スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第11話 スラムへ

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 新たにリリーを仲間に加え、箱庭の住人は二十一人になった。そしてレイは住人なったリリーに家を与えた。

「はわぁ~! この家もらって良いのっ!?」
「もちろん。箱庭の住人に加わってくれたおれいね」
「これで宿代浮くなのっ。しかも長旅でもベッドで寝られるとか最高なのっ」
「ふふっ、それだけじゃないぞリリー」
「へ?」

 レイは冒険者ならではの悩みに革命をもたらした。

「例えばダンジョン! 僕のスキルがあればどこでも休める上に飢える心配もないっ」
「お、おぉ~っ! 確かに!」
「さらに! いつでも清潔さを保て、住人がいれば孤独関係から地上に戻りたくなる事もないっ」
「た、確かになのっ! 改めて考えたら凄いスキルなのっ!」
「住人が増えれば増えるだけもっと快適になるだろうしね。けど誰かれ構わず住人にする気はないよ。今後も本当に困っていて行き場のない人達を迎え入れていくつもりさ」
「うん。ところでっ、なんか魔獣いたよね? なにあれなのっ」

 さすがは冒険者だ。わずかな時間でも魔獣の姿は見逃さなかった。

「箱庭の力を試すために協力してもらったんだよ。何故かこの中に入ると大人しくなるんだよね。だから今は魔獣の生態を知るためにも開放しないで飼育してるんだよ」
「魔獣を飼育……。【隷属の首輪】を嵌めて操る事はあるけど、素であんなに大人しいのは初めて見るなの」
「隷属の首輪? ああ、魔獣使いが使ってるあれか」

 レイは学生時代に習っていた事を思い出した。世界には魔獣使いとよばれるスキルがあり、魔獣使いはスキルで魔獣を従えるための首輪を生み出せる。中にはその首輪を悪用し人間に嵌める者もいるが、発覚し次第死罪となる。

「魔獣が大人しくしてるのはこの中だけなの?」
「それはわからないな。まだ外に出してないんだ」
「だったらそれも要検証なのっ。エルドニアに着いたら色々捕獲するのっ」
「そうだね。弱い魔獣なら簡単に捕獲できそうだし、万が一があっても対処可能だからね」
「ふふっ、なんか楽しくなってきたなのっ」
「そうだね。わからない事を知るって楽しいよね」

 その後、箱庭の中で一夜を明かした二人は翌朝宿屋の部屋に戻った。

「じゃあ行こうか。行き先はスラムだ。人気のない場所で箱庭を開いて住人達を出す。それから新しく移住したい住人を勧誘してもらってこっそり箱庭に移住させる」
「見張りは任せてなのっ」
「うん、任せた。さあ、住人を迎えに行こう」
「お~なのっ」

 階段を下り受付に部屋の鍵を返す。時刻は早朝、まだ歩いている人がまばらな内にスラムに入り路地裏で箱庭から住人達を出した。

「皆さん、犯罪者以外なら受け入れますのでよろしくお願いしますっ」
「おうっ、さっそく知り合いに当たってくるぜ」
「俺もパンで気をひきながら話してみるわ」
「あの、レイさん? 生きるために自分を売ってた人は犯罪者に入るのかな?」
「悪意がなければ大丈夫だと思いますよ。もし入れなかった場合は食糧とか渡して謝りましょう」
「わかったわ」

 それから各自手分けしてスラムの住人に声を掛けて回り、日暮れ時にはほぼ全てではないかと思うほどスラム中から人が集まっていた。

「頼むっ! スラムから出られんなら何でも手伝う!」
「私もっ! 嫌な思いしないで良いなら喜んで行くわっ」

 中にはこんな住人もいた。

「話がうますぎる。見てから決めさせてもらうぜ」
「構いませんが他言無用です。もし騒ぎになれば皆さんが住む場所は失われ、最悪戦の道具にされてしまいます」
「わ、わかった」
「では皆さん、今から僕の世界に案内します。こちらの扉から中へ」

 レイは建物にあった地下室で箱庭を開きスラムの住人三十人を箱庭の中に移動させた。箱庭の中に入ったスラムの住人達は皆一様に驚きの声を挙げる。

「これがスキルの世界!? 普通の世界と変わらないじゃないか!」
「そう思うだろ? だが驚くにはまだ早ぇ。レイの旦那、こいつに家を出してやってくれ」
「普通の一軒家で良い?」
「いや、こいつ元々料理人でな。できたら食堂みたいな家が良いな」
「食堂ね。う~ん……」

 レイはメニューとにらめっこし悩む。

「ごめん、まだ無理みたいだ。先に住人になってもらえたら可能になるかも」
「だってよ。どうする?」
「……また料理人として生きられるのか? 借金で諦めた夢をもう一度追いかけられんのかっ!?」
「ああ。ここはそういう世界だ。詐欺師も悪党もいねえわ。レイの旦那は皆がやりたい事を応援してくれんだよ」

 すると次々とスラムの住人達から建物のリクエストが舞い込んできた。

「あ、あたし道具屋やりたかったんだよ!」
「私はマッサージ店かしら~」
「俺は酒造りだ!」
「なら俺は酒場だ!」
「私は服屋をやりたいわっ」

 他は農家や林業希望だったが、この移住が初めて箱庭の中に商店が生まれる切っ掛けとなった。

「わかりました。では皆さん先に住人になるかどうかもう一度考えて下さい。そして考えが決まった方は挙手をし住人になると宣言して下さい」

 大人から子どもまで箱庭に入った全ての人間が間髪入れず住人になると宣言した。

「レ、レイ! 木が! 世界樹が!」
「え? わっ!?」

 住人が増えた途端世界樹が光り輝きながらすくすくと成長していった。その光が収まった後、レイはおもむろに世界樹に触れた。

《たった今箱庭の住人が五十人を超えました。よって神より特別ボーナスが与えられます。以下から選択して下さい》
「きたっ! 特別ボーナス──ッ!」

 レイは提示された選択肢を見る。

「【地形操作】に【特別家屋タイプ増加】に【魔獣牧場】か」

 選択肢は三つあった。それぞれ詳しく見ていき、内容を把握する。

・地形操作は箱庭の地形を変更できる。これにより平地だけではなく、山や川、海なども作成可能となる。

・特別家屋タイプ増加は住人増加では得られない特別な家屋タイプを増やせる。主に住居メインではない建物が造れるようになる。

・魔獣牧場は箱庭内にいる全ての魔獣から一日に一度リスクなしで素材だけを回収できる施設。素材は収納箱に保存される。

 レイは悩んだ。

「こ、これは悩むっ! 住人の希望を汲むなら特別家屋なんだろうけど……! ここに海や山、川ができたり魔獣の素材だけ毎日回収できたり……! ど、どうしたら良いんだ!」

 悩むレイに最年長者であるリリーが道を示した。

「悩む事ないなのっ」
「え?」
「まずは住む場所なのっ! ここは皆が幸せになる場所なの。魔獣牧場ならもっと魔獣を増やしてからで良いなの。家を作ってエルドニアに行って手当たり次第魔獣を捕獲して全部もらっちゃうなのっ!」
「……っ! て、天才か! 魔獣牧場なら毎日肉が食べられるようになるけど本当に家で良いんだな?」

 するとリリーは意見をころっと変えた。

「魔獣牧場が一番なのっ! 家なんか一番最後で良いなのっ。住めればそれで良いなのっ」
「ええぇ……」
「ちょっ、リリーさん! そりゃないっすよ! スラムの奴ら可哀想っすよ」

 見ると店を始められると思っていた人達がかなり落ち込んでいた。だがリリーはさらに追い込みをかけていく。

「店をやるにしてもここでは野菜しか採れないなのっ。魔獣牧場ならリリーとレイで色々な魔獣を捕まえて素材もゲットなの! そしたらすぐにまたボーナスが入るなのっ」
「な、なるほど」
「少しの辛抱でより良い生活ができるなのっ」
「ちょっと説得してくるか」

 その後、話し合いで最初の発展ボーナスは【魔獣牧場】に決まったのだった。
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