの家では祖父に従って当然。
私は幼い頃からストレスを抱えるようになる。中学生の頃には父の無能ぶりに気づいてしまったからだ。
αの中でも貫に出ている上位αと成長していく私を、祖父は恐れ私をコントロールしようとした。しかし私が高校生ともなるとそれは完全に逆転して不可能になっていく。
αとして能力が上回る相手をコントロールなど出来はしないのだ。
祖父は私の威圧に苦痛に顔を歪めながらも声を絞り出した。
「……絶対に、認めん……っ! 半導体のことも……お上の都合もなしに……勝手にことを進めおってからに……っ」
「もう、会長や父に任せては日本が潰されますからね」
「なんだと?!」
「そろそろ世代交代ですよ、会長」
祖父もかつては優秀なαだっただろう。
父が無能だったことは祖父の自尊心を満たした。自分の中のαを誇示し続けいつまでも息子を支配できた。
それがこの血族の終わりを意味することも分かっていながら祖父はそれを止められなかった。いつまでも自身が天下で居たかったのだろう。
それ故、私を祖父は愛することができない。
α同士牽制しあい、どちらかの喉を掻っ切るまで続けるしかない。
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