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顕在
第四十ニ話
私は信頼する男へ連絡を取った。
『Ωの専門病院? 妊娠でもさせたか?』
「私はそんなヘマはしない」
堤の軽い口調に言い返すと少し気が紛れた気がした。
「威圧で気を失っているだけだが、まだ目覚めない」
『馬鹿だろお前!』
「……いいからΩを診れる医師を紹介しろ」
αとΩは病院も決して交わることはなく、私の主治医もα、そんなところへ雪を連れていくわけにもいかない。
『知ってるには知ってるが、αの医者だぞ』
「それでは意味がない! Ωは居ないのか?」
『んじゃぁ、あの方にお願いしてみろ』
「あの方?」
あの方と言われ、ひとり浮かぶ人物が居た。
『きっと、助けてくださるよ』
思わず堤まで敬語になってしまうほどの人。その方に連絡をすると、自宅へ来るよう指示された。
「こんなに早く君に会えるとはね、ささ、中に入りなさい」
鹿鳴館を彷彿とさせる西洋式の館の主は私と、この腕の中に眠る雪を快く受け入れてくださった。
──伏見の当主、伏見 彬
Ωの総統と言われる方だ。αと組織は大きくは変わらないが、財閥というカテゴリーに収まらない裏の世界を取り纏める家だと聞いている。Ωの総本山と形容する者もいる。αである私には、計り知れない世界。
「はい、これ、一応飲んでおくれ」
「はい」
伏見会長に手渡されたのはαの抑制剤だ。ここはΩの居住区、ましてや伏見の本家、私は間髪なくそれを口にした。
連絡を受けたΩの専門医がやってくる。若い男だった。伏見家の主治医だと説明を受け、雪の寝かされている客間へ向かう。
「それで? どうしたらこんなことに?」
年は私より若い。堤を彷彿とさせるような生意気さとプライドを見せつけてきた。医師に事の成り行きを説明すると、雪の血圧を計り血圧を上げる薬を点滴で投与しましょうと提案した。それしか対処法はないのだという。
「あなたほどのαの威圧、しばらくは目が覚めないかもしれませんね」
点滴の針を雪の細い腕に差し込み、点滴の落下速度を調整しながらチラリと私を伺う。
「余程のことがあったとご推察致しますが、一点お伺いしてもよろしいですか?」
「あぁ、なんだ」
「まぁ……、αらしい高圧的な態度」
ストレートに言われて私は目を見張る。会長を見るとさすがに苦笑いを私に向けた。会長の主治医だ、ここは私が我慢するしかない。
医師はベッドの近くに椅子を持ってきてそこに座り足を組んだ。
「この方、Ωのフェロモンが微量過ぎます。同類の僕でも分からないくらいです」
「あぁ、αでも感知できるのは私くらいだ」
「ホルモンバランスの治療は?」
「分からない、どうなんだろうか」
「分からない? 運命なのではないんですか?」
「運命?」
目を合わせ数秒互いの思考を伺う。
「伏見さんからの話では須賀さんの運命が倒れた、と」
「……」
「では、この方はどこのΩなのです?」
「そんなこと重要か?」
まるで雪を拾って来た猫のような言われ様に私は医師を睨んだ。
「ここの居住区外のΩを診るのは初めてですから」
「……何が言いたい」
「βの世界に紛れたΩ、血統がないのでは?」
Ωにも血統主義というものがいるのか。どこの世界も同じなのだな。
「点滴が済んだのであれば、お引き取りを先生」
会長がやんわりと医師を退室させた。会長は何故あんな生意気な差別主義者を近くに置くのか、首を傾げる。
「須賀くん、すまないね、不愉快だったろうに堪えてくれてありがとう。……彼に聞かれていないといいが」
会長は布団の上にそっと手のひらを添えて雪を見下ろした。その眼差しはまるで聖母のようで、安らぎを与えているかのように見えてくる。Ωの当主だからだろうか。
「彼も、色々あってね、αをよく思っていないんだ」
「構いません」
「ありがとう」
何故か会長が謝る。私と言うより雪に対してには腹が立つが、会長の手前言うのはやめた。
「須賀くん」
「はい」
「雪くんは何処にいた?」
会長が真っ直ぐ私を見つめる。
「βの居住区に居たのか?」
「そうなります」
「親は? 母親のΩは誰だ?」
「いえ、調べによるとβです、両親ともに」
「そんなこと、……あり得ない」
会長は顎に手をやり口元を隠すようにして驚いている。そして外に出ようとドアを開け、私も会長に付いていく。リビングまで行きドアが閉まるのを確認すると、私は矢継ぎ早に会長に迫った。
「あり得ないとは」
会長はゆっくり私に振り向いた。
「Ωは、Ωの母親からしか生まれない」
「βからΩへの変異したとは?」
「そんなこと、神様くらいにしか出来んだろう」
会長はソファに深く腰掛けゴクリと喉を鳴らした。慎重に言葉を選ぶように少し考えてから私を見据えた。
『Ωの専門病院? 妊娠でもさせたか?』
「私はそんなヘマはしない」
堤の軽い口調に言い返すと少し気が紛れた気がした。
「威圧で気を失っているだけだが、まだ目覚めない」
『馬鹿だろお前!』
「……いいからΩを診れる医師を紹介しろ」
αとΩは病院も決して交わることはなく、私の主治医もα、そんなところへ雪を連れていくわけにもいかない。
『知ってるには知ってるが、αの医者だぞ』
「それでは意味がない! Ωは居ないのか?」
『んじゃぁ、あの方にお願いしてみろ』
「あの方?」
あの方と言われ、ひとり浮かぶ人物が居た。
『きっと、助けてくださるよ』
思わず堤まで敬語になってしまうほどの人。その方に連絡をすると、自宅へ来るよう指示された。
「こんなに早く君に会えるとはね、ささ、中に入りなさい」
鹿鳴館を彷彿とさせる西洋式の館の主は私と、この腕の中に眠る雪を快く受け入れてくださった。
──伏見の当主、伏見 彬
Ωの総統と言われる方だ。αと組織は大きくは変わらないが、財閥というカテゴリーに収まらない裏の世界を取り纏める家だと聞いている。Ωの総本山と形容する者もいる。αである私には、計り知れない世界。
「はい、これ、一応飲んでおくれ」
「はい」
伏見会長に手渡されたのはαの抑制剤だ。ここはΩの居住区、ましてや伏見の本家、私は間髪なくそれを口にした。
連絡を受けたΩの専門医がやってくる。若い男だった。伏見家の主治医だと説明を受け、雪の寝かされている客間へ向かう。
「それで? どうしたらこんなことに?」
年は私より若い。堤を彷彿とさせるような生意気さとプライドを見せつけてきた。医師に事の成り行きを説明すると、雪の血圧を計り血圧を上げる薬を点滴で投与しましょうと提案した。それしか対処法はないのだという。
「あなたほどのαの威圧、しばらくは目が覚めないかもしれませんね」
点滴の針を雪の細い腕に差し込み、点滴の落下速度を調整しながらチラリと私を伺う。
「余程のことがあったとご推察致しますが、一点お伺いしてもよろしいですか?」
「あぁ、なんだ」
「まぁ……、αらしい高圧的な態度」
ストレートに言われて私は目を見張る。会長を見るとさすがに苦笑いを私に向けた。会長の主治医だ、ここは私が我慢するしかない。
医師はベッドの近くに椅子を持ってきてそこに座り足を組んだ。
「この方、Ωのフェロモンが微量過ぎます。同類の僕でも分からないくらいです」
「あぁ、αでも感知できるのは私くらいだ」
「ホルモンバランスの治療は?」
「分からない、どうなんだろうか」
「分からない? 運命なのではないんですか?」
「運命?」
目を合わせ数秒互いの思考を伺う。
「伏見さんからの話では須賀さんの運命が倒れた、と」
「……」
「では、この方はどこのΩなのです?」
「そんなこと重要か?」
まるで雪を拾って来た猫のような言われ様に私は医師を睨んだ。
「ここの居住区外のΩを診るのは初めてですから」
「……何が言いたい」
「βの世界に紛れたΩ、血統がないのでは?」
Ωにも血統主義というものがいるのか。どこの世界も同じなのだな。
「点滴が済んだのであれば、お引き取りを先生」
会長がやんわりと医師を退室させた。会長は何故あんな生意気な差別主義者を近くに置くのか、首を傾げる。
「須賀くん、すまないね、不愉快だったろうに堪えてくれてありがとう。……彼に聞かれていないといいが」
会長は布団の上にそっと手のひらを添えて雪を見下ろした。その眼差しはまるで聖母のようで、安らぎを与えているかのように見えてくる。Ωの当主だからだろうか。
「彼も、色々あってね、αをよく思っていないんだ」
「構いません」
「ありがとう」
何故か会長が謝る。私と言うより雪に対してには腹が立つが、会長の手前言うのはやめた。
「須賀くん」
「はい」
「雪くんは何処にいた?」
会長が真っ直ぐ私を見つめる。
「βの居住区に居たのか?」
「そうなります」
「親は? 母親のΩは誰だ?」
「いえ、調べによるとβです、両親ともに」
「そんなこと、……あり得ない」
会長は顎に手をやり口元を隠すようにして驚いている。そして外に出ようとドアを開け、私も会長に付いていく。リビングまで行きドアが閉まるのを確認すると、私は矢継ぎ早に会長に迫った。
「あり得ないとは」
会長はゆっくり私に振り向いた。
「Ωは、Ωの母親からしか生まれない」
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会長はソファに深く腰掛けゴクリと喉を鳴らした。慎重に言葉を選ぶように少し考えてから私を見据えた。
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