恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

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休息

第六十五話

 俺はめちゃくちゃ緊張している。

 撮影の日程は、俺の大学の休みを利用してGWに決まった。ハイシーズンのGWの沖縄。予算が倍に跳ね上がることはこの俺でも分かる。須賀との会話でそれを心配したら、須賀は自身のプライベートジェットを出すと申し出た。さらに滞在先のホテルも撮影予定の場所から遠くない位置にあるところを抑えてくれたのだった。

 波野さんは自分が沖縄と決めたことだしお金を出してもらうことに最初躊躇っていたそうだが、須賀の会社からスポンサーとしてこのプロジェクトを応援するという形を取り、波野さんも納得したようだった。

 何より須賀も同行するということにみんなが驚いた。


 当日、波野さんのスタッフや外部のカメラマンなど含めて十名ほど、空港に着くなりすぐにそのままバスで連れて行かれる。

「チェックインカウンター並ばなくていいのは助かる……っていうか、優越感?!」
「わかるーー! 特別感あるよね!」

 そんな声が聞こえてきて、俺は人生初の飛行機に緊張を隠せない。

「長谷川くん、大丈夫? 顔色悪いけど……」
「あ……、飛行機、初めてで」
「そうなんだ? 私も初めてのとき緊張したわ」
「そ、そうなんですね……」

 飛行機の事故は宝くじより確率が低いとか、宝くじ当たったことないとか、買わなきゃ当たらないだろうとか、スタッフさんたちはワイワイしているが、俺はもう吐き気さえしてきそうだった。

 ──昨夜眠れなかったのも原因かも……。

 ペットボトルの水を一口飲んで溜息まじりにバスの窓から空を見た。



 須賀は会社から直接来ると言っていたが、まだ来ていないようだ。間もなくしてバスが到着して外に出ると大きなジェット機が目の前にあった。

「ハリウッドスターみたい……」
「それより凄いのよ、須賀社長は」

 波野さんが言うと他のスタッフたちが「へぇ……」と口をポカンとして見上げている。

 飛行場の人たちが荷物を預かってくれて俺達はタラップを上がり飛行機の中へ。

 ベージュ一色で統一されたまるで高級ホテルのような内装だった。ひとつひとつ席も大きく感覚も広く置かれていて、CMやドラマで知る旅客機の内装とは本当に違う作りをしていた。

「皆様はこちらより後ろをご利用ください」

 その丁寧な話し方に思わず振り返るとやはり佐伯さんがいた。

「佐伯さん!」
「こんにちは」

 にこりと笑ってくれた佐伯さんを見てホッとして突っ立っている俺に「長谷川様はこちらに」とすぐにみんなとは反対側へと連れて行く。

「社長は間もなく参りますよ」
「えっ、須賀さんが?」

 俺はそれを聞いてキョロキョロさせる。それを見て佐伯さんが微笑して俺の席だというところへ案内してくれた。ジェット機の先端方面は、壁から天井が少し丸みを帯びていて飛行機なんだなと感じさせる形をしていた。

 窓側に座ると小さな窓から一台の黒いセダン車が去っていくのがチラリと見え、なんとなくそれに須賀が乗っていたのかもと思い、思わず飛行機の入り口を見つめるとやはり須賀が入ってきた。

 後ろを見ておそらく波野さんに会釈すると、真っ直ぐに俺の方へやってきた。スーツの上着を脱いでそれを佐伯さんが受け取ると俺の隣に座った。

「雪、緊張しているのか?」

 飛行機が初めてなのはこの前話をした。須賀は片眉を上げて俺を観察している。

「少し顔色が悪いな」

 頬を撫でられて思わず擽ったくて一瞬目を瞑ると須賀の顔が近づいて先がくっつく程度のキスをした。

「私がいるから大丈夫だろう?」

 いたずらっぽく笑った顔が憎らしくて広い胸を押すがびくともしない。

「……落ちないか心配なんです」
「落ちたら一緒に死ねるな、それこそ本望だよ」

 須賀が揶揄うように笑って俺の顎を指が掠めていく。






 離陸してからベルトサインが消えると須賀のところへ佐伯さんがやってくる。離陸時にガタガタと揺れだした時に繋いでくれた手が離されて、手渡された資料のようなものを受け取ると手早く目を通してはそれを佐伯さんに返していた。

 目の前にある簡易的なテーブルもすぐに書類の山になる。

「やはり、ここは狭いな。雪、悪いがいつもの席へ行く」

 いつもの席があるならそのほうが仕事が捗るのは当たり前のこと。隣に居なくなるのは寂しいけれどどこかへ行ってしまう訳でもないし。まだ怖いだなんて、みっともなくて言えそうにない。

「あ、はい。大丈夫ですよ」
「雪も一緒だよ」
「へ……?」
「佐伯、あっちへ行く」
「承知しました」

 俺の手を握ると須賀が立ち上がり引っ張られた。飛行機の後ろへ向かうらしい。波野さんたちがいる通路を大股で歩いていく須賀と、それに付いていく俺をみんなが見ている。

 大きな背中の向こうにひとつ扉が見えて、そこを須賀が開ける。

「ここならゆっくり出来る」
「え……?」

 そこは俺の借りてるアパートくらいの部屋になってて、執務室みたいな大きなデスクとその隣には窓側にさっき座っていたような座席と、ベッドが誂えてあった。佐伯さんもやってきてデスクに手早く書類を置くと一礼して出ていった。

「……さてと」

 須賀がデスクに近寄り広げられた書類を見下ろし目についたものを手に取りながら、少しその文字に集中したりしている。

 仕事を始めるんだと理解して俺は窓側の座席に座ろうと歩みを進めた。

「もう誰も来ない、寝ていてもいいぞ」
「う、うん」
「どうした?」
「いえっ」
「それとも……」

 須賀がデスクの椅子に座るとこちらに正面を向けた。そして自身の膝をトントンと叩いて招いた。

「ここへ、来るか?」




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