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デート
第三十四話
「さあ、今夜はどこへ行こうか」
「どこか連れて行ってくれるんですか?」
車窓を眺めていた雪が驚いた顔をして振り返る。雪はいつもガラスに張り付くように流れる景色を見ている。少し上を空を仰ぐようにしているんだ。
「ああ、デートしよう」
「……デート」
「行きたいところはあるかい?」
「東京タワー!!」
どこかワクワクしたような表情をする雪は、考える間もなく即答したから私は驚いてしまった。
「東京タワー?」
「東京に来て一年経ちますが東京観光してなかったなって。東京タワーを下から見上げたいです」
下から? と聞くと笑って頷いた。
「……寒いな」
「けど気持ちいい!!」
佐伯の提案で二階建てオープンバスに乗り込みルーフからの風にあたる。風に煽られおでこが顕になりながら、そんなことは気にも留めず冷たい風を顔いっぱい浴びている。
「あっ! 見えた! 東京タワー! 須賀さん!」
「ああ、そうだな」
「ほら! あの隙間から! うわーっ! きれい……」
立ち上がりたい気持ちを抑えて前の座席の頭を掴み、片方を宙に上げる。何をしているのかと観察していると、しばらく手のひらをやんわりと広げて風を受け続けている。
「……なにを、しているんだ?」
「風の圧力を受けてるのが好きなんです、風を捕まえてるみたいで」
「へえ……」
「変ですよね」
「変わっているなとは思うが変ではない」
「同じ字ですよ?」
「変わり者だとしても、それは本人の好きだ、誰に構わずやりたいことをすればいい」
「……はい」
雪は腕をおろし私の横に座り直す。
「もうやめてしまうのか?」
「あの、須賀さん」
「なんだ?」
「なんで恋人役に俺を選んだんです?」
唐突な質問に雪の表情を伺い真意を確かめようとするが、雪の曇った表情からは見つけられなかった。確か契約をしたときにも聞かれた質問だ。
「おじいさんは絶対納得してないと思います」
「そんなことはないさ。君という恋人がいると話してからずっとあの人は大人しい。見合いの話も止まっている」
「そうなんですか?」
「今夜もどこかで雇われたパパラッチが私達がキスしている写真を撮りたがっているだろうな」
「え…………っ」
冗談半分、本当の事半分。
確かにあの人は大人しい。それが嵐の前の静けさだとは承知しているが、この一時の平穏を楽しまないわけにはいかない。雪はキョロキョロして周りを走る車を伺うように見始めた。
「今夜は見せつけてやってもいいな」
「それは……っ」
「デートだろう……?」
そう言って雪を抱き寄せた。スタジャンのまだ新品の牛革の匂いがする。
「こうしているだけでいい」
「須賀さん……」
「ほら、次はスカイツリーが見えてくるぞ」
「え?」
顔を上げた雪が私の視線を辿る。腕を緩めて窓の方を向かせると、またその背中を抱きしめた。
「寄りかかっていいぞ」
「……はい」
遠慮がちに体重を預ける雪。ふわふわと雪の髪が私の頬をくすぐった。
αがΩとデートしている。
雪のフェロモンが微量であることは憂慮すべきことだが、そのお陰で私は雪とこのように穏やかな時間を過ごすことが出来ている。
運命の番なのは分かりきっている。
間違いはないのだ。
あの夜のことを無かったことにはしたくない。
フェロモンに囚われることなく、雪を大切に抱きしめることができる。
恋人役には雪以外、存在しない。
少しずつ、嘘を真にしていけばいいんだ。
急に雪の体重がのしかかる。うつらうつらとしているのだ。私は後ろから雪のおでこに手のひらを当て、自身の肩へ引きよせ寄りかからせる。すると雪はおでこをすり寄せてくる。
「……どうしたら君の目に私が映るだろうか」
私も雪のおでこにキスをし、頬ずりした。
「どこか連れて行ってくれるんですか?」
車窓を眺めていた雪が驚いた顔をして振り返る。雪はいつもガラスに張り付くように流れる景色を見ている。少し上を空を仰ぐようにしているんだ。
「ああ、デートしよう」
「……デート」
「行きたいところはあるかい?」
「東京タワー!!」
どこかワクワクしたような表情をする雪は、考える間もなく即答したから私は驚いてしまった。
「東京タワー?」
「東京に来て一年経ちますが東京観光してなかったなって。東京タワーを下から見上げたいです」
下から? と聞くと笑って頷いた。
「……寒いな」
「けど気持ちいい!!」
佐伯の提案で二階建てオープンバスに乗り込みルーフからの風にあたる。風に煽られおでこが顕になりながら、そんなことは気にも留めず冷たい風を顔いっぱい浴びている。
「あっ! 見えた! 東京タワー! 須賀さん!」
「ああ、そうだな」
「ほら! あの隙間から! うわーっ! きれい……」
立ち上がりたい気持ちを抑えて前の座席の頭を掴み、片方を宙に上げる。何をしているのかと観察していると、しばらく手のひらをやんわりと広げて風を受け続けている。
「……なにを、しているんだ?」
「風の圧力を受けてるのが好きなんです、風を捕まえてるみたいで」
「へえ……」
「変ですよね」
「変わっているなとは思うが変ではない」
「同じ字ですよ?」
「変わり者だとしても、それは本人の好きだ、誰に構わずやりたいことをすればいい」
「……はい」
雪は腕をおろし私の横に座り直す。
「もうやめてしまうのか?」
「あの、須賀さん」
「なんだ?」
「なんで恋人役に俺を選んだんです?」
唐突な質問に雪の表情を伺い真意を確かめようとするが、雪の曇った表情からは見つけられなかった。確か契約をしたときにも聞かれた質問だ。
「おじいさんは絶対納得してないと思います」
「そんなことはないさ。君という恋人がいると話してからずっとあの人は大人しい。見合いの話も止まっている」
「そうなんですか?」
「今夜もどこかで雇われたパパラッチが私達がキスしている写真を撮りたがっているだろうな」
「え…………っ」
冗談半分、本当の事半分。
確かにあの人は大人しい。それが嵐の前の静けさだとは承知しているが、この一時の平穏を楽しまないわけにはいかない。雪はキョロキョロして周りを走る車を伺うように見始めた。
「今夜は見せつけてやってもいいな」
「それは……っ」
「デートだろう……?」
そう言って雪を抱き寄せた。スタジャンのまだ新品の牛革の匂いがする。
「こうしているだけでいい」
「須賀さん……」
「ほら、次はスカイツリーが見えてくるぞ」
「え?」
顔を上げた雪が私の視線を辿る。腕を緩めて窓の方を向かせると、またその背中を抱きしめた。
「寄りかかっていいぞ」
「……はい」
遠慮がちに体重を預ける雪。ふわふわと雪の髪が私の頬をくすぐった。
αがΩとデートしている。
雪のフェロモンが微量であることは憂慮すべきことだが、そのお陰で私は雪とこのように穏やかな時間を過ごすことが出来ている。
運命の番なのは分かりきっている。
間違いはないのだ。
あの夜のことを無かったことにはしたくない。
フェロモンに囚われることなく、雪を大切に抱きしめることができる。
恋人役には雪以外、存在しない。
少しずつ、嘘を真にしていけばいいんだ。
急に雪の体重がのしかかる。うつらうつらとしているのだ。私は後ろから雪のおでこに手のひらを当て、自身の肩へ引きよせ寄りかからせる。すると雪はおでこをすり寄せてくる。
「……どうしたら君の目に私が映るだろうか」
私も雪のおでこにキスをし、頬ずりした。
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