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初めての旅行
第七十四話
「雪、帰ったよ」
借りていたホテルの会議室から部屋へ戻ると雪の姿はなかった。ベッドを覗くが姿はなく、バスルームをコンコンとノックするも返答はない。
撮影は終わったはずだが……と考えていると玄関ドアが開く音がした。振り向くと雪が私に気がついて笑顔を寄越した。
「須賀さん! 早かったですね」
部屋に入ってくる雪に腕を伸ばすと、自然と雪は私の腕の中に収まった。ここに滞在してからの嬉しい誤算だ。やはり寝食を共にするというのはそれだけ距離が密接してくる。本人は気づいていないようだが、私に触られることにもだいぶ慣れてきた。
「雪を待たせたくなくてね。雪はどこかへ行っていたのか? 買い物かな?」
「佐伯さんを見送りに」
腕の中で私を見上げながら言った。
「佐伯を? 何故」
「ちょっとお願いごとをしたもので」
「願いごと? 私では叶えられないことか?」
「大げさですよ、些細なことです。それよりお昼にしませんか? 須賀さんもお腹空いてますか?」
「あ、あぁ」
雪は何でもないような顔をしている、後ろめたい事をするわけはないと分かってはいても気になる。しかし、本当に些細なことであれば余計追求するには格好が悪い。
──あとで佐伯に口を割らせればいいか。
「ルームサービスを頼もう、雪も疲れたろう?」
「俺は大丈夫です、それより須賀さんのほうが……」
私の腕を解いて、ソファに連れて行かれた。
「ルームサービスにしたら、仕事をしながらになりませんか?」
「んー?」
「須賀さんて、ずーっと仕事のこと考えていますよね」
「ちゃんと雪のことも一日中考えているぞ?」
「もう……、そうではなくて! 少しはリラックスする時間を取らないと体調崩しますよ」
眉を下げて、半ばお願いされているように感じる。そんな雪を抱き寄せた。
睡眠時間などなくとも平気でいられるのがαだ。元の気質もあるだろうが私にとっては睡眠時間は記憶の定着のためくらいにしか思わない。睡眠不足だという概念がないのだ。
「雪は私を心配してくれているのだな」
「……当たり前です」
雪のため息が肩口にかかった。思わず愛おしさがこみ上げ抱きしめる腕に力がこもる。さっき佐伯になにをお願いしたのか追求しなくてよかったと心から思った。
雪はそれに応えるかのように私の背中をゆっくりと撫でてくれた。しばらくそうしてくれると、雪に胸を押され体が少し離れる。
「須賀さんは何を食べたいですか?」
「雪は何がいい?」
「聞いているのは俺です、須賀さんの今食べたいものはなんですか?」
「うーむ……」
悩むふりをしてちらりと雪を見る。雪は私の求める昼食のことをあれこれと考えている。その顔さえも愛おしい。
いっそこのまま眺めていようか。私はソファに凭れ雪の手を握りしばらくそのまま眺めることにした。雪は相変わらず思いめぐらせているようだ。
「サンドイッチとか……? ハンバーガー? ルームサービスにあったかな……、須賀さん! 考えてます?」
「考えているよ」
「……なんで、笑ってるんですか!」
口元に手をやり隠していたつもりだったが口角が上がっていたのが見つかってしまったらしい。
「もう……。俺はサンドイッチにします、須賀さんは?」
「そうだなぁ、まずは……」
私の顔を覗き込んで聞いてくる雪の唇を見つめると、雪は私の答えを黙って待っている。そんな雪の唇にちゅっと吸い付いた。雪は目を開いていたが、何度か啄むと次第に私を受け入れた。
ピンクに染まった頬を両手で包み、至近距離で雪の瞳を覗けば、うっすらと熱を帯びている。小指で首筋を柔くさすれば、その刺激を拾ってか瞼が震える。
──あぁ、このまま押し倒してしまいたい。
三日間、雪と二人だけで過ごせるというのに。まるで思春期の高校生のようだ、と自嘲する。
名残惜しむように雪の柔らかな髪を撫で、自身を落ち着かせるとサイドテーブルにあるホテルの電話を取り内線を繋いだ。
借りていたホテルの会議室から部屋へ戻ると雪の姿はなかった。ベッドを覗くが姿はなく、バスルームをコンコンとノックするも返答はない。
撮影は終わったはずだが……と考えていると玄関ドアが開く音がした。振り向くと雪が私に気がついて笑顔を寄越した。
「須賀さん! 早かったですね」
部屋に入ってくる雪に腕を伸ばすと、自然と雪は私の腕の中に収まった。ここに滞在してからの嬉しい誤算だ。やはり寝食を共にするというのはそれだけ距離が密接してくる。本人は気づいていないようだが、私に触られることにもだいぶ慣れてきた。
「雪を待たせたくなくてね。雪はどこかへ行っていたのか? 買い物かな?」
「佐伯さんを見送りに」
腕の中で私を見上げながら言った。
「佐伯を? 何故」
「ちょっとお願いごとをしたもので」
「願いごと? 私では叶えられないことか?」
「大げさですよ、些細なことです。それよりお昼にしませんか? 須賀さんもお腹空いてますか?」
「あ、あぁ」
雪は何でもないような顔をしている、後ろめたい事をするわけはないと分かってはいても気になる。しかし、本当に些細なことであれば余計追求するには格好が悪い。
──あとで佐伯に口を割らせればいいか。
「ルームサービスを頼もう、雪も疲れたろう?」
「俺は大丈夫です、それより須賀さんのほうが……」
私の腕を解いて、ソファに連れて行かれた。
「ルームサービスにしたら、仕事をしながらになりませんか?」
「んー?」
「須賀さんて、ずーっと仕事のこと考えていますよね」
「ちゃんと雪のことも一日中考えているぞ?」
「もう……、そうではなくて! 少しはリラックスする時間を取らないと体調崩しますよ」
眉を下げて、半ばお願いされているように感じる。そんな雪を抱き寄せた。
睡眠時間などなくとも平気でいられるのがαだ。元の気質もあるだろうが私にとっては睡眠時間は記憶の定着のためくらいにしか思わない。睡眠不足だという概念がないのだ。
「雪は私を心配してくれているのだな」
「……当たり前です」
雪のため息が肩口にかかった。思わず愛おしさがこみ上げ抱きしめる腕に力がこもる。さっき佐伯になにをお願いしたのか追求しなくてよかったと心から思った。
雪はそれに応えるかのように私の背中をゆっくりと撫でてくれた。しばらくそうしてくれると、雪に胸を押され体が少し離れる。
「須賀さんは何を食べたいですか?」
「雪は何がいい?」
「聞いているのは俺です、須賀さんの今食べたいものはなんですか?」
「うーむ……」
悩むふりをしてちらりと雪を見る。雪は私の求める昼食のことをあれこれと考えている。その顔さえも愛おしい。
いっそこのまま眺めていようか。私はソファに凭れ雪の手を握りしばらくそのまま眺めることにした。雪は相変わらず思いめぐらせているようだ。
「サンドイッチとか……? ハンバーガー? ルームサービスにあったかな……、須賀さん! 考えてます?」
「考えているよ」
「……なんで、笑ってるんですか!」
口元に手をやり隠していたつもりだったが口角が上がっていたのが見つかってしまったらしい。
「もう……。俺はサンドイッチにします、須賀さんは?」
「そうだなぁ、まずは……」
私の顔を覗き込んで聞いてくる雪の唇を見つめると、雪は私の答えを黙って待っている。そんな雪の唇にちゅっと吸い付いた。雪は目を開いていたが、何度か啄むと次第に私を受け入れた。
ピンクに染まった頬を両手で包み、至近距離で雪の瞳を覗けば、うっすらと熱を帯びている。小指で首筋を柔くさすれば、その刺激を拾ってか瞼が震える。
──あぁ、このまま押し倒してしまいたい。
三日間、雪と二人だけで過ごせるというのに。まるで思春期の高校生のようだ、と自嘲する。
名残惜しむように雪の柔らかな髪を撫で、自身を落ち着かせるとサイドテーブルにあるホテルの電話を取り内線を繋いだ。
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