70 / 98
休息
第七十話
「雪……、それをどうする気だ? ん?」
「ほしい……」
目がとろんとしていつもの雪ではないように見える。本当に素直にΩの欲情を私に見せてくる。
「嬉しいことを言ってくれるな……、雪……愛してるよ。だが、ボディーソープが混じってるものは雪の口に入れさせたくないな」
そうさせてしまったのは私なのか、そう自惚れた気持ちを抱きながら身体と共に手もシャワーで洗い流した。
「あ……っ」
雪は洗い流されるそれをまるで勿体無いかのように呟いて、上目遣いに私を見る。
「なんで、俺には飲ませてくれないんです……」
雪は怒っているのか、その薬がないと生きられないとでも言うようなすがり方に困惑した。私も雪の味は蜜のようで中毒になりそうなほど高まる。……だが、雪にもそれが当てはまるとは限らない。決して美味いものではない。
瞳を潤ませて私を睨むのが精一杯のようで、やがて私の胸に頬を寄せてきた。
「須賀さん……いじわる……っ」
「ははっ、かわいい……、今夜は積極的だ」
顔を横に振るだけで雪の体重が少し重くなる。
「……雪……、?」
頬を掴みこちらに向かせると雪の顔は赤く目は虚ろ。逆上せているのだろうか。手早く泡を流し、新たなバスローブを掛けると抱き上げバルコニーへと連れ出した。
ウッドチェアに腰掛け雪を膝の上に抱く。雪は胸にしなだれかかっている。
──味見だと言ったくせに、雪が逆上せていることにも気が付かないとは……。
「雪……すまなかった」
額にキスをすると少し冷たい。夜風に少し冷やされたようだ。そのまままた立ち上がり今度はベッドへ優しくおろす。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しベッドへ戻ると、雪は寝転がっていて起き上がれそうになかった。
「雪、口を開けて」
もう意識は半分ない、今にも眠りそうな雪の小さな唇にそれを口移しで与えるとゴクリと喉が鳴った。そして雪はごろんとひとつ寝返り背中を向ける。
バスローブの隙間から覗く白い脚を手のひらで撫でると、わずかにぴくりと震えた。
──私のものを飲みたいなどと……。随分と煽られてしまったな。
キスにも私からの愛撫にも慣れてきたのは喜ばしいことだが、辿々しさにも愛おしさがたくさんあることを雪は知らないんだろう。
雪のペースで私を乱してくれればそれで十分なのに。
美しく開花する雪を見るにつけ、最近私を戸惑わせるのだ。
雪の寝顔を見届けて書斎机で途中の仕事を広げる。すると部屋のインターホンが鳴った。佐伯かと扉を開けると波野が立っていた。
「お疲れ様です、あの、長谷川くんは?」
「お疲れ様、さっき寝たところだよ」
「みんなとの夕食にやってこないから電話したんですが応答が無くって……」
「疲れさせてしまったようで」
「え? あ、すいません!」
「いや、私のせいだよ、入ってくれ」
「……はい。じゃあ少しだけ」
少し戸惑いながらも促すと波野は部屋に入ってきた。家具で仕切られたベッドルームに雪がいることをチラリと確認してソファに座る。
「今日の撮影で岬の方へ行ったんですよ、強い風に当たりすぎて疲れたのかもしれませんね……それに初日でしたし緊張もあったかと」
「雪が話してくれましたよ」
思わず思い出し笑いをした私に波野は意外だという視線を向けてきた。
「変わったのは長谷川くんだけじゃなかった」
私より一回り年上の波野が、ふと笑った。
「長谷川くん、モデルとしてこれからも活躍できると思います」
「本人は生活費を稼ぐためのものくらいにしか思ってないようだがな」
「生活費?」
「雪は親からはとっくに独立している。私の庇護下に置かれることも好まない」
「……」
「しかし君のことはとても信頼していて、仕事を請け負いたいと思ったそうだ」
「……、確かにギャラは要らないと言われたのを思い出しました」
「はは、この間の仕事だって雪はまだ受け取っていないんだよ」
「ええ? じゃぁ生活費のためっていうのに、どうやって生活しているのかしら」
「自分の身体は二の次にしてしまうからな、大切にできないのだろう……」
ベッドルームのある方へ視線を向けた。
「服を買ってやっても受け取ろうとしない、アパートではセキュリティが不安だからうちに来いと言っても断られた、雪は一筋縄ではいかない」
それは分かっている。自己肯定感の低い雪には受け取れないのだ。
「須賀社長、長谷川くんが了承してくれるかは別として彼にはこの仕事をしてもらいたいんです。彼のためにも」
「というと?」
波野の方を向くと波野は言葉を選びながら話を続けた。
「長谷川くんは自分には価値がないような目をする時があるんです。もちろん新人は自信がないのは当たり前ですが、長谷川くんの良い所も全て否定しているような感じがして」
「雪の良き理解者が出来て嬉しいよ」
「え?」
「私からもお願いしたい。なるべく彼に外の世界を見せてやってほしい」
その時ベッドルームから僅かに音がした。雪が寝返りを打ったらしい。
「また、明日頼むよ」
私はそれだけ言うとベッドルームに向かった。ベッドに腰掛け雪のおでこに手を当てる。熱はこもっていないようだ。
「うーん……、須賀さ……」
眉を寄せる雪のおでこにキスを落として眠りへと誘う。
「あぁ、ここにいるよ」
リビングからは、もう人の気配は無かった。波野は部屋を出たようだ。
雪はこれからいろんな人と出会い、仕事をして社会と関わっていく。私以外の人間にもいつか心を開くだろう。
雪はまだ若い。
私の独占欲は雪の邪魔になるだろう。
ついこの間までは、自分だけのΩにしたくて、自分だけが雪の唯一でありたいと願っていたのいうのに。
芽生え始めるまた新たな想いに、自身も戸惑うばかりだった。
「ほしい……」
目がとろんとしていつもの雪ではないように見える。本当に素直にΩの欲情を私に見せてくる。
「嬉しいことを言ってくれるな……、雪……愛してるよ。だが、ボディーソープが混じってるものは雪の口に入れさせたくないな」
そうさせてしまったのは私なのか、そう自惚れた気持ちを抱きながら身体と共に手もシャワーで洗い流した。
「あ……っ」
雪は洗い流されるそれをまるで勿体無いかのように呟いて、上目遣いに私を見る。
「なんで、俺には飲ませてくれないんです……」
雪は怒っているのか、その薬がないと生きられないとでも言うようなすがり方に困惑した。私も雪の味は蜜のようで中毒になりそうなほど高まる。……だが、雪にもそれが当てはまるとは限らない。決して美味いものではない。
瞳を潤ませて私を睨むのが精一杯のようで、やがて私の胸に頬を寄せてきた。
「須賀さん……いじわる……っ」
「ははっ、かわいい……、今夜は積極的だ」
顔を横に振るだけで雪の体重が少し重くなる。
「……雪……、?」
頬を掴みこちらに向かせると雪の顔は赤く目は虚ろ。逆上せているのだろうか。手早く泡を流し、新たなバスローブを掛けると抱き上げバルコニーへと連れ出した。
ウッドチェアに腰掛け雪を膝の上に抱く。雪は胸にしなだれかかっている。
──味見だと言ったくせに、雪が逆上せていることにも気が付かないとは……。
「雪……すまなかった」
額にキスをすると少し冷たい。夜風に少し冷やされたようだ。そのまままた立ち上がり今度はベッドへ優しくおろす。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しベッドへ戻ると、雪は寝転がっていて起き上がれそうになかった。
「雪、口を開けて」
もう意識は半分ない、今にも眠りそうな雪の小さな唇にそれを口移しで与えるとゴクリと喉が鳴った。そして雪はごろんとひとつ寝返り背中を向ける。
バスローブの隙間から覗く白い脚を手のひらで撫でると、わずかにぴくりと震えた。
──私のものを飲みたいなどと……。随分と煽られてしまったな。
キスにも私からの愛撫にも慣れてきたのは喜ばしいことだが、辿々しさにも愛おしさがたくさんあることを雪は知らないんだろう。
雪のペースで私を乱してくれればそれで十分なのに。
美しく開花する雪を見るにつけ、最近私を戸惑わせるのだ。
雪の寝顔を見届けて書斎机で途中の仕事を広げる。すると部屋のインターホンが鳴った。佐伯かと扉を開けると波野が立っていた。
「お疲れ様です、あの、長谷川くんは?」
「お疲れ様、さっき寝たところだよ」
「みんなとの夕食にやってこないから電話したんですが応答が無くって……」
「疲れさせてしまったようで」
「え? あ、すいません!」
「いや、私のせいだよ、入ってくれ」
「……はい。じゃあ少しだけ」
少し戸惑いながらも促すと波野は部屋に入ってきた。家具で仕切られたベッドルームに雪がいることをチラリと確認してソファに座る。
「今日の撮影で岬の方へ行ったんですよ、強い風に当たりすぎて疲れたのかもしれませんね……それに初日でしたし緊張もあったかと」
「雪が話してくれましたよ」
思わず思い出し笑いをした私に波野は意外だという視線を向けてきた。
「変わったのは長谷川くんだけじゃなかった」
私より一回り年上の波野が、ふと笑った。
「長谷川くん、モデルとしてこれからも活躍できると思います」
「本人は生活費を稼ぐためのものくらいにしか思ってないようだがな」
「生活費?」
「雪は親からはとっくに独立している。私の庇護下に置かれることも好まない」
「……」
「しかし君のことはとても信頼していて、仕事を請け負いたいと思ったそうだ」
「……、確かにギャラは要らないと言われたのを思い出しました」
「はは、この間の仕事だって雪はまだ受け取っていないんだよ」
「ええ? じゃぁ生活費のためっていうのに、どうやって生活しているのかしら」
「自分の身体は二の次にしてしまうからな、大切にできないのだろう……」
ベッドルームのある方へ視線を向けた。
「服を買ってやっても受け取ろうとしない、アパートではセキュリティが不安だからうちに来いと言っても断られた、雪は一筋縄ではいかない」
それは分かっている。自己肯定感の低い雪には受け取れないのだ。
「須賀社長、長谷川くんが了承してくれるかは別として彼にはこの仕事をしてもらいたいんです。彼のためにも」
「というと?」
波野の方を向くと波野は言葉を選びながら話を続けた。
「長谷川くんは自分には価値がないような目をする時があるんです。もちろん新人は自信がないのは当たり前ですが、長谷川くんの良い所も全て否定しているような感じがして」
「雪の良き理解者が出来て嬉しいよ」
「え?」
「私からもお願いしたい。なるべく彼に外の世界を見せてやってほしい」
その時ベッドルームから僅かに音がした。雪が寝返りを打ったらしい。
「また、明日頼むよ」
私はそれだけ言うとベッドルームに向かった。ベッドに腰掛け雪のおでこに手を当てる。熱はこもっていないようだ。
「うーん……、須賀さ……」
眉を寄せる雪のおでこにキスを落として眠りへと誘う。
「あぁ、ここにいるよ」
リビングからは、もう人の気配は無かった。波野は部屋を出たようだ。
雪はこれからいろんな人と出会い、仕事をして社会と関わっていく。私以外の人間にもいつか心を開くだろう。
雪はまだ若い。
私の独占欲は雪の邪魔になるだろう。
ついこの間までは、自分だけのΩにしたくて、自分だけが雪の唯一でありたいと願っていたのいうのに。
芽生え始めるまた新たな想いに、自身も戸惑うばかりだった。
あなたにおすすめの小説
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。