38 / 98
運命の子
第三十八話
翌朝、天気はからりとしていた。朝方には停電も解消していて瀧が元気よくやってきた。昨夜の雨にも停電にも動じていないのがわかる。朝食の手伝いをしている雪を呼び止め書斎に呼んだ。
「なんでしょうか……」
先程まで同じ部屋で一緒に過ごしていたことに少しの気恥ずかしさを感じているのか、より声が小さい。
「これを君に」
「え……?」
昨夜停電したときに見ていたラップトップを雪に差し出す。
「私のお古で申し訳ないがまだ去年の型落ちだ、使ってくれないか?」
「えぇ?! これ普通に電気屋さんで売ってる人気のですけど! え! これ使わないんですか?」
いきなり鼻息荒めになるのは大学生らしい一面で、ころころ表情が変わるのが見ていて実に面白い。
「社長としては今後はうちの半導体を使ってるメーカーのを使わないといかんだろう?」
「あ……そうなんですね」
「メモリは16GBある。ストレージも1TBだ。研究資料を纏めるにしてもそのくらいあればまず動作は問題ないだろう。あぁ、ちゃんと初期化してあるから安心しろ」
「そんな……ありがとうございます」
「こちらこそだ、使う人が居てなによりだ」
雪はそうっと受け取ると胸にそれを抱きしめた。
もちろん新品を買ってやることはできるが、雪が遠慮せず貰ってくれる手段はこれが最良と考えた。結果は大方良い。
「あ、この間の撮影のデータを入れておいたからな、よく撮れている、美しいぞ」
「え?!……それはいいです!」
「消すんじゃないぞ?」
雪は戸惑いながらペコッと頭を下げて書斎を出ていった。
私も支度を済ませなければ、昨夜の停電で工場への影響の報告を業務前に聞かなくてはならない。佐伯がいつもより早く迎えに来るのだ。
玄関へ急ぐと後ろから呼び止められた。
「あの、須賀さん」
「ん?」
「いま、大丈夫ですか?」
「ああ、まだ佐伯が来ていない、どうした?」
雪は視線を泳がせ遠慮がちに話し始めた。
「俺の大学の先輩なんですが、昨夜の大雨を気にしてくれて俺のアパートに来ようとしてくれて、その、あのアパートには居ないと伝えたら、その……」
「心配されたんだな?」
「……はい」
「近いうちに家に招待しよう」
「大丈夫ですか……?」
「大したことはない」
「すいません……ご迷惑をおかけします」
雪の先輩か。
どんなやつか見ておかなくてはならない。佐伯が週末の午前中のスケジュールを調整した。
──週末
「夏子さん!」
そろそろ近いと連絡を受けた雪がスマホを手に家の外に出る。私もその後ろをゆっくり付いていくと一台のタクシーから女性が降りてきた。そして私の家を見上げている。
先輩は女性だった。
「……とんでもないお屋敷ね」
「社長さんなんだよ」
「ようこそ」
私が声を掛けると女性は慌てて私の方へ向いてお辞儀をした。
「学部の先輩の夏子さんです」
「押し掛けるように申し訳ありません……」
「いいえ」
申し訳ないのなら家まで来ないと思うが……という言葉は飲み込んで雪のため笑顔を取り繕う。雪が夏子を見る目は信頼しきっている。それには十分腹が立つが、雪が大学で寂しい思いをしていないんだと思えば笑顔くらいいくらでも。
リビングへ通してソファへ促すと夏子はもう一度謝った。
「でも、安心しました。須賀社長のような方に助けてもらっていて。アルバイトの話は聞いていましたがそこからお世話になっているんですね」
「お世話になりっぱなしで……」
「雪くん、毎日アルバイトと大学とで体壊さないか心配だったけど……よかった」
目と目を合わせる雪と夏子。やっぱり腹が立つ。
「もう心配はいりませんよ、私が──」
「はいはい、お待たせ致しました~」
お盆を持った瀧が話に割り込んできた。
「坊っちゃまのお友達が訪ねてきてくださるだなんて嬉しいですねぇ!」
「……話の途中だ」
「あら、怖い顔」
私が瀧に牽制していると夏子が慌てた様子で包みをテーブルに置いた。
「あの、お口に合いますかどうか」
「わっ! 瀧さん、この包装……!」
「あら!」
夏子が持参した菓子折りには瀧の大好物が入っていた。
瀧、雪、夏子が意気投合してしまった。
「なぜだ……、何故私は入れない」
リビングで三人、どういうわけか気が合い話がもりあがっている。私は席を外し庭に出て外の空気を吸う。
「いわゆる女子のコミュニケーション能力の高さなのでしょうね、協調性に長けています。長谷川様も楽しそう」
午後から仕事の私を迎えに来た佐伯が、彼女たちを目を細めて見守っている。
「雪は男だぞ?……性差を指摘しているわけではないが」
「端的に申しあげるとすれば例えば韓流ドラマや甘いもの、それらに理解があるかないかでしょうね」
「私だって大福は好きだ」
佐伯は飽きれ顔で肩を竦めてから私にタブレットを寄越した。
「ケーキやパフェなどの有名店にお誘いするのはいかがです? お次のデートに。明日アルマーニのパーティーがございますよ」
「パーティー」
「まだ欠席の返事はしておりません。スイーツが立食形式で並べられていたら長谷川様もお喜びになるかと」
「しかし、半分ビジネスのようなところへ雪を連れて行きたくはないな」
「モデルに起用しておきながら、でございますか?」
「……」
「長谷川様のタキシード、ご用意しておきます」
佐伯はさらに目を細めている。
「お前、雪を想像しているな?」
「は?」
「お前の脳内から雪を排除しろ」
「そんな、想う気持ちは自由です」
「なんだその、プラトニックな不倫のような言い草は」
「社長……意外と恋愛小説なんか読んでたりします?」
「ち‥…っ」
「なんでしょうか……」
先程まで同じ部屋で一緒に過ごしていたことに少しの気恥ずかしさを感じているのか、より声が小さい。
「これを君に」
「え……?」
昨夜停電したときに見ていたラップトップを雪に差し出す。
「私のお古で申し訳ないがまだ去年の型落ちだ、使ってくれないか?」
「えぇ?! これ普通に電気屋さんで売ってる人気のですけど! え! これ使わないんですか?」
いきなり鼻息荒めになるのは大学生らしい一面で、ころころ表情が変わるのが見ていて実に面白い。
「社長としては今後はうちの半導体を使ってるメーカーのを使わないといかんだろう?」
「あ……そうなんですね」
「メモリは16GBある。ストレージも1TBだ。研究資料を纏めるにしてもそのくらいあればまず動作は問題ないだろう。あぁ、ちゃんと初期化してあるから安心しろ」
「そんな……ありがとうございます」
「こちらこそだ、使う人が居てなによりだ」
雪はそうっと受け取ると胸にそれを抱きしめた。
もちろん新品を買ってやることはできるが、雪が遠慮せず貰ってくれる手段はこれが最良と考えた。結果は大方良い。
「あ、この間の撮影のデータを入れておいたからな、よく撮れている、美しいぞ」
「え?!……それはいいです!」
「消すんじゃないぞ?」
雪は戸惑いながらペコッと頭を下げて書斎を出ていった。
私も支度を済ませなければ、昨夜の停電で工場への影響の報告を業務前に聞かなくてはならない。佐伯がいつもより早く迎えに来るのだ。
玄関へ急ぐと後ろから呼び止められた。
「あの、須賀さん」
「ん?」
「いま、大丈夫ですか?」
「ああ、まだ佐伯が来ていない、どうした?」
雪は視線を泳がせ遠慮がちに話し始めた。
「俺の大学の先輩なんですが、昨夜の大雨を気にしてくれて俺のアパートに来ようとしてくれて、その、あのアパートには居ないと伝えたら、その……」
「心配されたんだな?」
「……はい」
「近いうちに家に招待しよう」
「大丈夫ですか……?」
「大したことはない」
「すいません……ご迷惑をおかけします」
雪の先輩か。
どんなやつか見ておかなくてはならない。佐伯が週末の午前中のスケジュールを調整した。
──週末
「夏子さん!」
そろそろ近いと連絡を受けた雪がスマホを手に家の外に出る。私もその後ろをゆっくり付いていくと一台のタクシーから女性が降りてきた。そして私の家を見上げている。
先輩は女性だった。
「……とんでもないお屋敷ね」
「社長さんなんだよ」
「ようこそ」
私が声を掛けると女性は慌てて私の方へ向いてお辞儀をした。
「学部の先輩の夏子さんです」
「押し掛けるように申し訳ありません……」
「いいえ」
申し訳ないのなら家まで来ないと思うが……という言葉は飲み込んで雪のため笑顔を取り繕う。雪が夏子を見る目は信頼しきっている。それには十分腹が立つが、雪が大学で寂しい思いをしていないんだと思えば笑顔くらいいくらでも。
リビングへ通してソファへ促すと夏子はもう一度謝った。
「でも、安心しました。須賀社長のような方に助けてもらっていて。アルバイトの話は聞いていましたがそこからお世話になっているんですね」
「お世話になりっぱなしで……」
「雪くん、毎日アルバイトと大学とで体壊さないか心配だったけど……よかった」
目と目を合わせる雪と夏子。やっぱり腹が立つ。
「もう心配はいりませんよ、私が──」
「はいはい、お待たせ致しました~」
お盆を持った瀧が話に割り込んできた。
「坊っちゃまのお友達が訪ねてきてくださるだなんて嬉しいですねぇ!」
「……話の途中だ」
「あら、怖い顔」
私が瀧に牽制していると夏子が慌てた様子で包みをテーブルに置いた。
「あの、お口に合いますかどうか」
「わっ! 瀧さん、この包装……!」
「あら!」
夏子が持参した菓子折りには瀧の大好物が入っていた。
瀧、雪、夏子が意気投合してしまった。
「なぜだ……、何故私は入れない」
リビングで三人、どういうわけか気が合い話がもりあがっている。私は席を外し庭に出て外の空気を吸う。
「いわゆる女子のコミュニケーション能力の高さなのでしょうね、協調性に長けています。長谷川様も楽しそう」
午後から仕事の私を迎えに来た佐伯が、彼女たちを目を細めて見守っている。
「雪は男だぞ?……性差を指摘しているわけではないが」
「端的に申しあげるとすれば例えば韓流ドラマや甘いもの、それらに理解があるかないかでしょうね」
「私だって大福は好きだ」
佐伯は飽きれ顔で肩を竦めてから私にタブレットを寄越した。
「ケーキやパフェなどの有名店にお誘いするのはいかがです? お次のデートに。明日アルマーニのパーティーがございますよ」
「パーティー」
「まだ欠席の返事はしておりません。スイーツが立食形式で並べられていたら長谷川様もお喜びになるかと」
「しかし、半分ビジネスのようなところへ雪を連れて行きたくはないな」
「モデルに起用しておきながら、でございますか?」
「……」
「長谷川様のタキシード、ご用意しておきます」
佐伯はさらに目を細めている。
「お前、雪を想像しているな?」
「は?」
「お前の脳内から雪を排除しろ」
「そんな、想う気持ちは自由です」
「なんだその、プラトニックな不倫のような言い草は」
「社長……意外と恋愛小説なんか読んでたりします?」
「ち‥…っ」
あなたにおすすめの小説
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。