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柔らかな日々
第五十四話
大学からの帰宅中、腹痛に襲われた。最近ずっと胃の痛みが復活していて胃薬を飲んでいたが一向に良くならず、なくなく世話になったΩのクリニックへ向かった。
精密検査のあと、診察室に呼ばれる。
「すごい勢いでΩ化が進んでいる、これを見て」
診断結果のホルモン数値が以前は底辺にいたものが今日は平均値に近づいている。しかし、胃の痛みでやってきたのに、何故ホルモン値のことを話すのだろうかと頭にはてなマークが浮かぶ俺。
「こんなに急だとその変化に追いつかないだろうね、お腹が痛むって言っていたけれど、胃の痛みではないと思うんだ。ここらへん、下が痛くないかい?」
胃よりもっと下の臍の下に手を当てて見せてくれた。確かに言われてみればそこがつるように痛むような。俺が頷くと医師はにっこり笑った。
「それは子宮の収縮だよ、これを見て」
次はパソコンの画面を見せられる。そこにはエコーの画像が映し出されていた。
「これが……えっと腸。それでこれが君の子宮。内膜の厚さもまだ薄いがこんなもんだろう。発情期はまだ来ていないんだよね?」
「はい……」
「いつ来るか分からないから、一応注意ね。まぁ、突然来るから無駄なアドバイスではあるんだけど」
「先生は、その、どう過ごしているんですか?」
「僕? Ωのパートナーがいるからね、協力してもらっているよ」
「協力……」
「初めての発情期の時はΩの児童養護施設に居たから手厚くしてもらえたし薬も与えてもらったよ」
児童養護施設?
「あ、どっちに興味出た? 薬なら処方しとくけど。あ、あのαが居るから大丈夫か」
「えっ!?」
「え? もしかして、まだとか?」
「な、何がですか?」
「君からあのαのフェロモンを感じないなぁって思ってたけど、本当にまだ、なの?」
露骨に言われてしまい、耳から煙が出そうなほど恥ずかしくなる。
「へぇ……、あのα、案外忍耐強いんだね、見直した」
「ええっと、話が……」
「αって、Ωならなんでも良いでしょう? ヤッておしまい。あとは棄てられるだけ」
「ひ……、人によるかと」
「まぁそうだけど、僕もαに捨てられたΩから生まれたからさ」
「えっ」
「伏見さんに施設から拾って貰って医者にまでしてもらったんだ」
須賀に対しての態度が冷たいというか、見方によっては失礼なのはその生い立ちからなのだろうか。……にしても失礼だとは思うけど、俺も似たような偏見があるし人のことは言えないか。
Ωの児童養護施設……、この先生は俺のことは聞いていないみたいだ、そのことにホッとしつつ、俺もそういう理由で棄てられた可能性はあると頭に過ぎる。
「伏見さんが気にかけてとても心配していたよ」
思い出したかのように先生がそう言った。伏見さんは二度も助けられた俺にとっても恩人だ。俺も改めて会いたい。
「会ってく?」
「えっ?」
「今頃終わったくらいかな、……今日は定期検診に来てるから。あ、ごめん、電話だ」
デスクの内線が鳴った。
「じゃぁ、俺行きます、ありがとうございました」
電話の邪魔にならないよう小声で伝えて椅子から立ち上がったとき、呼び止められた。
「君のαが迎えに来ているってよ」
そう告げられて俺は固まった。何故か急に恥ずかしくなる。確かにクリニックに向かうときにちょうど連絡があってクリニックに向かうと言ったけど……仕事はどうしたのだろう。
待合室に出ると目の前のソファには居なかった。あたりを見回してみると奥の大きな窓のそばで須賀は腕を組み行ったり来たりを繰り返していた。
「上位αも、自分のΩのこととなるとあぁなるんだ? あいつにも血が通ってるってことか」
俺の後ろから出てきたΩ医者が、憎らしげに須賀を見ていた。
「君には優しいの?」
「はい!」
「そう……」
俺の肩をポンと叩いて俺を追い抜いてナースステーションへ向かっていく。俺はうろうろする須賀をその場で見つめた。昨夜、キスしたことが蘇る。
焦げた臭いがして須賀が慌てて火を消しに行って中断してしまった。小鍋の中でソースが焦げついて須賀はがっかりしてた。そんな彼を見てふっと力が抜けて、俺は緊張しまくってたんだなって気がついた。須賀が振り返って苦笑いを見せたから、俺は慌てて主張してる下半身を両足で挟んで誤魔化したんだ。
あのままだったら、俺は須賀と続きが出来たんだろうか。須賀が俺に優しくて、その先を躊躇っているのがすごく伝わってくる。
──俺は……
その時、胃ではない下腹部がシクシクと痛むのを認識できた。そうだ、これまでの痛みは子宮だったんだ。
俺の中のΩが須賀を求めてるんだとしたら。
須賀に近寄っていくと俺に気づいて腕を解くとそのまま俺の肩に置いた。須賀は俺から何か言われると思って見つめて待ってる。心配そうに瞳が揺れたのを見て、胸がぎゅっと締め付けられて、またお腹が痛くなった。俺の子宮が、きゅうっと何かを求めてる。
「深刻なのか? 何か見つかったのか?」
「心配するようなことはありませんでした」
「そうなのか? もう痛くないのか?」
「はい、原因も分かったので」
「……」
本当はもっと聞きたい気持ちがあるだろうにそれを飲み込んだのが分かった。そして、さっき医師が去っていた方を睨んでチッと小さく舌打ちをした。
「須賀さんてば、いけません」
「……」
──あぁ、かわいいな。
素直な須賀さんはこんな子どもっぽいんだ。
「あの、伏見さんが今日ここにいらしてるようです、ご挨拶に行ってもいいですか?」
「クリニックに来ているなら何か患っているのかもしれない、今日は遠慮しよう」
「定期検診だと言ってましたが……、そうですね、話しかけて失礼になることもあるかもしれない」
「定期検診か、なら私はαだからこの外来以外は侵入禁止なんだ、君だけ行ってくるといい」
「え……っ」
αはクリニックに入ると抑制剤を飲まされる。今日も例外なく飲んだはずだ。それでもαが入れないところがΩ専門クリニックにはある……。それだけ危険性があるということ。
「ここで待っているから」
「はい。すぐ戻りますね」
挨拶だけしてすぐ帰ってこよう。俺は人間ドック、健康診断とかかれている案内を頼りに進んだ。
精密検査のあと、診察室に呼ばれる。
「すごい勢いでΩ化が進んでいる、これを見て」
診断結果のホルモン数値が以前は底辺にいたものが今日は平均値に近づいている。しかし、胃の痛みでやってきたのに、何故ホルモン値のことを話すのだろうかと頭にはてなマークが浮かぶ俺。
「こんなに急だとその変化に追いつかないだろうね、お腹が痛むって言っていたけれど、胃の痛みではないと思うんだ。ここらへん、下が痛くないかい?」
胃よりもっと下の臍の下に手を当てて見せてくれた。確かに言われてみればそこがつるように痛むような。俺が頷くと医師はにっこり笑った。
「それは子宮の収縮だよ、これを見て」
次はパソコンの画面を見せられる。そこにはエコーの画像が映し出されていた。
「これが……えっと腸。それでこれが君の子宮。内膜の厚さもまだ薄いがこんなもんだろう。発情期はまだ来ていないんだよね?」
「はい……」
「いつ来るか分からないから、一応注意ね。まぁ、突然来るから無駄なアドバイスではあるんだけど」
「先生は、その、どう過ごしているんですか?」
「僕? Ωのパートナーがいるからね、協力してもらっているよ」
「協力……」
「初めての発情期の時はΩの児童養護施設に居たから手厚くしてもらえたし薬も与えてもらったよ」
児童養護施設?
「あ、どっちに興味出た? 薬なら処方しとくけど。あ、あのαが居るから大丈夫か」
「えっ!?」
「え? もしかして、まだとか?」
「な、何がですか?」
「君からあのαのフェロモンを感じないなぁって思ってたけど、本当にまだ、なの?」
露骨に言われてしまい、耳から煙が出そうなほど恥ずかしくなる。
「へぇ……、あのα、案外忍耐強いんだね、見直した」
「ええっと、話が……」
「αって、Ωならなんでも良いでしょう? ヤッておしまい。あとは棄てられるだけ」
「ひ……、人によるかと」
「まぁそうだけど、僕もαに捨てられたΩから生まれたからさ」
「えっ」
「伏見さんに施設から拾って貰って医者にまでしてもらったんだ」
須賀に対しての態度が冷たいというか、見方によっては失礼なのはその生い立ちからなのだろうか。……にしても失礼だとは思うけど、俺も似たような偏見があるし人のことは言えないか。
Ωの児童養護施設……、この先生は俺のことは聞いていないみたいだ、そのことにホッとしつつ、俺もそういう理由で棄てられた可能性はあると頭に過ぎる。
「伏見さんが気にかけてとても心配していたよ」
思い出したかのように先生がそう言った。伏見さんは二度も助けられた俺にとっても恩人だ。俺も改めて会いたい。
「会ってく?」
「えっ?」
「今頃終わったくらいかな、……今日は定期検診に来てるから。あ、ごめん、電話だ」
デスクの内線が鳴った。
「じゃぁ、俺行きます、ありがとうございました」
電話の邪魔にならないよう小声で伝えて椅子から立ち上がったとき、呼び止められた。
「君のαが迎えに来ているってよ」
そう告げられて俺は固まった。何故か急に恥ずかしくなる。確かにクリニックに向かうときにちょうど連絡があってクリニックに向かうと言ったけど……仕事はどうしたのだろう。
待合室に出ると目の前のソファには居なかった。あたりを見回してみると奥の大きな窓のそばで須賀は腕を組み行ったり来たりを繰り返していた。
「上位αも、自分のΩのこととなるとあぁなるんだ? あいつにも血が通ってるってことか」
俺の後ろから出てきたΩ医者が、憎らしげに須賀を見ていた。
「君には優しいの?」
「はい!」
「そう……」
俺の肩をポンと叩いて俺を追い抜いてナースステーションへ向かっていく。俺はうろうろする須賀をその場で見つめた。昨夜、キスしたことが蘇る。
焦げた臭いがして須賀が慌てて火を消しに行って中断してしまった。小鍋の中でソースが焦げついて須賀はがっかりしてた。そんな彼を見てふっと力が抜けて、俺は緊張しまくってたんだなって気がついた。須賀が振り返って苦笑いを見せたから、俺は慌てて主張してる下半身を両足で挟んで誤魔化したんだ。
あのままだったら、俺は須賀と続きが出来たんだろうか。須賀が俺に優しくて、その先を躊躇っているのがすごく伝わってくる。
──俺は……
その時、胃ではない下腹部がシクシクと痛むのを認識できた。そうだ、これまでの痛みは子宮だったんだ。
俺の中のΩが須賀を求めてるんだとしたら。
須賀に近寄っていくと俺に気づいて腕を解くとそのまま俺の肩に置いた。須賀は俺から何か言われると思って見つめて待ってる。心配そうに瞳が揺れたのを見て、胸がぎゅっと締め付けられて、またお腹が痛くなった。俺の子宮が、きゅうっと何かを求めてる。
「深刻なのか? 何か見つかったのか?」
「心配するようなことはありませんでした」
「そうなのか? もう痛くないのか?」
「はい、原因も分かったので」
「……」
本当はもっと聞きたい気持ちがあるだろうにそれを飲み込んだのが分かった。そして、さっき医師が去っていた方を睨んでチッと小さく舌打ちをした。
「須賀さんてば、いけません」
「……」
──あぁ、かわいいな。
素直な須賀さんはこんな子どもっぽいんだ。
「あの、伏見さんが今日ここにいらしてるようです、ご挨拶に行ってもいいですか?」
「クリニックに来ているなら何か患っているのかもしれない、今日は遠慮しよう」
「定期検診だと言ってましたが……、そうですね、話しかけて失礼になることもあるかもしれない」
「定期検診か、なら私はαだからこの外来以外は侵入禁止なんだ、君だけ行ってくるといい」
「え……っ」
αはクリニックに入ると抑制剤を飲まされる。今日も例外なく飲んだはずだ。それでもαが入れないところがΩ専門クリニックにはある……。それだけ危険性があるということ。
「ここで待っているから」
「はい。すぐ戻りますね」
挨拶だけしてすぐ帰ってこよう。俺は人間ドック、健康診断とかかれている案内を頼りに進んだ。
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