恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

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恋人

第五十八話

 クラブの薄暗い廊下で目があったあの夜。お互い訳も分からす理性を投げ出し本能をむき出して抱き合った。

 でも今夜は愛おしい人の瞳を見つめることができる。

 俺の中のΩがαを欲してる。

 でも、そうじゃない、俺が須賀を好きだから。
 だから欲しいんだ。


 須賀は俺を抱き上げて寝室に入ると、ベッドに腰掛け俺を膝に乗せる。いつも見上げていた須賀を今は少しだけ見下ろしている。キスを繰り返しながら須賀の温かな手がシャツの裾から入り込みたくし上げられ頭から抜けた。上半身が顕にされると須賀は少しの間俺の身体を眺めた。

「雪、きれいだ」

 そうして俺の胸に手のひらをくっつけて呟いた。

 胸に出来ていた傷は跡形もなく消えた。滝さんが辛抱強く見守ってくれたお陰だ。掻きむしる衝動に駆られると滝さんの手が俺を止めて抱き締めてくれた。そして薬膳の入った風呂にも入れてくれたんだ。



 きっと須賀は知ってる。この胸にあった傷を。

 あの雨の日、俺はうっすらながら須賀に介抱してもらったという記憶がある。瞼が重いし、なにより何も見たくなかった、現実から遠ざかりたくて意識も手放す寸前だった。たぶん、生きていたくなかったんだと思う。
 そんな中で、微かに須賀の香りや手の温もりを優しさを感じた。滝さんの少し骨ばったカサついた手触りもあったんだ。

 どこか遠い意識の中で須賀に髪を撫でてもらったり頬に触れてもらっている感覚がある。そんな時、その部分からキラキラと魔法が溶けていくような、なんともお姫様の映画の演出のような感覚になった。

 あぁ、夢を見ているんだ。俺は自身がお姫様なのかもドレスを着ているのかも分からない。しかし王子様に会いたい、真っ白な城の長い石の階段を駆け上がっていた。王子様とダンスを踊るんだ。そう強く思ってた。

 上まで駆け上がるとそこでは舞踏会が行われていて、来客の中に須賀の姿を見つけて俺は駆け寄るんだ。須賀も俺に気がついて両手を広げて待ち受けている。なのに、大勢の人の波に押されなかなか彼にたどり着かない。

 突然その場が暗転し俺は独りぼっちになってしまった。須賀に会えない、あの腕に抱いてもらえないのだと失意のどん底に落とされる。
 すると自身の身体がふわりと宙に浮いた感覚になり、光が放たれ俺は目を覚ますんだ。王子様の格好をした須賀が俺を抱きとめて微笑んでいた。

 重い瞼を開くと、滝さんがそばに居てくれていた。俺に気がつくと俺の顔を覗き込んで信じられないというような顔をして、すぐに破顔させ目に涙を浮かべると部屋を飛び出して行った。須賀に知らせに行ったんだろうか。

 ぼんやり見上げるとその天井は、あの忌々しい実家の部屋でもなく、古いアパートのものでもなく、年代を感じる飴色の天井板だった。帰ってこれた、そう思った。

 そして、少し窶れた顔をした須賀が言った愛してるという言葉。




 あのときも泣いてた。

 いま俺の腕の中にいる須賀の目尻も少し赤くなっている。

「須賀さん」
「ん……?」

 俺の身体に視線を残したまま須賀は返事をした。須賀の手のひらは俺の肌を撫でて上へと向かってくる。そうしてうっとりとしながら須賀の視線はその手を追うように俺を見上げた。

「須賀さん、愛してます」

 一瞬驚いた顔を見せて、それからみるみる眉は下がり僅かに微笑んで俺を見つめるだけでなにも言わない。

「俺だけのものになってください……」

 そう続けて須賀の瞳の奥を覗くと須賀は頬を少し染めてはにかんだ笑みを浮かべたんだ。

「もう、すでに完全に君だけのものだよ」

 鼻先がくっつくほどそばに来て須賀を見つめてキスをした。須賀はちゃんと受け止めてすぐに俺をリードしてくれた。キスの合間に須賀のワイシャツのボタンに手をかけて上からひとつ外すと、須賀の片眉がピクリと上がる。

 もうひとつひとつ……と、ボタンを外していきついに全て外すと、その中に手を忍ばせて外側へ広げる。すると柔らかく盛り上がる胸筋が顕になる。呼吸に合わせてそれが大きく膨らむ。
 背中を丸め顔を近づけてその盛り上がりに口付けると須賀が俺の髪を撫でてくれた。

 須賀のαフェロモンが増幅して脳内に快感が広がると思わず舌を這わしていた。須賀の肌を味わうように鎖骨まで舐めあげると須賀が吐息混じりに天井を仰いだ。

「あぁ…………」

 須賀の低い声が俺の鼓膜を擽る。

「須賀さん」

 須賀の喉仏を舌が通過するとピクリと身体が弾けるのが分かった。そしてそのまま喉……顎と舌を這わせ唇に到達すると、須賀がうっすら目を開いて私を待ち受けていて、次は俺の口内を犯した。

 発情期になっていない理性があるうちに須賀と愛し合いたい。

 俺も、須賀を愛したい。覚えていたい。

「須賀さ……っ」

 唇が擦れ腫れてしまいそうに吸われる。下唇を甘噛みされつい口を開くと噛みつかれるかと思うくらいに須賀に覆われて舌を吸い上げられた。

「ん……っ……ふぁ……っ」

 須賀に溺れている。

 そんな感覚も俺を一気に高みへと昇らせていくんだ。


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