恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

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デート

第三十三話

「他には……、靴だな」
「えっ、まだ買うんですか?」
「他の店も見てみるか?」
「そういう意味では……」
「じゃあ、他に下着と靴下、ハンカチも適当な数入れておいてくれ」
「かしこまりました」

「雪、このスタジャンは今着て帰ろう、この靴もだな、あとこのニットも着て帰ろう」
「かしこまりました」

 手早く試着室にその服たちをセットしていく。空だったハンガーラックはパンパンになっていて私を満足させた。ラックに掛かっている分は後日外商が自宅に搬送する。近々に必要なものだけを包んでもらうことにした。

 


 着替えを済ませた雪が試着室から出てくる。相当気に入ったのか鏡に何度も自身を映している。その気に入ったスタジャンは四十万は超えている、ニットも二十万、ブラックデニムパンツも二十万、特に気に入ったグレーのスニーカーでさえ十万だ。細かいものを合わせれば全身の総額は百万を超える。
 そんなことを知らずに純粋に好きなものを選び心が満たされている雪を見ると、同時に私も男としての喜びが満たされる。

 αとしてΩの雪を着飾ってやりたい欲望は、このように満たしてやればいいのか。なにも美しいシルクのような手触りで大切に包むことではない、雪の心が満たされる物で溢れさせてやらなければならないんだ。それで自身も満足しているなら、幸いだ。





 店員を待っている間、小物が飾られている棚を雪はなんとなしに眺めている。バッグや財布などを眺め、そしてあるところで足が止まり何かを手にした。

「気に入ったか?」

 雪に近づくと手にしていたものはネクタイピンだった。

「お父さんにでも買ってやりたいのか?」
「いいえ、父は早くに亡くなりました」

 ……養父は認めないわけか。

「これ、須賀さんに似合うかもって思って見てました」
「どれどれ」

 私が上着のボタンを外し前を開けて胸を張る。雪は気が付いて緊張した面持ちで私のネクタイに触れた。どの辺りに付けるものなのかななどと眉を寄せているその真剣な眼差しに堪らなくなり雪のほっぺにキスをしてしまった。

「あ、もうっっ!」

 すぐにピンク色に色づく頬に雪は慌てて手をやって隠した。この初な反応がたまらなくくすぐる。

「シンプルでとてもいいな、ではこれも貰おう」
「え、買うんですか?」
「あぁ、君が見立ててくれたんだからな」
「……いつかお返しにお金を貯めて買おうとしていたのに」

 私が嘆く前に「あぁ……」という詠嘆が聞こえた。周りにいた外商や店員たちが雪の言葉にうっとりしていたのだった。

「気持ちだけで結構だ、私には君のキスのほうが何倍も嬉しいよ」
「またそんな冗談を……。──っ!」

 雪は何か思い出してから少し考えて、意を決したように私を見上げると、踵を上げ勢いよく私にキスをしたんだ。一瞬だけくっつくキス。子供のキスのようだが、私は舞い上がってしまった。

「雪……」

 恥ずかしさにすぐ俯いた雪を上に向かせると先程の唇に自身の唇を重ねた。雪の両頬を優しく包み込み柔らかな唇に吸い付く。

 お車にお運び致しますね……という気遣った声が後ろから聞こえた。それに答えるように片手で彼らを追い払うような手つきをしたあと私は雪を抱き寄せた。





「はぅ……ぅっ」

 雪の腕が私の背中に伸ばされたとき上着の中に滑り込んできた。中に入り込んだその手が戸惑っているのが分かると雪をさらに抱き寄せ、それでいいと伝える。

 ワイシャツ一枚しか隔てていない、そこから伝わる雪の手のひら。その手が彷徨いながらも私にしがみつきたがっている。

「雪……」

 唇を離すとすぐに俯いてしまう雪の顎を捕まえてまた顔を近づけると雪の長いまつ毛が伏せられ、ぷるんとした唇を見つめて口づける。

 雪はうまく息が出来ないでいる。なんて可愛らしいんだろう。Ωのフェロモンが微量滲むと私はその唇から離れて白い首筋を食んだ。

 背中にようやく雪の手のひらが密着する。指に力が入っている。たまに爪を立ててはそれを自制しているのが分かると愛おしさが増す。

「礼をくれたのか? ん?」
「ぁ……」

 耳元で囁くとその時ぶわっと雪の香りが突如増幅した。私の鼻腔を刺激する甘ったるいΩのフェロモン。目の前の首筋に噛み付いてしまいたい衝動に駆られるのを自身の唇を噛んでそれを制した。頭を軽く振り正気を保つ。

「雪……」
「……はぁ……っ、須賀さ……」
「……どうした?」
「俺も……、分からない……です」

 顔をあげるとまるで火照ったように潤ませている目と合う。目尻が小さくキラリと光った気がした。これ以上はいけないと目尻を拭ってやると雪の肩に手を置いて深呼吸をした。雪も俯いて息を整えている。

「雪からのキス嬉しかったよ」

 雪ははにかんで微笑したが、その後で沈んだ表情をしたのを私は気づけないでいた。






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