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第一章 ブラウンヘアの男
第四話
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───昼休み。
春休みにあった出来事をカケルが頬杖をついて聞いている。
「そんで弁当なわけね」
「…食いたくない」
「お母さんかわいそうだから俺が食べてあげる。巴は俺のを食べなよ。買ってきたパンだけど」
カケルが遠慮なく弁当を開ける。チラリと覗くとそれは唐揚げや卵焼きと色とりどりで、手作りらしく手間がかかっているのがありありと伝わる。いったい何時に起きて作っていたのだろう。……いや、今日は初日だから気合が入っているだけで明日からは作らないかもしれない。
「美味しいよ? また明日も貰ってきてよ僕のために」
カケルを無視して教室の窓の外に目をやる。
「…にしても、春休み中に言ってくれてたら愚痴聞いたし、連れ出してやったのにさ、水臭いじゃん」
頼られてないことにカケルは口を尖らせていた。
カケルはそう言うが僕はそんな気になれなかった。こういう人間関係にも僕は鈍感で、後からこうやって指摘されて、あぁそうかと思ってもその時カケルを思い出さなかったんだから仕方無かったよなと残酷なことを思ったりしてる。
三年にあがってクラスが別れてしまってもこうやって昼には僕のクラスにやってくる奴なのに、結局なんと言っていいのか言葉が見つからなくて黙ってしまう。
なんでカケルはこんなに温度差のある僕と一緒にいるのだろう。
しばらくぼんやり外を見ていると体育館の側で数人がもみ合っているのが見えた。こういう高校でもいわゆる不良というべきか血気盛んな男は一定数いる。
いつもは見向きもしないのだが、見覚えのあるブラウンヘアか見えたような気がしてガタリと椅子から立ち上がると窓から落ちそうなほど身を乗り出しそれを探した。危ないってと、カケルも後ろから覗く。
「あら、弟が暴れてるね」
目を付けられたんだろうか。
「目立つよね、あの容姿は。早速お兄ちゃん呼び出されるかもね」
案の定すぐ呼び出された。
「相手からは君の態度が悪かったと聞いている。まぁ、難癖付けたんだろう。こちらは君の髪色のことも編入前にご両親から伺っている、もう戻りなさい。先生からもお母さんに連絡はする」
職員室、生活指導の先生が胸の前で腕を組んで渋い顔をしている。長政はふてくされていた。
「親には連絡しないでください」
「そんなわけにはいかん」
「もう高校生ですよ? いちいち親に連絡しなくても」
「だがそういう訳にもいかんのだ」
長政と指導の教員との埒が明かない会話に、長政の隣で聞いてる僕はついに言葉を挟んでしまった。
「先生、今日は僕がちゃんと連れて帰ります。親には僕から伝えます。今日は初日ですので、勘弁してもらえないでしょうか。…お前ももう高校生だというなら喧嘩はよせ」
そこへ教頭がやってきた。
「分かった。初日だから目を瞑ろう、相手も同じくお咎め無しになるがそれは分かってくれるか?」
「もちろんです、ありがとうございます」
「では長政くんもそのまま授業を受けなさい、そして真っ直ぐ帰宅すること」
「はい」
長政が言い返そうとするのを制止し僕は教頭に頭を下げた。
放課後カケルと昇降口に降りるとかったるそうに壁に凭れている長政がいた。
「え、真面目?」
普通先に帰るだろとカケルが横で笑った。
「あ! おにーちゃん」
顔一つ分大きい長政にこう言われると本当に腹が立つ。乱暴に靴を履き替え学校を出る。
「ねぇ、弟」
「はい」
「長政くんだっけ、喧嘩負けてなかったね」
「そう、あと少しでヤれたんだけどね」
「こわーっ」
後ろで二人は楽しそうにしている。
カケルはふわふわと掴み所のないやつで、長政はそれに合わせられるようだった。あの生活も嫌ではないようだし順応が早いのだろうか。いや、全ては僕がそれを拒否しているからだな。
わかってる、わかっているんだ……
「おかえりなさい、ふたり一緒? 今夜はカレーですよ」
玄関を開けるとスパイスの良い香りとともにごきげんな声がキッチンから聞こえる。
長政は僕を追い越してさっさと自分の部屋に閉じこもった。僕は弁当箱を差し出す。気まずそうに受け取った継母はそれが軽くなっていることに気がつくと笑顔になった。
「あの、」
「気を遣わせてごめんなさい、ありがとう」
「いいえ……」
ありがとうとは、なんだ。
ごちそうさまでしたとはどうしても言えなかった。
「それより長政はどうしたのかしら、お腹すいてないのかな、いつもなら夕飯の前でもなにか食べるのに」
それより、ね。
「初日で緊張して疲れた…とか?」
「あまり緊張するタイプじゃないんだけど…」
たしかに顔合わせのとき遅刻までした奴だ。
「じゃ、僕は戻ります」
「お夕飯は七時にするわね」
「はい」
廊下の一番突き当たりに並んだふたつのドア。
その右側の部屋に長政は入ったっきり静かだ。
僕は家を出て近くのドラッグストアで適当に手当てをするものを購入し長政の部屋のドアをノックした。反応はない。
「入るぞ」
一応言葉をかけながら部屋に入った。
長政はベッドに転がっており腕で顔を覆っている。寝ているようだった。買ってきたものを勉強机に置いて帰ろうとしたときギシリと長政が寝返りを打った。起こしたかと身構えるもすやすやと整った寝顔がこちらを向いていた。
ベッドに横になっていると見下される威圧感がなくなるが、今度は胸板の厚さに目を引く。呼吸に合わせゆっくりと繰り返される上下の動きになんだか人の温度を感じてしまう。
思わず唾を飲み込んでいた。
ドイツ系だと言っていたが、本当に綺麗なブラウンヘアだ。黒髪を染めたものとは艶が違くて毛質も柔らかそう。肌も日本人のそれとは少し違う気もする。
そんな白い肌の頬と顎に出来た擦り傷。
春休みにあった出来事をカケルが頬杖をついて聞いている。
「そんで弁当なわけね」
「…食いたくない」
「お母さんかわいそうだから俺が食べてあげる。巴は俺のを食べなよ。買ってきたパンだけど」
カケルが遠慮なく弁当を開ける。チラリと覗くとそれは唐揚げや卵焼きと色とりどりで、手作りらしく手間がかかっているのがありありと伝わる。いったい何時に起きて作っていたのだろう。……いや、今日は初日だから気合が入っているだけで明日からは作らないかもしれない。
「美味しいよ? また明日も貰ってきてよ僕のために」
カケルを無視して教室の窓の外に目をやる。
「…にしても、春休み中に言ってくれてたら愚痴聞いたし、連れ出してやったのにさ、水臭いじゃん」
頼られてないことにカケルは口を尖らせていた。
カケルはそう言うが僕はそんな気になれなかった。こういう人間関係にも僕は鈍感で、後からこうやって指摘されて、あぁそうかと思ってもその時カケルを思い出さなかったんだから仕方無かったよなと残酷なことを思ったりしてる。
三年にあがってクラスが別れてしまってもこうやって昼には僕のクラスにやってくる奴なのに、結局なんと言っていいのか言葉が見つからなくて黙ってしまう。
なんでカケルはこんなに温度差のある僕と一緒にいるのだろう。
しばらくぼんやり外を見ていると体育館の側で数人がもみ合っているのが見えた。こういう高校でもいわゆる不良というべきか血気盛んな男は一定数いる。
いつもは見向きもしないのだが、見覚えのあるブラウンヘアか見えたような気がしてガタリと椅子から立ち上がると窓から落ちそうなほど身を乗り出しそれを探した。危ないってと、カケルも後ろから覗く。
「あら、弟が暴れてるね」
目を付けられたんだろうか。
「目立つよね、あの容姿は。早速お兄ちゃん呼び出されるかもね」
案の定すぐ呼び出された。
「相手からは君の態度が悪かったと聞いている。まぁ、難癖付けたんだろう。こちらは君の髪色のことも編入前にご両親から伺っている、もう戻りなさい。先生からもお母さんに連絡はする」
職員室、生活指導の先生が胸の前で腕を組んで渋い顔をしている。長政はふてくされていた。
「親には連絡しないでください」
「そんなわけにはいかん」
「もう高校生ですよ? いちいち親に連絡しなくても」
「だがそういう訳にもいかんのだ」
長政と指導の教員との埒が明かない会話に、長政の隣で聞いてる僕はついに言葉を挟んでしまった。
「先生、今日は僕がちゃんと連れて帰ります。親には僕から伝えます。今日は初日ですので、勘弁してもらえないでしょうか。…お前ももう高校生だというなら喧嘩はよせ」
そこへ教頭がやってきた。
「分かった。初日だから目を瞑ろう、相手も同じくお咎め無しになるがそれは分かってくれるか?」
「もちろんです、ありがとうございます」
「では長政くんもそのまま授業を受けなさい、そして真っ直ぐ帰宅すること」
「はい」
長政が言い返そうとするのを制止し僕は教頭に頭を下げた。
放課後カケルと昇降口に降りるとかったるそうに壁に凭れている長政がいた。
「え、真面目?」
普通先に帰るだろとカケルが横で笑った。
「あ! おにーちゃん」
顔一つ分大きい長政にこう言われると本当に腹が立つ。乱暴に靴を履き替え学校を出る。
「ねぇ、弟」
「はい」
「長政くんだっけ、喧嘩負けてなかったね」
「そう、あと少しでヤれたんだけどね」
「こわーっ」
後ろで二人は楽しそうにしている。
カケルはふわふわと掴み所のないやつで、長政はそれに合わせられるようだった。あの生活も嫌ではないようだし順応が早いのだろうか。いや、全ては僕がそれを拒否しているからだな。
わかってる、わかっているんだ……
「おかえりなさい、ふたり一緒? 今夜はカレーですよ」
玄関を開けるとスパイスの良い香りとともにごきげんな声がキッチンから聞こえる。
長政は僕を追い越してさっさと自分の部屋に閉じこもった。僕は弁当箱を差し出す。気まずそうに受け取った継母はそれが軽くなっていることに気がつくと笑顔になった。
「あの、」
「気を遣わせてごめんなさい、ありがとう」
「いいえ……」
ありがとうとは、なんだ。
ごちそうさまでしたとはどうしても言えなかった。
「それより長政はどうしたのかしら、お腹すいてないのかな、いつもなら夕飯の前でもなにか食べるのに」
それより、ね。
「初日で緊張して疲れた…とか?」
「あまり緊張するタイプじゃないんだけど…」
たしかに顔合わせのとき遅刻までした奴だ。
「じゃ、僕は戻ります」
「お夕飯は七時にするわね」
「はい」
廊下の一番突き当たりに並んだふたつのドア。
その右側の部屋に長政は入ったっきり静かだ。
僕は家を出て近くのドラッグストアで適当に手当てをするものを購入し長政の部屋のドアをノックした。反応はない。
「入るぞ」
一応言葉をかけながら部屋に入った。
長政はベッドに転がっており腕で顔を覆っている。寝ているようだった。買ってきたものを勉強机に置いて帰ろうとしたときギシリと長政が寝返りを打った。起こしたかと身構えるもすやすやと整った寝顔がこちらを向いていた。
ベッドに横になっていると見下される威圧感がなくなるが、今度は胸板の厚さに目を引く。呼吸に合わせゆっくりと繰り返される上下の動きになんだか人の温度を感じてしまう。
思わず唾を飲み込んでいた。
ドイツ系だと言っていたが、本当に綺麗なブラウンヘアだ。黒髪を染めたものとは艶が違くて毛質も柔らかそう。肌も日本人のそれとは少し違う気もする。
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