恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

文字の大きさ
61 / 98
恋人

第六十一話

 すっかり私の胸に頭を預けて眠っていた雪を、後ろ髪を引かれる思いで出勤した。執務室で資料に目を通してはいるが、心はベッドに置いてきてしまっている。

 ──雪の安心しきったような寝顔、天使だったなぁ……。

「…………ですが」
「……うん」
「よろしいのですか?」
「……うん」
「社長?」
「……うん」
「社長!」

 ビクッとした。なにか悪い空気が漂ったのが分かって、私のデスクの前に立っている佐伯を見上げる。佐伯は生返事をされて怪訝そうに私を見ている。しばらく沈黙して手に持っていたタブレット端末のスイッチを切った。

「なにか心配事がおありですか?」
「いや?」

 すかさず答えた。昨夜の雪を見てもう家に帰りたくて仕方がないだなんて知られてたまるか。

「長谷川様のことをお考えになっておられたのは承知しておりますが」
「考えていない」
「……」
「なんだ」

 目を薄くして微笑を浮かべてからタブレットに視線を戻した。

「……では、報告を続けます。今朝外務省から緊急のアポイントがありました。今日午後に差し込みました」
「随分と焦っているようだな」
「今朝のニュースのことでしょうか」
「おそらくな」

 政府が持っているN○T株を売却することにして、それを防衛費にすると伝えていたニュース。持ち株は五兆円にもなる。

「どこかの国に一兆円も戦争資金提供しているというのにな」


 αで成り立つこの世界。アングロサクソンのαたちはファイブアイズを立ち上げ世界の機密情報を共有したり、諜報活動をしている。
 日本もその中に加盟するかもしれないという話が耳に入っているが、極東の小さな島国くらいにしか思われていない日本は、アジア人のくせに先進国だからと駒にされるオチしか待っていない。開戦を仕向けられて五兆円を溶かすつもりか。

「まぁ、それが役目なんだがな……。もう日本の通信網は終わるか」
「役目……とは」
「私が台湾と手を組んだらはどう出るんだろうな」
「考えたくもないです」
「面白いとは思わないか?」
「戦争を始めるおつもりですか?」
「……どのみち、日本は終わったも同然だ」

 日本の水脈の次は通信網、王手がかかってしまった。

「恐ろしいことをお考えになりませんよう……」

 ──そうだな、自滅だ。

「来週の出張は予定通り──」
「ちょっと待て、出張は来週だったか?」
「はい。エバンス公爵との会食がございます」

 それは、変更は不可ということだ……。





 会食を終えて執務室に戻りスマホを取り出した。電話の相手はもちろん愛おしい人。呼び出し音が鳴り、私は窓から見える街を見下ろしていた。間もなくして向こうの世界と繋がる。

『もしもし? 須賀さん?』
「ちゃんと起きれたか?」

 この一言だけでも昨夜の雪を思い出して胸が切なくなってしまう。さらには、「ギリギリでした……」と恥ずかしそうに笑う声が私の鼓膜を震わせるといても立ってもいられなくなる。

『なんで起こしてくれなかったんですか?』

 小さく周囲を気にした小さな声で雪に責められ愛おしさがこみ上げる。声をかけてもキスをしてもビクともしなかったとは言いにくかった。その原因は私だから。

「滝が起こしたろう?」
『そうですけど……。そうじゃなくて……』
「無理に起こしたくなかった」
『……そうなんですけど』
「わかった、次は起こすよ」
『はい!』

 ホッとしたような声が返ってきて今夜も会いたくなる。しかし出張前にやらなければならないことも増えて帰宅は深夜になるだろう。明日だっておんなじだ。来週からの出張、耐えられるのだろうか。

『須賀さん……?』

 心配そうな雪の声の後ろで学校のチャイムが聞こえてくる。

「もう授業かな」
『え……っ……はい、そう、ですね。……切らないと』
「あぁ」
『午後も仕事頑張ってくださいね』
「雪もな」
『はい!』

 雪が電話を切るのを確認してスマホを耳から離すと後ろに気配を感じて慌てて振り向く。



感想 1

あなたにおすすめの小説

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。