恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

Gemini

文字の大きさ
71 / 98
休息

第七十一話

「波野さん、昨夜はすいませんでした!」

 ロケ先へ出発するためホテルの玄関で集まってるスタッフの中に波野さんを見かけて雪は駆け寄った。

「いいの! いいの! 初日は疲れるものよ、みんなも昨夜は早めに切り上げたのよ、だから気にしないで」

 今朝起きてスマホを確認したら波野さんからの着信履歴があって、そこで夕食をすっぽかしたことを思い出したのだった。

「部屋に様子を見に行ったら須賀社長が甲斐甲斐しくお世話してたわよ? うふ」
「えぇーーっ」

 昨日のバスルームでの事を思い出すと顔から火が出そうに熱くなる。体が熱くなってボーッとしてきてからはあまり記憶がないのだけど、須賀と気持ちいいことをしたのはちゃんと覚えている。

 今朝も起きたらもう須賀は居なかった。だから夢だったのかなと思えてくるのだが、波野さんにそう言われて現実だったのだと思うしかない。


「今日もがんばろ! もしかすると今日で全て撮り終えることができるかもしれないの、モデルが良いとスムーズだわ」

 波野さんはいたずらっぽい笑顔を寄越した。そして車に乗り込み出発する。

 昨日の余韻か疲れか、身体はだるい。車窓に視線を送ると今日も清々しいほどの青空で。暑い一日が始まる。





 お昼の休憩時間に車に戻りスマホを見ると須賀からの着信履歴があった。とりあえず折り返してみると、すぐに須賀が出た。もう近くまで来てるからそのまま待ってろ、とのこと。

 しばらくすると一台の車がやってきた。サングラスを掛けた須賀が颯爽と出てくる。気がついたスタッフたちも須賀の姿に目が釘付け。

 ──やっぱり見惚れてしまうよなぁ……。

 須賀の周りにスタッフたちが集まりだすと須賀がサングラスを外してスマイルを作る。『須賀社長』としての営業スマイルだ。

「近くのレストランを予約した、そこで皆で食べよう」
「わあ! うれしいーーっ!」
「ありがとうございます! 社長!」

 ガッツポーズまでしてる人も居る。

 ──須賀さんて近寄りがたいはずなのに、結構慕われてるっていうか、心を掴んでるっていうか……。

 近寄りがたいと思っていたのは自分だけなのか、と雪はみんなを少し後ろから見ていた。




「雪も行こう」

 須賀に手を取られ、須賀の乗ってきた車まで手をつなぐ。

 ──え? 俺だけ須賀さんの車でいいのか?

 みんなを振り返るとニヤニヤしてる視線とぶつかる。皆で乗る車の前でみんなが俺と須賀さんを見ていたのだった。

 ──もう! 変な想像しないでよ!

 少し睨んでみせるとみんなが大笑いした。波野さんもこちらを見ていて「いいのよ」と言わんばかりに頷いていた。まるで母親が子供に促すような優しい目だった。

 みんなから目をそらし握られた手を意識すると、少しの恥ずかしさを覚える。

 ──今まで手を繋いであるいたことあったかな……。




 車に乗り須賀に頬を撫でられて、ドクッと鼓動が跳ねる。

「雪。体調はどうだ?」

 このとき自分でもさすがに違和感を覚えた。下腹部の疼きと共に後ろがぎゅっとしたんだ。中の内臓がうねるような。

 訳が分からないはずなのに、須賀を求めてるんだってことは直感できた。これがΩだということなのだろうか。

「はい、大丈夫です! 今日はジメっとしてなくてカラッとしてるので気持ちが良いですね」

 そう誤魔化した。赤くなる頬を隠したくっても前髪が上げられていていつも隠してる顔が全て顕になっている。隠しようがない。仕方なく俯いて話を続けた。

「大丈夫そうじゃないぞ、昨日無理させたからだな、すまん……」

 ──へ……?

 須賀に謝られて思わず顔をあげると、心配そうに俺の顔を見ていてた。目が合えばまたかぁっと耳まで赤くなる。それに気がついて眉をハの字にして「ぷっ」と須賀が笑った。

「雪は、本当に愛らしいな」

 顔を覆ってしまいたいが、メイクが崩れてはいけない。唇を噛んでこの雰囲気に堪えた。

「あぁ、駄目だよ、噛んではいけない」

 顎を持たれ、そして唇に親指が触れる。

「波野は本当に雪の美しさを引き出すのがうまいな。キスしたくて堪らなくなるよ」
「須賀さ……ん」
「昨夜の雪も好きだが、こうやって恥ずかしそうに視線を逸らされるのもグッとくるよ」

 ──昨夜の俺??

「……、やっぱり駄目だ」

 そう言って前が少し暗くなる。須賀のビターなフェロモンが近づいて唇がくっついた。

 上唇をゆっくりと喰まれると名残惜しいように、何度も軽いキスが続いてようやく離れると、みんなが待ってるから行こうかと須賀が笑った。

 ──レストランまでに落ち着かせないと!

 雪が手で仰ぎながら深呼吸しているのを横目に見て須賀は嬉しそうにしていた。






感想 1

あなたにおすすめの小説

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。