恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

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運命の子

第三十八話

 翌朝、天気はからりとしていた。朝方には停電も解消していて瀧が元気よくやってきた。昨夜の雨にも停電にも動じていないのがわかる。朝食の手伝いをしている雪を呼び止め書斎に呼んだ。


「なんでしょうか……」

 先程まで同じ部屋で一緒に過ごしていたことに少しの気恥ずかしさを感じているのか、より声が小さい。

「これを君に」
「え……?」

 昨夜停電したときに見ていたラップトップを雪に差し出す。

「私のお古で申し訳ないがまだ去年の型落ちだ、使ってくれないか?」
「えぇ?! これ普通に電気屋さんで売ってる人気のですけど! え! これ使わないんですか?」

 いきなり鼻息荒めになるのは大学生らしい一面で、ころころ表情が変わるのが見ていて実に面白い。

「社長としては今後はうちの半導体を使ってるメーカーのを使わないといかんだろう?」
「あ……そうなんですね」
「メモリは16GBある。ストレージも1TBだ。研究資料を纏めるにしてもそのくらいあればまず動作は問題ないだろう。あぁ、ちゃんと初期化してあるから安心しろ」
「そんな……ありがとうございます」
「こちらこそだ、使う人が居てなによりだ」

 雪はそうっと受け取ると胸にそれを抱きしめた。

 もちろん新品を買ってやることはできるが、雪が遠慮せず貰ってくれる手段はこれが最良と考えた。結果は大方良い。

「あ、この間の撮影のデータを入れておいたからな、よく撮れている、美しいぞ」
「え?!……それはいいです!」
「消すんじゃないぞ?」

 雪は戸惑いながらペコッと頭を下げて書斎を出ていった。




 私も支度を済ませなければ、昨夜の停電で工場への影響の報告を業務前に聞かなくてはならない。佐伯がいつもより早く迎えに来るのだ。

 玄関へ急ぐと後ろから呼び止められた。

「あの、須賀さん」
「ん?」
「いま、大丈夫ですか?」
「ああ、まだ佐伯が来ていない、どうした?」

 雪は視線を泳がせ遠慮がちに話し始めた。

「俺の大学の先輩なんですが、昨夜の大雨を気にしてくれて俺のアパートに来ようとしてくれて、その、あのアパートには居ないと伝えたら、その……」
「心配されたんだな?」
「……はい」
「近いうちに家に招待しよう」
「大丈夫ですか……?」
「大したことはない」
「すいません……ご迷惑をおかけします」

 雪の先輩か。

 どんなやつか見ておかなくてはならない。佐伯が週末の午前中のスケジュールを調整した。








 ──週末


「夏子さん!」

 そろそろ近いと連絡を受けた雪がスマホを手に家の外に出る。私もその後ろをゆっくり付いていくと一台のタクシーから女性が降りてきた。そして私の家を見上げている。

 先輩は女性だった。

「……とんでもないお屋敷ね」
「社長さんなんだよ」
「ようこそ」

 私が声を掛けると女性は慌てて私の方へ向いてお辞儀をした。

「学部の先輩の夏子さんです」
「押し掛けるように申し訳ありません……」
「いいえ」

 申し訳ないのなら家まで来ないと思うが……という言葉は飲み込んで雪のため笑顔を取り繕う。雪が夏子を見る目は信頼しきっている。それには十分腹が立つが、雪が大学で寂しい思いをしていないんだと思えば笑顔くらいいくらでも。



 リビングへ通してソファへ促すと夏子はもう一度謝った。

「でも、安心しました。須賀社長のような方に助けてもらっていて。アルバイトの話は聞いていましたがそこからお世話になっているんですね」
「お世話になりっぱなしで……」
「雪くん、毎日アルバイトと大学とで体壊さないか心配だったけど……よかった」

 目と目を合わせる雪と夏子。やっぱり腹が立つ。

「もう心配はいりませんよ、私が──」
「はいはい、お待たせ致しました~」

 お盆を持った瀧が話に割り込んできた。

「坊っちゃまのお友達が訪ねてきてくださるだなんて嬉しいですねぇ!」
「……話の途中だ」
「あら、怖い顔」

 私が瀧に牽制していると夏子が慌てた様子で包みをテーブルに置いた。

「あの、お口に合いますかどうか」
「わっ! 瀧さん、この包装……!」
「あら!」

 夏子が持参した菓子折りには瀧の大好物が入っていた。







 瀧、雪、夏子が意気投合してしまった。

「なぜだ……、何故私は入れない」

 リビングで三人、どういうわけか気が合い話がもりあがっている。私は席を外し庭に出て外の空気を吸う。

「いわゆる女子のコミュニケーション能力の高さなのでしょうね、協調性に長けています。長谷川様も楽しそう」

 午後から仕事の私を迎えに来た佐伯が、彼女たちを目を細めて見守っている。

「雪は男だぞ?……性差を指摘しているわけではないが」
「端的に申しあげるとすれば例えば韓流ドラマや甘いもの、それらに理解があるかないかでしょうね」
「私だって大福は好きだ」

 佐伯は飽きれ顔で肩を竦めてから私にタブレットを寄越した。

「ケーキやパフェなどの有名店にお誘いするのはいかがです? お次のデートに。明日アルマーニのパーティーがございますよ」
「パーティー」
「まだ欠席の返事はしておりません。スイーツが立食形式で並べられていたら長谷川様もお喜びになるかと」
「しかし、半分ビジネスのようなところへ雪を連れて行きたくはないな」
「モデルに起用しておきながら、でございますか?」
「……」
「長谷川様のタキシード、ご用意しておきます」

 佐伯はさらに目を細めている。

「お前、雪を想像しているな?」
「は?」
「お前の脳内から雪を排除しろ」
「そんな、想う気持ちは自由です」
「なんだその、プラトニックな不倫のような言い草は」
「社長……意外と恋愛小説なんか読んでたりします?」
「ち‥…っ」





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